上 下
13 / 109
第一章【イファスアの街編】

魔法の特訓

しおりを挟む
数日後、村田とライトは爽やかな空気を背に、イファスアの街から数分ほど歩いた林へ来ていた。
足元には落ち葉がカサカサと音を立て、彼らの静かな会話が周囲に響く。
広場のような場所には切り株がいくつか転がり、
木の枝には的代わりのフライパンが大量にぶら下がっていた。
村田はこの場所を見渡し、子供の頃に作った秘密基地を思い出すように微笑んだ。

「ここでいつも特訓してるんだー」とライトが言うと、
村田は「静かでいい場所だな」と感心しながら答えた。

村田は近くの切り株に歩いて荷物を置いた。
彼の眼差しは、未知の体験への期待で輝いていた。

「よいしょ、じゃあ早速始めるからよく見ててね」

とライトが言うと、村田は黙ってうなずき、目をしっかりと開いてライトの動作に注目した。
ライトの顔つきが一変し、真剣な表情を浮かべる。
人差し指を少し前に突き出すと、真っ赤な炎がふいに現れた。
それをフライパン目掛けて放つと、見事命中し「カコンッ」という心地よい音が響いた。
続けざまにマシンガンの如く残りのフライパンに当て続ける。

「こんな感じ!」
とライトは得意げに言い、村田は驚愕と感嘆の表情でその場面を見つめていた。
正直木が燃えないかという心配もあったが、ライトのコントロールの精度は村田を安心させた。
村田はライトの魔法の才能に感心しつつも、自分自身の無力さを痛感していた。

「なぁライト、俺にも魔法って使えるのか?」

「..なんかシュンからはできるって感じがしないんだよねー」

純粋な子供からのストレートな発言に村田は少し傷ついた。
彼の表情は一瞬曇り、
「うっ..そうか、センスないのか俺..」
と落胆した声を漏らした。

「そうだ!ならシュン的になってよ!」
ライトの突然の提案に、村田は驚きと戸惑いを隠せなかった。

「..は?」
と彼は困惑の声を上げた。

「動く的が欲しいなーって思ってたんだよねー」
彼の目には、無邪気ないたずら心が輝いていた。

「お、おいライト、勝手に話を進めるんじゃ----」
ライトは村田に向かって火を放つ。

反射的に身を避けた村田は、ライトの不意打ちに驚いた表情を浮かべ、
「あっぶねぇな!燃えるだろ!」
と叫んだ。
彼の目は驚きで大きく開き、慌てて身を守る動きをした。

「ほら避けて避けてー!」
ライトは楽しそうに叫びながら、次々と炎を放っていく。
彼の動きは軽やかで、その子供らしい無邪気さが際立っていた。

「ちょっまじか..」
と村田が小さく呟きながら、木を遮蔽物にして巧みに避けた。

その時、彼は急に気づいた。
「ん?木を遮蔽物に..火....」

「おおぉい!燃えとる!」
と村田はパニックに陥りながらライトに叫んだ。
火が木に燃え移り、煙が立ち込め始めていた。

ライトに伝えようと木から顔を覗かせた瞬間、突然顔面に物凄い水圧がかかる。
「燃えてぶべぇ!」
村田は目をこすりながら状況を把握しようとした。
どうやらライトは水の魔法を使い、火を消したみたいだ。

「いぇーい、僕の勝ちだね!」
とライトは満足げに叫んだ。彼の顔には勝利の笑みが浮かんでいた。

村田は一瞬固まった後、ライトの事を全速力で追いかけ始めた。
「こんのクソガキがぁ!」
彼は濡れた服を気にすることなくライトの事を物凄い形相で追いかける。

ライトの魔法といたずら心に振り回されながらも、なんやかんや村田はこの新しい世界での日々を楽しんでいた。
そしてこの特訓メニューは今後頻繁に行われるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...