50 / 51
第二章 人形の怪
【肆】ー7
しおりを挟む
箱から現れたお菊人形は中路が言っていた通り――いや、恐らくそれ以上に状態は良くない。あったはずの鼻や口は完全に溶けてしまったのか見当たらず、目に至っては胸の辺りまで垂れ下がりどこを見ているのか分からない有様だ。
「うげっ……かなり歪んでるな。悪いもん溜め込み過ぎだ」
「騰蛇」
「分かってる。火傷しないように気を付けてくれよ……!」
定めたモノにしか騰蛇の火は能力を発揮しないため晴明が火傷をすることはあり得ないが、火力を上げた蛇神の炎は身体が反射的に熱さを感じてしまいそうなほど強い力を帯びている。
人形を中心に炎が円を描くように燃え上がると晴明は真言と共に結んだ印を真横に払いパンッと柏手を打った。
密閉空間に響く柏手に呼応するかのように人形から溢れ出した瘴気。それは騰蛇の炎に阻まれたままどこへも行けずに弾けるように跡形もなく消え去った。
原型を留めておけないほど崩れていた人形の顔も可愛らしい容姿に戻り、纏う着物も菊柄がくっきり浮き出た鮮やかな物に様変わりしていた。これが元のお菊人形の姿なのだろう。ただ切られた袖がそのままなのが残念だ。
晴明より先に人形の側に歩み寄った雨月は箱ごと人形を持ち上げると中身を晴明に手渡し、箱に注目し始めた。
「やっぱり箱に何かあるんですか?」
寺院でコレと対峙した時に感じた違和感について、晴明は答え合わせを求める。
雨月は高さ二十センチほどの箱を執拗に撫でてはある一点で動きを止め、指先で軽く叩いて何かを抜き取ると晴明に差し出す。
「呪物化した原因はこいつだ」
「これは……?」
彼の手にある物はただの木の破片に見えるが……。
問い返すと雨月はふっと笑って逆に問うてきた。
「前に話した匣のことを覚えているか?」
「……ええ。確かここで君が探していた物でしたね……?」
「そうだ。この破片はその匣の一部。これが持つ力を知る者が故意に仕込んだのだ」
「うげっ……かなり歪んでるな。悪いもん溜め込み過ぎだ」
「騰蛇」
「分かってる。火傷しないように気を付けてくれよ……!」
定めたモノにしか騰蛇の火は能力を発揮しないため晴明が火傷をすることはあり得ないが、火力を上げた蛇神の炎は身体が反射的に熱さを感じてしまいそうなほど強い力を帯びている。
人形を中心に炎が円を描くように燃え上がると晴明は真言と共に結んだ印を真横に払いパンッと柏手を打った。
密閉空間に響く柏手に呼応するかのように人形から溢れ出した瘴気。それは騰蛇の炎に阻まれたままどこへも行けずに弾けるように跡形もなく消え去った。
原型を留めておけないほど崩れていた人形の顔も可愛らしい容姿に戻り、纏う着物も菊柄がくっきり浮き出た鮮やかな物に様変わりしていた。これが元のお菊人形の姿なのだろう。ただ切られた袖がそのままなのが残念だ。
晴明より先に人形の側に歩み寄った雨月は箱ごと人形を持ち上げると中身を晴明に手渡し、箱に注目し始めた。
「やっぱり箱に何かあるんですか?」
寺院でコレと対峙した時に感じた違和感について、晴明は答え合わせを求める。
雨月は高さ二十センチほどの箱を執拗に撫でてはある一点で動きを止め、指先で軽く叩いて何かを抜き取ると晴明に差し出す。
「呪物化した原因はこいつだ」
「これは……?」
彼の手にある物はただの木の破片に見えるが……。
問い返すと雨月はふっと笑って逆に問うてきた。
「前に話した匣のことを覚えているか?」
「……ええ。確かここで君が探していた物でしたね……?」
「そうだ。この破片はその匣の一部。これが持つ力を知る者が故意に仕込んだのだ」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
さよならをする前に一回ヤらせて
浅上秀
BL
息子×義理の父
中学生の頃に母が再婚して新しい父ができたショウ。
いつしか義理の父であるイツキに対して禁断の恋慕の情を抱くようになっていた。
しかしその思いは決して面に出してはいけないと秘している。
大学合格を機に家を出て一人暮らしを始める決意をしたショウ。
母が不在の日に最後の思い出としてイツキを抱きたいと願ってから二人の関係は変化した。
禁断の恋に溺れ始めた二人の運命とは。
…
BL
なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる