45 / 74
君恋5
5-4
しおりを挟む
「本当にお久しぶりですね。お元気してました?」
「まあ、ぼちぼち」
「ぼちぼち? 体調、崩されてたんじゃないですか」
「え……」
榊さん同様、ビール瓶を傾けてくる彼に、半分ほど減ったグラスを差し出す。
「――……聞いたのか?」
「いいえ、はっきりとは。ただ、榊店長が変にそわそわしていたので、もしかしたらと」
いっぱいになったグラスを一旦テーブルに置く。
そして相手のビール瓶を受け取り、代わりに空いているグラスを渡してそれにビールをコポコポと注ぐ。
「ありがとうございます。――でも、本当に驚きましたよ。あの榊店長がミスまでしちゃうんですから。余程大事な考え事をしていたんでしょうね」
「ミス? ……でも、それが俺の事とは限らないんじゃ……」
「いいえ、だって、一号店に寄るって言って帰ったの一度や二度じゃないですからね。少し前なんて、家で待ってる奴がいるからって、店閉めたら足早に帰って行きましたし」
「……っ」
息を呑む俺に津田がクスリと笑う。
「やっぱり、それって英店長だったんですね」
確信を持たれてしまい、グッと喉が引き攣る。
この人と話していると簡単にボロが出てしまう。
「……はぁ、まいったな」
俺は観念して頷いた。
「確かに、それは俺だ。フェアが終わった直後に店でぶっ倒れて、その場に丁度榊さんがいたから看病して貰ったんだ」
「そうだったんですね……。でも、お元気になられて良かったです」
ホッと笑む津田に、俺も内心で安堵する。
変に誤解をされなくて良かった、と。
「改めて思いましたけど、英店長ってこういう場所似合わないですよね」
お互いビールを飲みながら会話を楽しむ。
「そうか? 俺も普通のおっさんなんだけどなあ」
「あはは。まだおっさんって歳じゃないじゃないですか。それに、英店長ならいくつになってもそんな代名詞は似合いませんよ」
津田は男の俺から見ても、爽やかで言動に気品のある青年だと思う。
「そっくりそのままお返しするよ」
「それはありがとうございます。英店長に言って頂けるのは光栄です」
裏切らない爽やかな笑顔で素直に受け取られると、こっちも悪い気はしない。
「津田みたいな奴、ウチの店にも欲しいな」
「行って差し上げましょうか? 週1くらいで」
「週1かよ。相変わらず二号店が好きなんだなー」
「二号店、というより……榊店長に惚れ込んでいるので」
「!? ――ゴホッ、ゴホッ!」
「あっ。大丈夫ですか?」
サラッと零した彼の言葉に思わず咽返る。
俺の背中を擦りながら、津田が補足した。
「もちろん、変な意味はないですよ。俺もいずれ店を出せたらいいなと思っているので、榊店長の下で働けば近道になる気がするんですよね」
そういう意味だと分かってはいたが、不意を突かれると俺の頭はその変な方に変換されてしまう。
(何この思考。榊さん、侵食し過ぎでしょ……)
自分のこれから先が怖くなって身震いした。
「悪いな、ありがとう」
「いえいえ。またそっちにも顔出すので、これからも宜しくお願いします」
「こちらこそ」
軽く頭を下げて席を立った津田に頬を緩める。
(最後まで礼儀正しい奴だよな、ホント。彼がいれば榊さんの苦労も減るか)
一号店で言うならば、片山さんと同じポジションか。
「まあ、ぼちぼち」
「ぼちぼち? 体調、崩されてたんじゃないですか」
「え……」
榊さん同様、ビール瓶を傾けてくる彼に、半分ほど減ったグラスを差し出す。
「――……聞いたのか?」
「いいえ、はっきりとは。ただ、榊店長が変にそわそわしていたので、もしかしたらと」
いっぱいになったグラスを一旦テーブルに置く。
そして相手のビール瓶を受け取り、代わりに空いているグラスを渡してそれにビールをコポコポと注ぐ。
「ありがとうございます。――でも、本当に驚きましたよ。あの榊店長がミスまでしちゃうんですから。余程大事な考え事をしていたんでしょうね」
「ミス? ……でも、それが俺の事とは限らないんじゃ……」
「いいえ、だって、一号店に寄るって言って帰ったの一度や二度じゃないですからね。少し前なんて、家で待ってる奴がいるからって、店閉めたら足早に帰って行きましたし」
「……っ」
息を呑む俺に津田がクスリと笑う。
「やっぱり、それって英店長だったんですね」
確信を持たれてしまい、グッと喉が引き攣る。
この人と話していると簡単にボロが出てしまう。
「……はぁ、まいったな」
俺は観念して頷いた。
「確かに、それは俺だ。フェアが終わった直後に店でぶっ倒れて、その場に丁度榊さんがいたから看病して貰ったんだ」
「そうだったんですね……。でも、お元気になられて良かったです」
ホッと笑む津田に、俺も内心で安堵する。
変に誤解をされなくて良かった、と。
「改めて思いましたけど、英店長ってこういう場所似合わないですよね」
お互いビールを飲みながら会話を楽しむ。
「そうか? 俺も普通のおっさんなんだけどなあ」
「あはは。まだおっさんって歳じゃないじゃないですか。それに、英店長ならいくつになってもそんな代名詞は似合いませんよ」
津田は男の俺から見ても、爽やかで言動に気品のある青年だと思う。
「そっくりそのままお返しするよ」
「それはありがとうございます。英店長に言って頂けるのは光栄です」
裏切らない爽やかな笑顔で素直に受け取られると、こっちも悪い気はしない。
「津田みたいな奴、ウチの店にも欲しいな」
「行って差し上げましょうか? 週1くらいで」
「週1かよ。相変わらず二号店が好きなんだなー」
「二号店、というより……榊店長に惚れ込んでいるので」
「!? ――ゴホッ、ゴホッ!」
「あっ。大丈夫ですか?」
サラッと零した彼の言葉に思わず咽返る。
俺の背中を擦りながら、津田が補足した。
「もちろん、変な意味はないですよ。俺もいずれ店を出せたらいいなと思っているので、榊店長の下で働けば近道になる気がするんですよね」
そういう意味だと分かってはいたが、不意を突かれると俺の頭はその変な方に変換されてしまう。
(何この思考。榊さん、侵食し過ぎでしょ……)
自分のこれから先が怖くなって身震いした。
「悪いな、ありがとう」
「いえいえ。またそっちにも顔出すので、これからも宜しくお願いします」
「こちらこそ」
軽く頭を下げて席を立った津田に頬を緩める。
(最後まで礼儀正しい奴だよな、ホント。彼がいれば榊さんの苦労も減るか)
一号店で言うならば、片山さんと同じポジションか。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる