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16歳
475 平和
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「ティアンって友達いたんだよ。ロニーは知ってた?」
屋敷に戻る道中、一緒に来てくれるロニーに尋ねると、小さく苦笑が返ってきた。
「学園で同じクラスだったみたいですね」
「うん」
彼らが着ていた白い制服は、王立騎士団のものだとロニーが教えてくれる。ラッセルが着用しているものとデザインが違うが、それは階級によるものだという。先程の彼らのものは、叙任式を終えていない新人たちが着るものらしい。
「うちはみんな一緒だよね」
細部に違いはあるものの、ぱっと見でわかるような違いはない。だからティアンもアロンもロニーも似たような服を着ている。
おそらく規模が小さいからだ。騎士はみんな顔見知りのような状態だし、服装で区別できるようにする必要がないのだろう。それに比べて、王立騎士団は大規模だ。きっと所属している騎士たちも、全員の顔を知っているわけではないのだろう。
「ロニー。いいもの見せてあげる」
『オレにも見せてぇ』
「綿毛ちゃんはもう見たでしょ」
ティアンが戻ってこないので、キャンベルにもらった小さいエリスちゃんはロニーに見せようと思う。
手招きしてロニーを部屋に入れると、ジャンが「あれ?」と首を傾げた。ティアンを探しに行ったはずが、ロニーを連れてきたので驚いたらしい。
「これね。キャンベルにもらったの」
手のひらサイズのエリスちゃんを披露すれば、ロニーは「すごいですね」と目を丸くする。
「小さいエリスちゃん」
はいっと手渡せば、ロニーは慎重な手つきで受けとった。ひたすら感心して、にこにこしている。ロニーと一緒だと、すごく平和な時間が流れる。タイラーは小言ばっかりで気が滅入るし、レナルドは腰が痛いとぐちぐち言ってて面倒くさかった。
その点、ロニーが一番平和だった。俺の今の護衛はティアンだけど、ティアンはちょっと堅苦しい。昔の遠慮のない彼を知っているから尚更そう思ってしまう。
「ルイス様!」
そんな時である。
ノックもなしにドアを開け放ったアロンが、ズカズカと入室してきた。こいつは俺に対して常に遠慮しないよな。
心なしか楽しそうにしていたアロンであったが、ロニーの存在を認めた途端に小さく舌打ちした。
「なんで副団長がここに? 仕事放り出してきたんですかぁ」
「やめなよ、アロン」
アロンじゃないんだから。ロニーが仕事サボるわけないだろ。
アロンは一時期、副団長を解任されたセドリックのことをいじり倒していた。セドリックが副団長に戻ってからは、ターゲットを失って大人しくしていた。
それが、ここ最近はロニーに突っかかり始めた。非常に大人気ないと思う。アロンはずっと副団長になりたいと主張していたので。自分を差し置いて出世したロニーのことが許せないのだ。
しかし、ロニーは大人なので。
アロンよりも年下だが、その落ち着き払った態度は間違いなく大人。
今だって、アロンの雑な絡みを控えめに微笑んで流している。
「なにしに来たの?」
ロニーを睨みつけるばかりで話が進まない。アロンの袖を引けば、彼はようやくロニーから視線を外した。
俺の隣にやってくるアロンは、足元の綿毛ちゃんに「邪魔」と吐き捨てる。『邪魔じゃないもん』と言い返す綿毛ちゃんはちょっぴり強くなったと思う。
「知ってます? ティアンが王立騎士団から引き抜きされそうなの」
「うん。知ってる」
たった今、ティアンが友達とそういう話をしている場面を目撃してきた。
「あれ? 知ってたんですか」
頭を掻いて勢いをなくすアロン。
引き抜きの件を俺に教えに来たらしい。
だとしたら、どうしてそんなに嬉しそうな顔をするのかと考えたが、アロンはクソ野郎だった。この展開を楽しんでいたに違いない。
「ティアンが王立騎士団に行きたいって言ったらどうするんですか?」
どうすると言われても。
正直に言ってしまえば、それは嫌だ。
ティアンの一線を引いたような態度は気に入らないけど、だからといってティアンに離れてほしいわけではない。ティアンがどうしても将来のために王立騎士団に移りたいと言ったら、少しは考えるかもしれないけど。それでも、俺はやっぱり嫌だと言うと思う。
ユリスも、俺がティアンに気をつかう必要はないと言っていた。まぁユリスは、ティアンのことも遠慮なくクビにしていいという意味で言ったのだろうけど。
とにかく、ティアンが俺の隣からいなくなってしまうのは嫌。
「ティアンは王立騎士団に行きたいなんて言わないもん」
だからアロンにそう言い返してやれば、彼は「へぇ」と意外そうに片眉を持ち上げた。
「でもティアンって、割と出世に興味があるほうですよ」
「知らないよ、そんなの」
アロンはなにが言いたいのか。
ちらっとロニーを確認すれば、困ったような微笑みが返ってきた。
「アロンは、ティアンにうちから出て行ってほしいの?」
「はい」
即答すんな。
悪びれもしないアロンは、「だって俺の立場が」とへらへら笑う。なにを笑ってるんだ。悪戯した時の綿毛ちゃんにそっくりの顔だな。
