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16歳
523 しっかりしてほしい
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俺に魔石を押し付けたユリスは、早々に部屋へと戻っていった。自由すぎるユリスにタイラーがすごく振り回されている。
なんとなくオーガス兄様の部屋に残った俺とティアンは、ユリスが散らかした戸棚の中身をもとに戻す。「あ、いいのに。ニックがあとで片付けるよ」と、オーガス兄様はここにいないニックにすべてを押し付けようとしている。
ニックはおそらくセドリックのところだろう。いつものようにセドリックを追いかけ回しているに違いない。あいつも飽きないものだな。セドリックを追いかけて一体何が楽しいのか。セドリックもいい加減文句を言えばいいのに。
片付けはティアンに任せて、オーガス兄様の座る執務机へとなんとなく寄っていく。頭を抱えて難しい顔の兄様は、「もう何もかもやめたい」と情けない発言をしている。
ブルース兄様に聞かれたら絶対に怒られる発言だ。
「俺も手伝おうか?」
昔はきっぱり断られていたが、今の俺は十六歳。すごく成長したので兄様も安心して仕事を任せてくれると思う。
だが、そんな期待に反してオーガス兄様は「大丈夫だよ。僕がやるから」と素っ気ない。
「なんで? 俺もできるよ」
「無理だよ」
「無理じゃない!」
「いやいや。無理だって」
無理と決めつける兄様は、「僕忙しいから」と突然仕事に没頭し始める。露骨にこの話題を終わらせようとしている。
「大丈夫! できるよ!」
「声が大きいよ」
「オーガス兄様!」
「いやだから。声が大きいって」
へにゃっと眉尻を下げる兄様は、ティアンに助けを求めるかのような視線を送っている。
ティアンに邪魔される前にと、兄様の机にのっていた書類のひとつを適当に掴んだ。「あ、ちょっと」という声が飛んだが、無視して書類に目を落とす。
「……なにこれ?」
ざっと読んでみたのだが、仕事というよりパーティーの招待状だった。差出人はエリック。
「行くの?」
雑に放られていたので、まさかと思い尋ねてみると兄様は「いやぁ」と誤魔化すように頬を掻いた。
「行った方がいいんじゃない? 絶対に来いって書いてあるよ」
「あいつからの手紙にはいつもそういう文言が入ってるんだよ。絶対に急ぎじゃないのに急いで返事を寄越せとか」
「ふうん?」
エリックはちょっと強引なところがあるからな。そういう強気な性格がオーガス兄様とはつくづく合わないのだ。
エリックのことが嫌いなオーガス兄様は、この招待状を無視するつもりだったらしい。でもなんだか正式なパーティーっぽい。それを無視するのは大人としてどうだろうか。
「行った方がいいよ。個人的にエリックのことが嫌いだから行かないってのはちょっとダメだと思うよ。ブルース兄様に怒られるよ」
「ブルースには内緒にしておくから大丈夫」
なにも大丈夫ではない。
頼りない長男に、眉を寄せる。
「なんで行きたくないの?」
何か切実な事情でもあるのだろうか。しかし、兄様は「だって」と唇を尖らせる。
「僕そういうパーティーとか苦手なんだって。どうせひとりで壁際に突っ立っておくだけだろ。だから行かなくてもいいと思う」
なんて情けない兄だろうか。
招待状を読む限りだと大規模なパーティーだ。身内だけの集まりならともかく。国中から貴族が招待されている場において、大公家のオーガス兄様がみんなから無視されるなんてあり得ない。一体どんなネガティブな妄想をしているのだろうか。
権力を振りかざさないオーガス兄様のこういう性格は好きだけど。ちょっと情けないと思うところもある。これは思慮深いとかではなく単に臆病なだけだ。ちょっと前にあったティアンの叙任式でも「僕には無理」と言い張ってお父様やティアンに迷惑をかけていた。
