君だけに恋を囁く

煙々茸

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君恋3

3-5

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 ジッと返答を待つ小笠原に、俺は小さく息を吐く……。
「……そりゃ、俺も最初はいろいろ覚えようって必死になったし、うっかりしたことには叱られもしたぞ」
 それよりも、意地悪された記憶の方が色濃く残っているのだが……。
(そんなこと話せるわけねーしな。――その理由が……っ)
 俺は咄嗟に下唇を噛んだ。
 危うく榊さんの告白を思い出して、顔を赤く染めるところだったからだ。
(あの人のことで赤くなるとかあり得ねーよ!)
「はい、優ちゃん。あーん」
「あ……?」
「じゃがいも。食べさせてあげる♡」
 口元に差し出された、きつね色に色付いたジャガイモを睨む。
「自分で食えるって」
「だーめ。ほらほらー、タレが落ちちゃうから早く!」
「ちょ、バっ……んぐ!」
 抗議しようと開いた口に無理矢理押し入って来たジャガイモに眉間に皺を寄せる。
「どう? 美味いっしょ?」
「んっ……美味いけど、お前強引過ぎだバカ野郎! 口にタレがついちまったじゃねーか」
「痛っ」
 軽く小笠原の頭に拳骨を落とし、顎まで伝いかけているタレを親指で拭った。
(人の目があるってのに、良く出来るなこんなこと……)
 相手が小笠原だからか、軽いノリについ受け入れてしまう雰囲気がある。
(俺だから、とか前に言ってたが……)
 今ここに榊さんがいないことに安堵する。
 もしいたら、また変につっかかってくるかもしれない。それだけは御免だ。
(……て、何考えてんだ俺はっ。別に、あの人がどう思おうが俺には関係ねーじゃねえか!)
「あの、店長」
「あ? ……あ、片山さん……何か?」
 つい流れで小笠原と同じ対応に出てしまい、自嘲気味の笑みを滲ませながら片山さんに小首を傾げる。
「まだ、ついてますよ」
「へ……?」
「ココ」
 そう言うと、彼は俺に手を伸ばし、あろうことか口元を濡れたおしぼりで拭った。
「――⁉」
「綺麗になりましたよ」
 俺はいろんな意味で、赤面を抑えきれず、思い切り身を引く。
「片山さんまでっ! そういうことは言ってくれれば自分でできますから‼」
 拭われた個所を手の甲で押さえてそう訴える。
(どいつもこいつも俺をガキ扱いしやがって! 俺は上司なんだぞ⁉ 分かってんのかコイツ等は‼)
「あっははは。優ちゃんってつい世話焼きたくやっちゃうんスよね~。美人だし反応が可愛いし♪ ……だからでしょ? 片山さん」
「……そうだな」
(そうだな⁉ っつか真顔で同意しないでくれ‼)
 もう色々と恥ずかし過ぎて声すら出せず唇を噛む。
「でも、店長ってそれだけじゃないと思いますよ?」
(ナイスだ日野! 言ってやれ!)
 酒のせいかほんのり顔を赤く染めている日野に、みんなが注目する。
「確かに美人で何事も卒なくこなしてカッコイイんですけど、たまにおっちょこちょいだったりするんですよね」
(……はい?)
 予想だにしなかった言葉にポカンと呆気に取られる。
「僕見ちゃったんですよ~。この間店長ってば、アイスコーヒーとウーロン茶、間違えてお客さんに出しちゃって、甘いウーロン茶なんて飲みたくなーいなんて言われて笑われてましたよね」
「ちょ! あ、あれは目が回る程忙しくて、つい確認を怠ったせいで……っ」
 やっとのことで弁解するも、それはあっさりスルーされた。
「あー、それならオレも見たっス! 前に事務室覗いた時、優ちゃんすっごく眠そうにパソコン見つめてて、コーヒーカップを取ろうとしたら、間違えて置時計取ってたんスよ! しかも間違えたことに気付かないまま……チュー♡」
「テメッ⁉ 盗み見してんじゃねーよ!」
「あの時計ってオーナーからのお土産でしたよね。カレンダー付きで、世界中の時刻が分かるって代物で」
(またスルーか……)
「そうそう。LEDライトで文字盤が光る仕組みなんスよね。あれ自分の部屋にも欲しかった!」
 日野と小笠原のトークにそろりと身を引く。
 もう怒る気にもならない。
(こいつ等、完璧に酔ってんな)
 俺もビールを呷りながら、焼けた肉を食べ進める。
 すると、ふいに内緒話をするように口に手を添えて顔を寄せてきた片山さんが、俺に囁いた。
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