70 / 74
君恋7
7-9
しおりを挟む
「神条さんはこれからですか?」
「そうなんだよ~。さっきまで槙人と一緒だったから、つい遅くなっちゃって」
(だからあの人部屋に居なかったのか。それより、この人なんか様子変だな……)
真相が分かって少しスッキリはしたが、今度はこっちが気になった。
「打ち合わせか何かだったんですか? あ、俺いなくて大丈夫でした?」
「ああ大丈夫大丈夫~。久し振りの再会だから、ちょっと二人で飲んでただけだし。今度は優一も一緒に飲もうね~♪」
(酒か! 通りでいつも以上に緩くなってるわけだ……)
「そんなに飲んで大丈夫なんですか? 神条さん、酒あんまり強くないでしょうに……」
「だいじょぶだってえ! これからお風呂で酒抜くから~」
「お風呂では抜けませんよ! 逆に危険ですからっ! ちゃんと外で酔い醒ましてから入って下さいよ」
「え~~優一ってば真面目過ぎ~~」
口を尖らせながら、神条さんはふざけて俺に擦り寄って来た。
「そんなんじゃあ、恋人できないぞ~?」
「……はいはい、余計なお世話ですから。とっとと醒まして来て下さい」
前までの俺なら、心臓の一つや二つ爆発していたことだろう。
それがどうだ。
今じゃ驚きはしてもあのドキドキ感はほとんどないのだ。
(本当、不思議だよな……)
余裕で彼の背中を擦って宥めたりもできる。
「ほら、なんなら俺も付き合いますから、とりあえず部屋に戻りましょうか?」
「ん~~」
このまま寝落ちするんじゃないかと心配になり顔を覗き込む。
「神条さ――………」
不意に強い力に引き寄せられたかと思えば、俺の唇に神条さんのそれが触れていた。
(今どうなってんだこれ!? 何で俺と神条さんが――!!??)
思いの外しっとりとした感触に、動揺を隠せない。
そこへ、更に追い打ちという偶然が重なった。
「優一か? 何をさっきから騒いでるんだ……」
戸の開く音が直ぐ傍から聞こえ、呼び掛けられて咄嗟に絡みつく腕を解く。
「さっ……」
(榊さん!!? 今見られたか? 見られたよな絶対っ)
眼鏡の奥で僅かに揺れる瞳は、数秒前の出来事を映していたかは定かじゃない。
が、タイミング的に悪い結果な気がする。
「……雪乃は風呂に行こうとしてるのか?」
(あ、れ? ……もしかして見られてない?)
自然な足取りで神条さんに近付き、手を貸す榊さんに少しばかり拍子抜けしてしまう。
それならそれで好都合だが、まだ見られていないと決まったわけじゃない。
「あれ……槙人……? どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ。まだ少し風呂に行くのは我慢しろと言っただろう」
「えー……優一といい槙人といい、ホントに過保護なんだから……。もう大丈夫だよ」
「雪乃」
「分かってる。ちゃんと部屋で休むよ。あと、部屋のお風呂を使うことにするから、もう心配無用だよ」
さっきまでとは打って変わってしっかりした口調。
そして、意味深に口端を軽く持ち上げた。
「優一、ごめんね」
「はい……?」
「それじゃあお二人さん、おやすみ」
神条さんは笑顔で手を振り、俺達に背を向けて、軽い足取りで部屋へ戻って行った。
(酔っ払ってキスしたことへの謝罪か? それにしちゃあ軽い気が……)
納得いかずに眉を寄せ、小さくなる背中を見送っていると、脇から腕を引っ張られた。
「お前は風呂上がりだろ。湯冷めするから早く部屋入れ」
「ちょ、そんな引っ張らなくても入りますからっ」
榊さんに急かされながら、松の間の入口を潜った。
「そうなんだよ~。さっきまで槙人と一緒だったから、つい遅くなっちゃって」
(だからあの人部屋に居なかったのか。それより、この人なんか様子変だな……)
真相が分かって少しスッキリはしたが、今度はこっちが気になった。
「打ち合わせか何かだったんですか? あ、俺いなくて大丈夫でした?」
「ああ大丈夫大丈夫~。久し振りの再会だから、ちょっと二人で飲んでただけだし。今度は優一も一緒に飲もうね~♪」
(酒か! 通りでいつも以上に緩くなってるわけだ……)
「そんなに飲んで大丈夫なんですか? 神条さん、酒あんまり強くないでしょうに……」
「だいじょぶだってえ! これからお風呂で酒抜くから~」
「お風呂では抜けませんよ! 逆に危険ですからっ! ちゃんと外で酔い醒ましてから入って下さいよ」
「え~~優一ってば真面目過ぎ~~」
口を尖らせながら、神条さんはふざけて俺に擦り寄って来た。
「そんなんじゃあ、恋人できないぞ~?」
「……はいはい、余計なお世話ですから。とっとと醒まして来て下さい」
前までの俺なら、心臓の一つや二つ爆発していたことだろう。
それがどうだ。
今じゃ驚きはしてもあのドキドキ感はほとんどないのだ。
(本当、不思議だよな……)
余裕で彼の背中を擦って宥めたりもできる。
「ほら、なんなら俺も付き合いますから、とりあえず部屋に戻りましょうか?」
「ん~~」
このまま寝落ちするんじゃないかと心配になり顔を覗き込む。
「神条さ――………」
不意に強い力に引き寄せられたかと思えば、俺の唇に神条さんのそれが触れていた。
(今どうなってんだこれ!? 何で俺と神条さんが――!!??)