「しっかりしてよ、兄様!」
「してるよ。今まさにしっかり仕事してます」
背筋を伸ばす兄様に、そうじゃないと拳を握る。だが、感情に任せて詰め寄ったところでオーガス兄様は動かないに違いない。臆病なくせして、変に頑固なところもあるのだ。面倒ごとを回避するためには変な粘り強さを発揮する。
「わかった」
ここは方法を変えよう。ブルース兄様に告げ口してもいいけど、それだとユリスが面白がって無駄に引っかき回すと思う。
「俺も一緒に行ってあげるから」
「え?」
ふんと胸を張れば、兄様が椅子からちょっと立ち上がった。
「え? ルイスも行くの?」
「うん。要するにオーガス兄様はパーティーの場でひとりになるのが嫌なんでしょ? だったら俺が隣に居てあげる」
「え!?」
驚いたように目を見張る兄様は、「いやでも」と口ごもる。
「なに!? 何かダメなの? ひとりになりたくないって話でしょ? じゃあこれで解決だよね。他にも何かあるの!?」
「い、いや。そういうわけではないんだけど」
もごもごと口を動かす兄様を強気に睨んでおく。
流石にこれ以上の我儘は無理だと察したのだろう。背中を丸めて「えー」と苦い声を発している。
「僕はそれでもいいけど。ルイスはいいの? こういうパーティー嫌いなんじゃ」
「え? 嫌いじゃないけど」
「そうなの? でもいつも行かないよね」
行かないというか。
驚いたように目を丸くする兄様に、今度はこちらが困ってしまう。別に賑やかな場が嫌いなわけではない。でもなんとなくユリスとセット扱いされている俺である。普段はユリスが早々に「僕は行かない」と断るものだから、なんとなく俺も行かないという風に話が流れてしまうだけである。
それに、俺は世間的には突然その存在が公表された。好奇の目を向けられることを恐れて、ちょっと尻込みしていたというのもある。
しかしあれからもう六年近い。流石に俺の存在は知れ渡っているし、そこまで好奇の目も向けられないだろう。
「大丈夫。俺も行くよ」
はっきりと告げれば、オーガス兄様とティアンがちょっと面食らったように視線を交わしていた。
なんとなくオーガス兄様の部屋に残った俺とティアンは、ユリスが散らかした戸棚の中身をもとに戻す。「あ、いいのに。ニックがあとで片付けるよ」と、オーガス兄様はここにいないニックにすべてを押し付けようとしている。
ニックはおそらくセドリックのところだろう。いつものようにセドリックを追いかけ回しているに違いない。あいつも飽きないものだな。セドリックを追いかけて一体何が楽しいのか。セドリックもいい加減文句を言えばいいのに。
片付けはティアンに任せて、オーガス兄様の座る執務机へとなんとなく寄っていく。頭を抱えて難しい顔の兄様は、「もう何もかもやめたい」と情けない発言をしている。
ブルース兄様に聞かれたら絶対に怒られる発言だ。
「俺も手伝おうか?」
昔はきっぱり断られていたが、今の俺は十六歳。すごく成長したので兄様も安心して仕事を任せてくれると思う。
だが、そんな期待に反してオーガス兄様は「大丈夫だよ。僕がやるから」と素っ気ない。
「なんで? 俺もできるよ」
「無理だよ」
「無理じゃない!」
「いやいや。無理だって」
無理と決めつける兄様は、「僕忙しいから」と突然仕事に没頭し始める。露骨にこの話題を終わらせようとしている。
「大丈夫! できるよ!」
「声が大きいよ」
「オーガス兄様!」
「いやだから。声が大きいって」
へにゃっと眉尻を下げる兄様は、ティアンに助けを求めるかのような視線を送っている。
ティアンに邪魔される前にと、兄様の机にのっていた書類のひとつを適当に掴んだ。「あ、ちょっと」という声が飛んだが、無視して書類に目を落とす。
「……なにこれ?」
ざっと読んでみたのだが、仕事というよりパーティーの招待状だった。差出人はエリック。
