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16歳
518 心配するよ
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「戻ったぞ」
「おかえり。どうだった?」
ポケットに手を突っ込んで堂々とした足取りでユリスが戻ってきた。予定よりも少しはやい。その後ろからは疲れた顔のカル先生が続く。
「上手くいったぞ。僕に感謝するんだな」
相変わらずの偉そうな態度であるが、上手くいったのであればよかった。お疲れと出迎えるが、カル先生が「あれのどこが」と苦い顔をしている。
どうやらユリスが暴走したらしい。「なにしたの?」とユリスを振り返るが、「特に問題はなかったぞ」と言い切られてしまった。
馬車の扉を開けるティアンに促されて、中に入る。あまり長居をしてブランシェたちに見られでもしたら大変だ。
全員が乗り込んだことを確認して、馬車が動き出す。隣に座るユリスはどこか誇らしげな表情で腕を組んでいる。その向かいに座るカル先生は俯いて額を押さえている。対照的な態度に、首を捻った。
「なにかあったんですか?」
我慢できないといった様子でティアンがカル先生に問いかける。「あぁ、いえ」と苦い声を発した先生は、「なにか不審に思われたかもしれません」と短く呻いた。
「え!? そうなの?」
ユリスの肩を叩けば、彼は心底不思議といった感じで「そうなのか?」とカル先生を窺っている。
ユリス本人には、なにかをやらかしたという自覚がないらしい。厄介だな。
深々とため息を吐くカル先生いわく。
ユリスはものすごく尊大な態度でブランシェの事を一方的に振ったらしい。おいこら。
あまりに性格が豹変したものだから、さすがのブランシェも怪訝に思ったようだ。ついには彼の口から「本当にルイスさんですか?」という言葉まで出てきたという。
どこが上手くやれたんだ。思い切り疑われているじゃないか。
「なにしてるの! ちゃんと俺っぽくやってよね」
「ルイスっぽくってなんだ。おまえはいつも誰に対しても失礼な態度だろ」
「なんだと!?」
拳を握る俺。ティアンが「馬車の中で暴れないでくださいよ」と宥めにかかる。ふうっと息を吐いて、気持ちを落ち着ける。
これ次にブランシェと会った時、どういう顔をすればいいんだよ。
「でもちゃんと振ってきた。そこは問題ない」
「本当にぃ?」
なんだか怪しい。だが、カル先生もそこは認めるらしい。清々しいほどにきっぱり振っていたと言う。
「ならいいけどさ」
やっぱりユリスに任せるんじゃなくて自分で言えばよかったかも。ユリスは、俺は流されやすいから無理だと言ったけど。俺だってちゃんとやる時はやると思う。
こういう大事なことは人に任せたらダメだな。
でもユリスが俺のために行動してくれたことは事実なので、そこは感謝している。ユリスは基本的に遠出を嫌う。昔はあまりにも屋敷に引きこもっているものだからブルース兄様も心配していたくらいだ。今では研究所だったりデニスの屋敷だったりと以前に比べて出かけるようになった。それでも決まった場所以外に赴くことは珍しい。
「ありがとね」
結果はどうあれユリスの気持ちは嬉しい。まだお礼を言っていなかったことを思い出して隣を見れば、ユリスは満足そうに鼻を鳴らした。
そうしてなんだか馬車の中が微笑ましいような空気に包まれたのも束の間。
空気を壊すことを申し訳なく思ったのか。いつになく遠慮気味な感じでティアンが「あの」と声を発した。
「ところでユリス様。僕たちに同行することは誰かに伝えたんですか?」
「伝えていないが?」
堂々と言い放つユリスに、ティアンが「やっぱり……!」と頭を抱えた。カル先生もひくりと頬を引き攣らせている。
「ダメだよ。タイラーが心配するよ」
「勝手に心配でもなんでもさせておけばいいだろ」
「嫌な奴だな」
もう何年タイラーと一緒にいるんだよ。少しは気遣いしてやれよ。
だがユリスは鼻で笑うだけで事態を深刻に捉えていない。タイラーは仕事ができる男なので、ユリスが行方不明になったと知ったらすぐにブルース兄様に報告へ行くだろう。そうして騎士団総出で大捜索が始まるのだ。ユリスにそういうことを説明するのだが、肝心のユリスは「なぜ」と眉を寄せた。
「僕の姿が見えないくらいでなんでブルースが心配するんだ」
「するだろ。普通に」
ユリスはこういうところがある。自分が誰かに心配されることなんてないと思っている。そんなわけがない。ブルース兄様にとってユリスは大事な弟だ。もちろん俺にとっても大事な兄弟だ。
なのに意味不明といった表情をするユリス。
俺からしたらユリスは間違いなくヴィアン家の人間だ。突然別の世界からやってきた俺とは違って。
それなのに、ユリスは自分がヴィアン家の中にいるということがいまいちピンときていないような顔をする。
「ブルース兄様もオーガス兄様も。みんな心配してるよ」
「僕は子供じゃないんだ。少しいなくなったくらいで大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ」
ね? とティアンに同意を求めれば彼は「そうですよ」と加勢してくれた。
「心配するに決まっています。だからあまり勝手なことをしてはダメですよ」
「……」
むすっと黙り込むユリスは小さく肩をすくめた。
どうしてこう自分のことを雑に扱うのだろうか。いつも偉そうなユリスである。自分はいつもみんなに心配されて当然といった偉そうな態度をしていてもおかしくはないのに。
