君だけに恋を囁く

煙々茸

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君恋7

7-13

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(気付かれていた? 俺の気持ちが、神条さんに……?)
 放心する俺に、榊さんが肩を竦ませた。
「雪乃はああ見えて、鋭いからな。お前と同じで同性にも好かれる奴だろ。そういうニオイに敏感なんだろうな」
「……」
「アイツが気付いていたから、俺は優一に対する自分の気持ちを打ち明けたんだ。優一と雪乃のことは俺が口出しすることじゃあないだろ」
 ポンと頭に手を置かれる。
「ま、すっきりしないことがあるなら、雪乃に伝えればいい」
 そう言いながら俺の髪を掻き回した。
「……別に、今更あの人に伝えることなんか、ありませんよ……」
「そうか?」
「そうですよ……」
(俺が今好きなのは……あんたなんだからな……)
 口に出して言うには、それこそ今更感があって躊躇われる。
 乱された髪を手櫛で整え、手持無沙汰に俯く。
(なんか色々ありすぎて、疲れたな……)
 泣き過ぎたせいもあって、頭がボーっとする。
「榊さん、すみません。俺……もう眠くて……」
 上体をまた布団へ横たえ、瞼をゆっくり動かす。
 榊さんは一度俺から離れると、電気を消して戻って来た。
 そして俺の布団に入ってきて、後ろから抱き締めた。
「あ、の……榊さん?」
「もういいだろ。俺にはこうする権利があるんだから」
「それは――」
(そうだけど……、いろいろ分かった後だし、すっげえ恥ずかしいっつの)
 最初はドキドキして眠れるか不安もあったが、榊さんは思いの外ジッと俺を抱きしめているだけで、いつの間にか安心し切って徐々に瞼が落ちて行った。
 意識を手放す瞬間、優しく頬に何かが触れたが、それを認識する前に完全に眠りに落ちた。


 *****


 おはようのキスは昨日もしたが、こうも気持ちのあり方が違うとまったく別物に感じるのは不思議だ。
(ま、昨日までのは一方的にされたに過ぎないんだけどな)
 唇が離れると、どう反応したらいいのか……困る。
「今日は嫌がらないんだな」
「! ――そうやってからかうなら全力で拒否ってやってもいいんですけどねッ」
「俺はお前の為に昨日は我慢してやったんだ。素直にありがとうくらい言えないのか」
「あんたの事情なんか知らないし、恩着せがましい言い方しないで下さいよっ」
 今まで通り、俺を弄る事は止めてくれないらしい。
 それでも、前とは少し違った、嬉しそうな表情が混じっていると、俺の方が先に折れてしまうのが少し悔しい。
(これが、惚れた弱みってやつか……。厄介だな)
 視線を落とすと、大きな手が俺の頬を撫でた。
「優一、どうかしたか?」
「……いえっ。それより急がないと、また小笠原に文句を言われ兼ねない」
 頬の火照りを誤魔化すように、言い訳をして支度を始めた。
(二人でいると間が持たねぇ……)


 ……――。

(いや、二人だけじゃなくても同じだな)
 場所は大広間。
 朝食時――。
 早速俺は溜息を零した。
(忘れてたわけじゃねえんだけど……な……)
 目の前にはニコニコと心底楽しげな顔で、俺と榊さんを交互に見つめる神条さんがいた。
 俺は隣に座る榊さんに声を顰めた。
「ちょっとあの人、どうにかならないんですかっ? 凄く居たたまれないんですけど……」
「そのうち飽きるだろ。帰るまでの辛抱だ」
「はぁ……」
 帰るまでの辛抱。
 確かにそうだが……。
 この先、神条さんのように知ってもらわなければならない人間がいると思うと、不安に思わずにはいられなかった。



 君恋7/終
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