君だけに恋を囁く

煙々茸

文字の大きさ
上 下
19 / 74
君恋2

2-9

しおりを挟む

 ――翌日。
「はい。英です」
『おはようございます。神条です』
 端末に掛かって来た電話に出ると、明るい声が届いた。
 こっちは昼の三時。
 フランスは朝の七時頃だろうか。
「おはようございます。どうしたんですか?」
『それはこっちのセリフですよー?』
「はい?」
『昨日在庫のリスト送ってって言ったのに、まだ届いていないんですが、どういうことですかー?』
「……あ!」
『やっぱり忘れてたんだ? 優一らしくないねぇ。どうしたの?』
 昼休憩の時に送ろうと思ったが小笠原に捉まってすっかり忘れ、今度こそと最後の事務処理後に送ろうと思っていたらまた忘れてしまっていた。
 というか、それどころではなかった。
(って言い訳しても仕方ねーんだけどさ……)
「すみません。棚卸しが終わったら送ろうと思っていて、すっかり忘れてしまっていました」
『……何かあった?』
「別に、何もないですよ……」
(嘘だけど。話せることでもないし、とぼけるしかないよな)
『ならいいんだけど。相談なら遠慮なくしてね? 優一は案外溜め込んじゃうタイプなんだから』
 根本的な原因はあなたにあるんですよ。――などと口が裂けても言えない。
 神条さんが悪いわけではないし、今は俺だけの問題だからだ。
(片山さんとのこともあるし。榊さんも……、あの人何してくるか分からねーんだよな。克服させるって、俺を?)
 出来ればお断りしたい。
 あの人を克服する自分が全く想像できないからだ。
(っつか、克服したら俺があんたを好きになるとでも思ってんのか?)
 昨日の榊さんにはドキッとさせられた部分もあったが、
(あれは誰だってそうなるだろ。別に俺だけじゃねえ……はずだ……)
『――ちょっとー? 聞いてる?』
「あ、はい、何ですか?」
『もー、しっかりしてよ』
「すみません。……ちょっと寝不足で……」
 またこれを言いわけに使う日がこんなに早く来ようとは……。
『大丈夫? 在庫リスト今すぐ送ってね!』
「わかりましたっ」
 返事をして俺は通話を切った。
 結局、昨日いろいろ考え過ぎてまた眠れなかった。
 いや、疲れがあってそれほど遅くまで起きていたわけではないから、酷い寝不足ではないけれど。
(何で俺がこんなにグルグルしなきゃなんねえんだ……!)
 事務室のパソコンからリストを送りながら、俺は昨日の出来事に頭を抱えた。
 暑い夏は、始まったばかりだ――。



 君恋2/終
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

処理中です...