こういう時、俺はユリスに対してちょっぴり腹を立てるような悲しくなるような。そんな複雑な気分になってしまうのだ。
「おかえり。どうだった?」
ポケットに手を突っ込んで堂々とした足取りでユリスが戻ってきた。予定よりも少しはやい。その後ろからは疲れた顔のカル先生が続く。
「上手くいったぞ。僕に感謝するんだな」
相変わらずの偉そうな態度であるが、上手くいったのであればよかった。お疲れと出迎えるが、カル先生が「あれのどこが」と苦い顔をしている。
どうやらユリスが暴走したらしい。「なにしたの?」とユリスを振り返るが、「特に問題はなかったぞ」と言い切られてしまった。
馬車の扉を開けるティアンに促されて、中に入る。あまり長居をしてブランシェたちに見られでもしたら大変だ。
全員が乗り込んだことを確認して、馬車が動き出す。隣に座るユリスはどこか誇らしげな表情で腕を組んでいる。その向かいに座るカル先生は俯いて額を押さえている。対照的な態度に、首を捻った。
「なにかあったんですか?」
我慢できないといった様子でティアンがカル先生に問いかける。「あぁ、いえ」と苦い声を発した先生は、「なにか不審に思われたかもしれません」と短く呻いた。
「え!? そうなの?」
ユリスの肩を叩けば、彼は心底不思議といった感じで「そうなのか?」とカル先生を窺っている。
ユリス本人には、なにかをやらかしたという自覚がないらしい。厄介だな。
深々とため息を吐くカル先生いわく。
ユリスはものすごく尊大な態度でブランシェの事を一方的に振ったらしい。おいこら。
あまりに性格が豹変したものだから、さすがのブランシェも怪訝に思ったようだ。ついには彼の口から「本当にルイスさんですか?」という言葉まで出てきたという。
どこが上手くやれたんだ。思い切り疑われているじゃないか。
「なにしてるの! ちゃんと俺っぽくやってよね」
「ルイスっぽくってなんだ。おまえはいつも誰に対しても失礼な態度だろ」
「なんだと!?」
拳を握る俺。ティアンが「馬車の中で暴れないでくださいよ」と宥めにかかる。ふうっと息を吐いて、気持ちを落ち着ける。
これ次にブランシェと会った時、どういう顔をすればいいんだよ。
「でもちゃんと振ってきた。そこは問題ない」
「本当にぃ?」
なんだか怪しい。だが、カル先生もそこは認めるらしい。清々しいほどにきっぱり振っていたと言う。
「ならいいけどさ」
やっぱりユリスに任せるんじゃなくて自分で言えばよかったかも。ユリスは、俺は流されやすいから無理だと言ったけど。俺だってちゃんとやる時はやると思う。
こういう大事なことは人に任せたらダメだな。
でもユリスが俺のために行動してくれたことは事実なので、そこは感謝している。ユリスは基本的に遠出を嫌う。昔はあまりにも屋敷に引きこもっているものだからブルース兄様も心配していたくらいだ。今では研究所だったりデニスの屋敷だったりと以前に比べて出かけるようになった。それでも決まった場所以外に赴くことは珍しい。
「ありがとね」
結果はどうあれユリスの気持ちは嬉しい。まだお礼を言っていなかったことを思い出して隣を見れば、ユリスは満足そうに鼻を鳴らした。
そうしてなんだか馬車の中が微笑ましいような空気に包まれたのも束の間。
空気を壊すことを申し訳なく思ったのか。いつになく遠慮気味な感じでティアンが「あの」と声を発した。
「ところでユリス様。僕たちに同行することは誰かに伝えたんですか?」
「伝えていないが?」
堂々と言い放つユリスに、ティアンが「やっぱり……!」と頭を抱えた。カル先生もひくりと頬を引き攣らせている。
「ダメだよ。タイラーが心配するよ」
「勝手に心配でもなんでもさせておけばいいだろ」
「嫌な奴だな」
もう何年タイラーと一緒にいるんだよ。少しは気遣いしてやれよ。
だがユリスは鼻で笑うだけで事態を深刻に捉えていない。タイラーは仕事ができる男なので、ユリスが行方不明になったと知ったらすぐにブルース兄様に報告へ行くだろう。そうして騎士団総出で大捜索が始まるのだ。ユリスにそういうことを説明するのだが、肝心のユリスは「なぜ」と眉を寄せた。
「僕の姿が見えないくらいでなんでブルースが心配するんだ」
「するだろ。普通に」
ユリスはこういうところがある。自分が誰かに心配されることなんてないと思っている。そんなわけがない。ブルース兄様にとってユリスは大事な弟だ。もちろん俺にとっても大事な兄弟だ。
なのに意味不明といった表情をするユリス。
俺からしたらユリスは間違いなくヴィアン家の人間だ。突然別の世界からやってきた俺とは違って。
それなのに、ユリスは自分がヴィアン家の中にいるということがいまいちピンときていないような顔をする。
「ブルース兄様もオーガス兄様も。みんな心配してるよ」
「僕は子供じゃないんだ。少しいなくなったくらいで大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ」
ね? とティアンに同意を求めれば彼は「そうですよ」と加勢してくれた。
「心配するに決まっています。だからあまり勝手なことをしてはダメですよ」
「……」
むすっと黙り込むユリスは小さく肩をすくめた。
どうしてこう自分のことを雑に扱うのだろうか。いつも偉そうなユリスである。自分はいつもみんなに心配されて当然といった偉そうな態度をしていてもおかしくはないのに。
こういう時、俺はユリスに対してちょっぴり腹を立てるような悲しくなるような。そんな複雑な気分になってしまうのだ。
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