「行くの?」
雑に放られていたので、まさかと思い尋ねてみると兄様は「いやぁ」と誤魔化すように頬を掻いた。
「行った方がいいんじゃない? 絶対に来いって書いてあるよ」
「あいつからの手紙にはいつもそういう文言が入ってるんだよ。絶対に急ぎじゃないのに急いで返事を寄越せとか」
「ふうん?」
エリックはちょっと強引なところがあるからな。そういう強気な性格がオーガス兄様とはつくづく合わないのだ。
エリックのことが嫌いなオーガス兄様は、この招待状を無視するつもりだったらしい。でもなんだか正式なパーティーっぽい。それを無視するのは大人としてどうだろうか。
「行った方がいいよ。個人的にエリックのことが嫌いだから行かないってのはちょっとダメだと思うよ。ブルース兄様に怒られるよ」
「ブルースには内緒にしておくから大丈夫」
なにも大丈夫ではない。
頼りない長男に、眉を寄せる。
「なんで行きたくないの?」
何か切実な事情でもあるのだろうか。しかし、兄様は「だって」と唇を尖らせる。
「僕そういうパーティーとか苦手なんだって。どうせひとりで壁際に突っ立っておくだけだろ。だから行かなくてもいいと思う」
なんて情けない兄だろうか。
招待状を読む限りだと大規模なパーティーだ。身内だけの集まりならともかく。国中から貴族が招待されている場において、大公家のオーガス兄様がみんなから無視されるなんてあり得ない。一体どんなネガティブな妄想をしているのだろうか。
権力を振りかざさないオーガス兄様のこういう性格は好きだけど。ちょっと情けないと思うところもある。これは思慮深いとかではなく単に臆病なだけだ。ちょっと前にあったティアンの叙任式でも「僕には無理」と言い張ってお父様やティアンに迷惑をかけていた。
「しっかりしてよ、兄様!」
「してるよ。今まさにしっかり仕事してます」
背筋を伸ばす兄様に、そうじゃないと拳を握る。だが、感情に任せて詰め寄ったところでオーガス兄様は動かないに違いない。臆病なくせして、変に頑固なところもあるのだ。面倒ごとを回避するためには変な粘り強さを発揮する。
「わかった」
ここは方法を変えよう。ブルース兄様に告げ口してもいいけど、それだとユリスが面白がって無駄に引っかき回すと思う。
「俺も一緒に行ってあげるから」
「え?」
ふんと胸を張れば、兄様が椅子からちょっと立ち上がった。
「え? ルイスも行くの?」
「うん。要するにオーガス兄様はパーティーの場でひとりになるのが嫌なんでしょ? だったら俺が隣に居てあげる」
「え!?」
驚いたように目を見張る兄様は、「いやでも」と口ごもる。
「なに!? 何かダメなの? ひとりになりたくないって話でしょ? じゃあこれで解決だよね。他にも何かあるの!?」
「い、いや。そういうわけではないんだけど」
もごもごと口を動かす兄様を強気に睨んでおく。
流石にこれ以上の我儘は無理だと察したのだろう。背中を丸めて「えー」と苦い声を発している。
「僕はそれでもいいけど。ルイスはいいの? こういうパーティー嫌いなんじゃ」
「え? 嫌いじゃないけど」
「そうなの? でもいつも行かないよね」
行かないというか。
驚いたように目を丸くする兄様に、今度はこちらが困ってしまう。別に賑やかな場が嫌いなわけではない。でもなんとなくユリスとセット扱いされている俺である。普段はユリスが早々に「僕は行かない」と断るものだから、なんとなく俺も行かないという風に話が流れてしまうだけである。
それに、俺は世間的には突然その存在が公表された。好奇の目を向けられることを恐れて、ちょっと尻込みしていたというのもある。
しかしあれからもう六年近い。流石に俺の存在は知れ渡っているし、そこまで好奇の目も向けられないだろう。
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