屋敷に戻る道中、一緒に来てくれるロニーに尋ねると、小さく苦笑が返ってきた。
「学園で同じクラスだったみたいですね」
「うん」
彼らが着ていた白い制服は、王立騎士団のものだとロニーが教えてくれる。ラッセルが着用しているものとデザインが違うが、それは階級によるものだという。先程の彼らのものは、叙任式を終えていない新人たちが着るものらしい。
「うちはみんな一緒だよね」
細部に違いはあるものの、ぱっと見でわかるような違いはない。だからティアンもアロンもロニーも似たような服を着ている。
おそらく規模が小さいからだ。騎士はみんな顔見知りのような状態だし、服装で区別できるようにする必要がないのだろう。それに比べて、王立騎士団は大規模だ。きっと所属している騎士たちも、全員の顔を知っているわけではないのだろう。
「ロニー。いいもの見せてあげる」
『オレにも見せてぇ』
「綿毛ちゃんはもう見たでしょ」
ティアンが戻ってこないので、キャンベルにもらった小さいエリスちゃんはロニーに見せようと思う。
手招きしてロニーを部屋に入れると、ジャンが「あれ?」と首を傾げた。ティアンを探しに行ったはずが、ロニーを連れてきたので驚いたらしい。
「これね。キャンベルにもらったの」
手のひらサイズのエリスちゃんを披露すれば、ロニーは「すごいですね」と目を丸くする。
「小さいエリスちゃん」
はいっと手渡せば、ロニーは慎重な手つきで受けとった。ひたすら感心して、にこにこしている。ロニーと一緒だと、すごく平和な時間が流れる。タイラーは小言ばっかりで気が滅入るし、レナルドは腰が痛いとぐちぐち言ってて面倒くさかった。
その点、ロニーが一番平和だった。俺の今の護衛はティアンだけど、ティアンはちょっと堅苦しい。昔の遠慮のない彼を知っているから尚更そう思ってしまう。
「ルイス様!」
そんな時である。
ノックもなしにドアを開け放ったアロンが、ズカズカと入室してきた。こいつは俺に対して常に遠慮しないよな。
心なしか楽しそうにしていたアロンであったが、ロニーの存在を認めた途端に小さく舌打ちした。
「なんで副団長がここに? 仕事放り出してきたんですかぁ」
「やめなよ、アロン」
アロンじゃないんだから。ロニーが仕事サボるわけないだろ。
アロンは一時期、副団長を解任されたセドリックのことをいじり倒していた。セドリックが副団長に戻ってからは、ターゲットを失って大人しくしていた。
それが、ここ最近はロニーに突っかかり始めた。非常に大人気ないと思う。アロンはずっと副団長になりたいと主張していたので。自分を差し置いて出世したロニーのことが許せないのだ。
しかし、ロニーは大人なので。
アロンよりも年下だが、その落ち着き払った態度は間違いなく大人。
今だって、アロンの雑な絡みを控えめに微笑んで流している。
「なにしに来たの?」
ロニーを睨みつけるばかりで話が進まない。アロンの袖を引けば、彼はようやくロニーから視線を外した。
俺の隣にやってくるアロンは、足元の綿毛ちゃんに「邪魔」と吐き捨てる。『邪魔じゃないもん』と言い返す綿毛ちゃんはちょっぴり強くなったと思う。
「知ってます? ティアンが王立騎士団から引き抜きされそうなの」
「うん。知ってる」
たった今、ティアンが友達とそういう話をしている場面を目撃してきた。
「あれ? 知ってたんですか」
頭を掻いて勢いをなくすアロン。
引き抜きの件を俺に教えに来たらしい。
だとしたら、どうしてそんなに嬉しそうな顔をするのかと考えたが、アロンはクソ野郎だった。この展開を楽しんでいたに違いない。
「ティアンが王立騎士団に行きたいって言ったらどうするんですか?」
どうすると言われても。
正直に言ってしまえば、それは嫌だ。
ティアンの一線を引いたような態度は気に入らないけど、だからといってティアンに離れてほしいわけではない。ティアンがどうしても将来のために王立騎士団に移りたいと言ったら、少しは考えるかもしれないけど。それでも、俺はやっぱり嫌だと言うと思う。
ユリスも、俺がティアンに気をつかう必要はないと言っていた。まぁユリスは、ティアンのことも遠慮なくクビにしていいという意味で言ったのだろうけど。
とにかく、ティアンが俺の隣からいなくなってしまうのは嫌。
「ティアンは王立騎士団に行きたいなんて言わないもん」
だからアロンにそう言い返してやれば、彼は「へぇ」と意外そうに片眉を持ち上げた。
「でもティアンって、割と出世に興味があるほうですよ」
「知らないよ、そんなの」
アロンはなにが言いたいのか。
ちらっとロニーを確認すれば、困ったような微笑みが返ってきた。
「アロンは、ティアンにうちから出て行ってほしいの?」
「はい」
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悪びれもしないアロンは、「だって俺の立場が」とへらへら笑う。なにを笑ってるんだ。悪戯した時の綿毛ちゃんにそっくりの顔だな。
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