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第二章 人形の怪
【参】ー7
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妖とは異なる気配。己の力を把握している感じから恐らく晴明と同業の者だろう。
騰蛇は隠形して慎重に距離を詰めた。
直ぐ近くから話し声が聞こえてくる。内容が聞き取れるところまで近付くと不穏な言葉を拾い蛇眼に鋭さが増す。
「御屋敷様ですか? あなた方とはどういったご関係でしょうか」
「身内だ。とにかく急を要する。御屋敷の部屋をお教え願いたい」
宿の女将と、男の方は知らない声だ。後ろにも二人の人間が控えているのが見受けられる。
三人でやってきて晴明を出せと迫っているようだ。
これはただ事ではない。そう悟った騰蛇は方向転換して部屋へと急ぎ引き返す。
「何か動いたぞ……あそこだ!」
――拙いっ。
後ろに控えていた内の一人が騰蛇の気配を察知し追いかけてきた。
隠形を見抜く力を持っているということはそれなりの手練れ。祓い師かそれに精通した組織なのだろう。
嫌な予感に騰蛇は心の中で叫ぶ。ーー晴明、逃げろ!! と。
準備をしてこっちから出向くならまだしも、寝首を掻くようなタイミングで来られては圧倒的に不利でしかない。
気付かれたのなら部屋へは向かわず囮になればいい。
騰蛇はわざと遠回りをして晴明の部屋を悟られないように逃げ回った。
廊下が騒がしくなったことで目を覚ました客が様子を見に部屋から顔を出す。煩いと苦言を呈する者や何かあったのかと心配する声も聞こえた。
追っ手も騒ぎを起こすのは不本意のようで渋々騰蛇の追跡の手を緩めたようだった。
逃げ切った騰蛇はそのまま晴明の部屋へと滑り込む。
「はぁ……なんとか撒いたな」
とはいえ、のんびりしてはいられない。
暗がりの部屋をスルリスルリと進み晴明が寝ているはずの布団に向けて声を掛けようと口を開く――が、声が出なかった。
なぜならそこには居るはずのない者の影が晴明を抱きかかえて立っていたからだ。
驚いて固まっている白蛇の代わりに目の前の影が薄く笑むように唇を開く。
「随分騒がしいな。彼が起きてしまうだろう」
どこか小馬鹿にするような落ち着き払った声には十分すぎるほど聞き覚えがある。
「……何で、あんたがここに……」
漸く絞り出した騰蛇の声に突然現れた影ーー雨月は晴明を抱えたまま身を翻して一言だけ告げた。
「――心配ならついて来れば良い」
闇に溶けるように消えた数分後。誰も居なくなった部屋に複数の足音が押し入ってきた。
騰蛇は隠形して慎重に距離を詰めた。
直ぐ近くから話し声が聞こえてくる。内容が聞き取れるところまで近付くと不穏な言葉を拾い蛇眼に鋭さが増す。
「御屋敷様ですか? あなた方とはどういったご関係でしょうか」
「身内だ。とにかく急を要する。御屋敷の部屋をお教え願いたい」
宿の女将と、男の方は知らない声だ。後ろにも二人の人間が控えているのが見受けられる。
三人でやってきて晴明を出せと迫っているようだ。
これはただ事ではない。そう悟った騰蛇は方向転換して部屋へと急ぎ引き返す。
「何か動いたぞ……あそこだ!」
――拙いっ。
後ろに控えていた内の一人が騰蛇の気配を察知し追いかけてきた。
隠形を見抜く力を持っているということはそれなりの手練れ。祓い師かそれに精通した組織なのだろう。
嫌な予感に騰蛇は心の中で叫ぶ。ーー晴明、逃げろ!! と。
準備をしてこっちから出向くならまだしも、寝首を掻くようなタイミングで来られては圧倒的に不利でしかない。
気付かれたのなら部屋へは向かわず囮になればいい。
騰蛇はわざと遠回りをして晴明の部屋を悟られないように逃げ回った。
廊下が騒がしくなったことで目を覚ました客が様子を見に部屋から顔を出す。煩いと苦言を呈する者や何かあったのかと心配する声も聞こえた。
追っ手も騒ぎを起こすのは不本意のようで渋々騰蛇の追跡の手を緩めたようだった。
逃げ切った騰蛇はそのまま晴明の部屋へと滑り込む。
「はぁ……なんとか撒いたな」
とはいえ、のんびりしてはいられない。
暗がりの部屋をスルリスルリと進み晴明が寝ているはずの布団に向けて声を掛けようと口を開く――が、声が出なかった。
なぜならそこには居るはずのない者の影が晴明を抱きかかえて立っていたからだ。
驚いて固まっている白蛇の代わりに目の前の影が薄く笑むように唇を開く。
「随分騒がしいな。彼が起きてしまうだろう」
どこか小馬鹿にするような落ち着き払った声には十分すぎるほど聞き覚えがある。
「……何で、あんたがここに……」
漸く絞り出した騰蛇の声に突然現れた影ーー雨月は晴明を抱えたまま身を翻して一言だけ告げた。
「――心配ならついて来れば良い」
闇に溶けるように消えた数分後。誰も居なくなった部屋に複数の足音が押し入ってきた。
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