思いの外しっとりとした感触に、動揺を隠せない。
そこへ、更に追い打ちという偶然が重なった。
「優一か? 何をさっきから騒いでるんだ……」
戸の開く音が直ぐ傍から聞こえ、呼び掛けられて咄嗟に絡みつく腕を解く。
「さっ……」
(榊さん!!? 今見られたか? 見られたよな絶対っ)
眼鏡の奥で僅かに揺れる瞳は、数秒前の出来事を映していたかは定かじゃない。
が、タイミング的に悪い結果な気がする。
「……雪乃は風呂に行こうとしてるのか?」
(あ、れ? ……もしかして見られてない?)
自然な足取りで神条さんに近付き、手を貸す榊さんに少しばかり拍子抜けしてしまう。
それならそれで好都合だが、まだ見られていないと決まったわけじゃない。
「あれ……槙人……? どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ。まだ少し風呂に行くのは我慢しろと言っただろう」
「えー……優一といい槙人といい、ホントに過保護なんだから……。もう大丈夫だよ」
「雪乃」
「分かってる。ちゃんと部屋で休むよ。あと、部屋のお風呂を使うことにするから、もう心配無用だよ」
さっきまでとは打って変わってしっかりした口調。
そして、意味深に口端を軽く持ち上げた。
「優一、ごめんね」
「はい……?」
「それじゃあお二人さん、おやすみ」
神条さんは笑顔で手を振り、俺達に背を向けて、軽い足取りで部屋へ戻って行った。
(酔っ払ってキスしたことへの謝罪か? それにしちゃあ軽い気が……)
納得いかずに眉を寄せ、小さくなる背中を見送っていると、脇から腕を引っ張られた。
「お前は風呂上がりだろ。湯冷めするから早く部屋入れ」
「ちょ、そんな引っ張らなくても入りますからっ」
榊さんに急かされながら、松の間の入口を潜った。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
竜王妃は家出中につき
ゴルゴンゾーラ安井
BL
竜人の国、アルディオンの王ジークハルトの后リディエールは、か弱い人族として生まれながら王の唯一の番として150年竜王妃としての努めを果たしてきた。
2人の息子も王子として立派に育てたし、娘も3人嫁がせた。
これからは夫婦水入らずの生活も視野に隠居を考えていたリディエールだったが、ジークハルトに浮気疑惑が持ち上がる。
帰れる実家は既にない。
ならば、選択肢は一つ。
家出させていただきます!
元冒険者のリディが王宮を飛び出して好き勝手大暴れします。
本編完結しました。
最愛を亡くした男は今度こそその手を離さない
竜鳴躍
BL
愛した人がいた。自分の寿命を分け与えても、彼を庇って右目と右腕を失うことになっても。見返りはなくても。親友という立ち位置を失うことを恐れ、一線を越えることができなかった。そのうちに彼は若くして儚くなり、ただ虚しく過ごしているとき。彼の妹の子として、彼は生まれ変わった。今度こそ、彼を離さない。
<関連作>
https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/745514318
https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/186571339
R18にはなりませんでした…!
短編に直しました。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる