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君恋3
3-2
しおりを挟む……――。
『調子はどう? 店長になって初のフェアだよね。頑張ってる?』
「はい。明日は新作メニューの試食会をする予定なんです。今日も話し合いましたよ」
『そっかー。順調なら何よりだよ。やっぱり、優一に任せて正解だったね』
「ハハ。正解かどうかは分かり兼ねますが」
時刻は夜の十一時。ヨーロッパ辺りは朝方だろうか。
俺は風呂から上がり、寝る支度をしながら端末を握って、オーナーの神条さんに近況報告をしていた。
『それじゃあ、もっと良いフェアになるように、アドバイスしてあげる』
「なんですか?」
『二号店の店長と、意見交換するといいよ。僕より榊店長の方がベテランだしね』
「え……や、それはちょっと……」
『? ……どうかした?』
神条さんに言えるわけがない。
その榊さんに――。
俺は彼に告白されたことを思い出して頭を振った。
「いえ、何でもありません」
『……そう? 何かあったらいつでも相談して』
「ありがとうございます」
『あはは。電話の時くらい、敬語じゃなくてもいいんだよ?』
「いや、まあ……でも、一応仕事なんで……」
『優一は真面目さんだねー。君らしいよ』
「それより、そっちはどうなんですか? まだヨーロッパに?」
『うん。来週はアジアに立ち寄って、それから帰国かな。まあ先の事はまだ分からないけれど』
「神条さんも相変わらずですね」
彼の自由気ままな生き方に、思わず笑いが零れる。
「ああそれから、フェアのことなんですが……――」
今日出た意見を神条さんに伝え、世間話も交えてお喋りし、通話を切ったのは日付が替わる数分前だった。
そして、翌日の試食会。
二時には店を閉めてスタッフ全員に集まってもらい、木村さんが用意してくれたメニューを少しずつ食べながら意見交換をしていく。
「――と、いうわけで、他に意見のある人ー?」
「はい」
日野がスッと手を挙げた。
それに俺は頷いて意見を促す。
「あの、これにゼリーを加えてみてはどうでしょうか」
日野の言葉に促され、テーブルにあるかき氷の入ったパフェにみんなが注目した。
「ゼリーいいっスね!」
と、小笠原が賛成した。
「確かに、一口サイズにすれば女性や子供受けもするだろうし……。味もいろんな種類を提供すれば、全体的に華やぐ」
俺も意見を交えながらふむふむと頷いた。
「なら店長、一口サイズのゼリーを凍らせてみるのはどうでしょう。また違った触感のシャーベットになって楽しめると思いますよ」
「それいいっスね!」
「そうしましょう!」
木村さんの意見に小笠原と日野が声を揃えて賛成してくれて、片山さんも静かに頷いていた。
「じゃあ決まりだな。あと、昨日言っていたユニフォームの件だが、オーナーに伝えたら用意してくれるそうだ。フェアの数日前には届くから、そのつもりでいてくれ」
無事にフェアのメニューも数品決まり、予定よりも早く試食会を終わらせることができた。
「よっしゃ! じゃあこのままみんなで飲みに行きましょう!」
立ち上がって声を上げた小笠原に、他の面々が顔を見合わせる。
「僕は大丈夫です」
「自分も、特に予定は入っていないので」
日野と片山さんの賛同を得て、小笠原が更にはしゃぎ出す。
「てんちょーは強制参加ってことで!」
「おいコラ待て。何で俺だけ強制なんだ!」
「てんちょーだから」
「答えになってねーよ」
ケロッと返してくるコイツには怒りを通り越して呆れる。
俺は一つ溜息を零しながら肩を竦めた。
「分かった。ただし、明日もシフト入ってる奴は飲み過ぎないようにな」
「優ちゃんは真面目すぎー」
「お前に言ってんだ小笠原!」
仕事が終わって早々、呼び方を変えてくるちゃっかり者を俺は睨みつけた。
が、もちろん効き目はない。
「じゃあオレ場所取り行ってきまーす。いつもの店でいいっスよね」
「あ、待って。僕も行くよ」
「日野ちゃんありがと!」
着替えるためにスタッフルームへ向かう二人を見送る。
(あの二人、仲いいよなー。普段も飲みに行ってるみたいだし)
前に酔った小笠原を家まで送ったとか、日野が苦笑いを浮かべながら言っていた。
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