65 / 74
君恋7
7-4
しおりを挟む
「みんなと一緒じゃなかったのか」
「それはこっちのセリフですよ。榊さんこそ、どうしたんですか?」
「俺は人混みを避けたくて非難してたんだが。店長二人がここにいるのは拙いだろう」
「ちょっと、人のせいみたいに言わないで下さいよ。ちゃんと向こうに戻るんで、ご心配なく」
「答えになってないだろう」
通り過ぎようとする俺の腕を、榊さんが掴んできた。
俺は視線を合わせない様遠くに向けて口を開く。
「答えって……別に榊さんには関係ないですから」
つい、キツイ言い方になってしまい唇を引き結ぶ。
どうしてこの人相手だと素直になれないのか、俺自身分からない。
腕に込められた力が、僅かに緩んだ。
「関係ない、か……。それは俺のことはどうでもいいということか?」
「っ……」
ズキンッ。
胸が痛んで顔を顰める。
(どうしてこういう時だけ、そんな弱い声出すんだよ。俺のせいだってのは分かってるけど、あんたらしくなくて変だろ……)
そして、腕にあった熱が、完全に消えて楽になった。
いや、少しばかり寂しく感じた……。
「引き止めて悪かった。早く行ってアイツ等の面倒を見てやってくれ」
人任せかよ、と罵声を浴びせたいところだが、一緒に行くことを今はどっちも望んではいない。
「……お土産、置きに来ただけですから。すみませんでした」
俺はそれだけ言い残してその場を離れた。
みんなの姿を探すが、気持ちが上がって来ない。
(なんか、あの人と会話を重ねる度に、空気が悪くなる気がするな……)
結局、あの時どんな顔をしていたか見られなかった。
らしくない弱い声を聞いただけで、胸が潰れそうに痛んだからだ。
(いつもなら平気な顔で言い返してくるくせに。だからこんなに……っ)
痛んだ胸に拳を押し当てる。
(あーっ。なんか段々腹立ってきた! なんで俺がこんなに悩まなきゃならねんだっ)
「はぁ……。止めよう。折角の旅行なんだし」
周りの楽しげな声を聞いていたら、なんだかどうでも良くなってきた。
あの人のことで悩む時間こそ勿体ない。
(あれ。なんか良い匂いがするな)
これはコーヒーの薫りだ。
脇にある小さなカフェから漂ってくる。
そこへ歩み寄り、外に出ているボードに視線を落とす。
(期間限定のソフトクリーム? 濃厚なのか。昼までまだ少し時間あるし、食べてみるかな)
今日も晴天で残暑があり、体が甘い物を求めていた。
「うわ。美味しそうですね」
「そうでしょう? 今週一杯までなんで、お兄さんギリギリセーフですよ」
カフェの店主らしき人からソフトクリームを受け取った。
「良かったらそこのテラスで食べていかないかい? お兄さん絵になるから助かるんだけどねぇ」
「あはは。それで人が寄ってくるかは、分かりませんよ?」
「ダメかい?」
「そうですね……。高くつきますが」
俺は冗談と受け取って冗談で返す。
そりゃ参った、と笑う店主に会釈をしてソフトクリームを片手に店を出た。
(ん、美味いな。想像以上に濃厚だ)
人とぶつからないように店から離れて食べる。
「アイツ等、どこ行ったかな……」
独り語ちながら視線を巡らせると、大柄な男がこっちに気付いて近付いて来た。
「誰かと思ったら、片山さんでしたか」
「自分は直ぐに分かりましたよ」
笑みを浮かべる片山さんに首を傾げる。
「そうですか? ここ、結構死角になってると思ったんですが……」
「それでも、分かる人には分かります」
片山さんの優しげな視線に、少し照れ臭く思う。
俺は溶けかけたソフトクリームを慌てて舐めた。
「それはこっちのセリフですよ。榊さんこそ、どうしたんですか?」
「俺は人混みを避けたくて非難してたんだが。店長二人がここにいるのは拙いだろう」
「ちょっと、人のせいみたいに言わないで下さいよ。ちゃんと向こうに戻るんで、ご心配なく」
「答えになってないだろう」
通り過ぎようとする俺の腕を、榊さんが掴んできた。
俺は視線を合わせない様遠くに向けて口を開く。
「答えって……別に榊さんには関係ないですから」
つい、キツイ言い方になってしまい唇を引き結ぶ。
どうしてこの人相手だと素直になれないのか、俺自身分からない。
腕に込められた力が、僅かに緩んだ。
「関係ない、か……。それは俺のことはどうでもいいということか?」
「っ……」
ズキンッ。
胸が痛んで顔を顰める。
(どうしてこういう時だけ、そんな弱い声出すんだよ。俺のせいだってのは分かってるけど、あんたらしくなくて変だろ……)
そして、腕にあった熱が、完全に消えて楽になった。
いや、少しばかり寂しく感じた……。
「引き止めて悪かった。早く行ってアイツ等の面倒を見てやってくれ」
人任せかよ、と罵声を浴びせたいところだが、一緒に行くことを今はどっちも望んではいない。
「……お土産、置きに来ただけですから。すみませんでした」
俺はそれだけ言い残してその場を離れた。
みんなの姿を探すが、気持ちが上がって来ない。
(なんか、あの人と会話を重ねる度に、空気が悪くなる気がするな……)
結局、あの時どんな顔をしていたか見られなかった。
らしくない弱い声を聞いただけで、胸が潰れそうに痛んだからだ。
(いつもなら平気な顔で言い返してくるくせに。だからこんなに……っ)
痛んだ胸に拳を押し当てる。
(あーっ。なんか段々腹立ってきた! なんで俺がこんなに悩まなきゃならねんだっ)
「はぁ……。止めよう。折角の旅行なんだし」
周りの楽しげな声を聞いていたら、なんだかどうでも良くなってきた。
あの人のことで悩む時間こそ勿体ない。
(あれ。なんか良い匂いがするな)
これはコーヒーの薫りだ。
脇にある小さなカフェから漂ってくる。
そこへ歩み寄り、外に出ているボードに視線を落とす。
(期間限定のソフトクリーム? 濃厚なのか。昼までまだ少し時間あるし、食べてみるかな)
今日も晴天で残暑があり、体が甘い物を求めていた。
「うわ。美味しそうですね」
「そうでしょう? 今週一杯までなんで、お兄さんギリギリセーフですよ」
カフェの店主らしき人からソフトクリームを受け取った。
「良かったらそこのテラスで食べていかないかい? お兄さん絵になるから助かるんだけどねぇ」
「あはは。それで人が寄ってくるかは、分かりませんよ?」
「ダメかい?」
「そうですね……。高くつきますが」
俺は冗談と受け取って冗談で返す。
そりゃ参った、と笑う店主に会釈をしてソフトクリームを片手に店を出た。
(ん、美味いな。想像以上に濃厚だ)
人とぶつからないように店から離れて食べる。
「アイツ等、どこ行ったかな……」
独り語ちながら視線を巡らせると、大柄な男がこっちに気付いて近付いて来た。
「誰かと思ったら、片山さんでしたか」
「自分は直ぐに分かりましたよ」
笑みを浮かべる片山さんに首を傾げる。
「そうですか? ここ、結構死角になってると思ったんですが……」
「それでも、分かる人には分かります」
片山さんの優しげな視線に、少し照れ臭く思う。
俺は溶けかけたソフトクリームを慌てて舐めた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる