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16歳

503 攻防

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 変にテンションの高いシャノンに愛想笑いで応じていたのだが、彼女の方はひと通り捲し立てて満足したらしい。

 姿勢を正したシャノンは、その後真面目に授業を聞いていた。この切り替えのはやさはなんだ。ちょっぴり困惑。カル先生も面食らっている。

 そうして平和に終わった授業であるが、案の定と言うべきか。時間を見計らったのか、ブランシェが入室してきた。先程まで妹の相手をしていたのに。今度は兄かよ。

 内心でげんなりする俺は、素早く帰り支度を整えるとカル先生を促した。長い話が始まる前に退散しよう。

 にこりと微笑んで「それでは」と屋敷をあとにしようとしたのだが、ブランシェが「外までお送りします」と余計な事を言い出した。

 外ではヴィアン家の馬車が待機している。さすがにスピネット子爵家の目の前に停めているわけではないが、ブランシェの言う外がどこまでをさすのか不明なため安易に頷けない。馬車にはティアンもいる。ブランシェはティアンの先輩である。顔を見られるとものすごく面倒だ。最悪、俺の正体がバレてしまう。

 カル先生も同様に考えたのだろう。「いえ、お気遣いなく」と断りの言葉を口にしているが、ブランシェの耳には届かなかったらしい。

 さりげなく俺の隣を確保するのはやめてほしい。

 シャノンもシャノンで、なんだか楽しそうに俺とブランシェのことを見比べている。彼女の助けも期待できそうにない。ここは自分でどうにかしなければ。

「お構いなく」

 カル先生の真似をして俺もきっぱり断ってみるが、ブランシェは動じない。それどころか俺の荷物に手を伸ばしてくる。なんだ、どういうつもりだ。

 別に怪しい物は入っていない。俺の荷物がピンチ。さっとバッグを抱え込めば、ブランシェが怪訝な顔をする。これは俺のバッグだぞ。ブランシェには渡さない。

「ブランシェ様のお手を煩わせるわけにはいきませんから」

 それらしい言い訳を並べてみるが、ブランシェは察してくれない。いまだに俺のバッグを狙っている。

 俺のバッグがなんだっていうんだ。

 駆け出したくなる気持ちをグッと堪えて、さりげなくブランシェから距離を取ろうと目論む。だが、相手は優秀な騎士。そう簡単に撒けない。ちくしょう。

「自分で持つので大丈夫です!」

 先程よりも大きな声で主張すれば、ブランシェが「そうですか?」とようやく引き下がってくれた。

 ホッと胸を撫で下ろす。
 だが、俺とカル先生の見送りをすると言ってきかないブランシェをどうするべきか。

 変に拒否するのも怪しいかも。
 カル先生と相談したいが、ブランシェとシャノンの前でそんなことはできない。

 玄関でお別れの挨拶をして早足に立ち去ればいいかも。どうしようもないので、ブランシェに背中を押されるがままに部屋を出る。なぜかカル先生ではなく、俺の側をキープするブランシェ。

「ルイスさん。どちらにお住まいなのですか?」
「え?」

 なにその質問。
 俺が住んでいるのはここから馬車で少し行ったところにある高台。ヴィアン家の屋敷であるが、馬鹿正直に答えるわけにはいかない。

 言葉に詰まっていると、なにを勘違いしたのか。ブランシェが慌てたように「深い意味はないのですが」と付け足した。

「ここまで足を運ぶのは大変ではありませんか? 街からは少し遠いでしょう」
「あ、はい。そうですね」

 確かに街から離れている。
 だが、ここまでは馬車で通っているのでそんなに大変ではない。どこまでブランシェに伝えていいのかわからないので、またもや曖昧に微笑んでおく。

 そうして玄関を突破して、ついには屋敷の表門までブランシェが付いてきた。さすがにこれ以上ついて来られると馬車を見られてしまう可能性が高くなってしまう。

「では、僕たちはこれで」

 やんわりお別れだと挨拶してみるが、ブランシェは「あ」と小さく呟いた。その引き止めるような弱々しい声に、不思議とこっちが悪いことをしているような気がしてくる。

「ルイスさん」
「はい。なんですか」

 立ち話くらいならもう少し付き合ってあげても。
 そんな気持ちでブランシェと向き合えば、彼は難しい顔で悩んでいる。そんなに言い難いことでもあるのか?

 俺、一体なにを言われるんだろう。もしかして、先程の「遠くないですか?」発言は、遠回しにもう来るなと言っていたのだろうか。可能性はある。前回の訪問から数日ほど空いていた。その間に、ブランシェも冷静になったのかもしれない。その結果、身元があやふやな俺を屋敷に入れるのはよろしくないという結論が出ていてもおかしくはない。

 出禁にされたらどうしようか。俺の計画が狂ってしまう。ちょっと身構えていれば、ブランシェが一度深呼吸らしきことをしてから俺を見据えた。自然と、俺の体にも力が入る。

「ご趣味は?」
「……え? なんですか?」

 そうしてたっぷりと間を置いて、ブランシェの口から発せられたのはまったく予想外の質問であった。思わず聞き返した俺は悪くないと思う。

 こいつは一体何を言っているんだ?
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