君だけに恋を囁く

煙々茸

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君恋7

7-4

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「みんなと一緒じゃなかったのか」
「それはこっちのセリフですよ。榊さんこそ、どうしたんですか?」
「俺は人混みを避けたくて非難してたんだが。店長二人がここにいるのは拙いだろう」
「ちょっと、人のせいみたいに言わないで下さいよ。ちゃんと向こうに戻るんで、ご心配なく」
「答えになってないだろう」
 通り過ぎようとする俺の腕を、榊さんが掴んできた。
 俺は視線を合わせない様遠くに向けて口を開く。
「答えって……別に榊さんには関係ないですから」
 つい、キツイ言い方になってしまい唇を引き結ぶ。
 どうしてこの人相手だと素直になれないのか、俺自身分からない。
 腕に込められた力が、僅かに緩んだ。
「関係ない、か……。それは俺のことはどうでもいいということか?」
「っ……」
 ズキンッ。
 胸が痛んで顔を顰める。
(どうしてこういう時だけ、そんな弱い声出すんだよ。俺のせいだってのは分かってるけど、あんたらしくなくて変だろ……)
 そして、腕にあった熱が、完全に消えて楽になった。
 いや、少しばかり寂しく感じた……。
「引き止めて悪かった。早く行ってアイツ等の面倒を見てやってくれ」
 人任せかよ、と罵声を浴びせたいところだが、一緒に行くことを今はどっちも望んではいない。
「……お土産、置きに来ただけですから。すみませんでした」
 俺はそれだけ言い残してその場を離れた。

 みんなの姿を探すが、気持ちが上がって来ない。
(なんか、あの人と会話を重ねる度に、空気が悪くなる気がするな……)
 結局、あの時どんな顔をしていたか見られなかった。
 らしくない弱い声を聞いただけで、胸が潰れそうに痛んだからだ。
(いつもなら平気な顔で言い返してくるくせに。だからこんなに……っ)
 痛んだ胸に拳を押し当てる。
(あーっ。なんか段々腹立ってきた! なんで俺がこんなに悩まなきゃならねんだっ)
「はぁ……。止めよう。折角の旅行なんだし」
 周りの楽しげな声を聞いていたら、なんだかどうでも良くなってきた。
 あの人のことで悩む時間こそ勿体ない。
(あれ。なんか良い匂いがするな)
 これはコーヒーの薫りだ。
 脇にある小さなカフェから漂ってくる。
 そこへ歩み寄り、外に出ているボードに視線を落とす。
(期間限定のソフトクリーム? 濃厚なのか。昼までまだ少し時間あるし、食べてみるかな)
 今日も晴天で残暑があり、体が甘い物を求めていた。
「うわ。美味しそうですね」
「そうでしょう? 今週一杯までなんで、お兄さんギリギリセーフですよ」
 カフェの店主らしき人からソフトクリームを受け取った。
「良かったらそこのテラスで食べていかないかい? お兄さん絵になるから助かるんだけどねぇ」
「あはは。それで人が寄ってくるかは、分かりませんよ?」
「ダメかい?」
「そうですね……。高くつきますが」
 俺は冗談と受け取って冗談で返す。
 そりゃ参った、と笑う店主に会釈をしてソフトクリームを片手に店を出た。
(ん、美味いな。想像以上に濃厚だ)
 人とぶつからないように店から離れて食べる。
「アイツ等、どこ行ったかな……」
 独り語ちながら視線を巡らせると、大柄な男がこっちに気付いて近付いて来た。
「誰かと思ったら、片山さんでしたか」
「自分は直ぐに分かりましたよ」
 笑みを浮かべる片山さんに首を傾げる。
「そうですか? ここ、結構死角になってると思ったんですが……」
「それでも、分かる人には分かります」
 片山さんの優しげな視線に、少し照れ臭く思う。
 俺は溶けかけたソフトクリームを慌てて舐めた。
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