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16歳

473 盗み聞き

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 静まり返る室内に、『オレもそう思うぅ』という綿毛ちゃんの呑気な声が響いた。

「……」

 みんなの視線が俺に集まって、どう反応すればいいのか。ちょっと後退る俺に、ユリスが偉そうに腕を組む。

「まぁ、ティアンならいいんじゃないか? それなりの地位はあるし」
『優しいもんねぇ、ティアンさん』

 俺をよそに、勝手にティアンの評価を始めるユリスと綿毛ちゃん。そんな二人を止めようと、タイラーが「その話はあとにしましょう」と間に割って入る。

 俺がティアンのことを好きと決めつけているユリス。最終的には「ティアンならいいぞ」と、上から目線で謎の許可を出してくる。

「そういうのじゃ、ないもん」

 だから俺が弱々しく言い返した時、ユリスは「そうなのか?」とちょっぴり居住まいを正した。

「行こう、綿毛ちゃん」

 ティアンを探しに行く途中だった。
 背中を向ければ、ユリスが興味を失ったかのように軽く肩をすくめた。

 無言で外に出れば、追いかけてきた綿毛ちゃんが『ごめんね』と弱々しく声をかけてくる。

『ちょっと無神経だったよね。ごめんね』
「……」

 俺を心配するように優しい声を出す綿毛ちゃん。

 立ち止まって見下ろせば、なんか弱そうな目をした綿毛ちゃんがいた。

「いいよ、別に」

 綿毛ちゃんとユリスがふざけたことを言うのはいつものことだ。

 とたとたと隣に並んでくる綿毛ちゃんと共に、騎士棟へ向かう。俺が訓練場に近付くことを、みんなはよく思っていないけど。ティアンが帰ってこないのだから仕方ない。

 そうして訓練場に到着したものの、人の姿はまばらだ。やはりとっくに訓練は終わっているらしい。

 綿毛ちゃんと顔を見合わせる。

『入れ違いになったんじゃない? 部屋に戻ってきてるかもよ?』

 そうかもしれない。
 俺がユリスの部屋でうだうだしている間に、俺の部屋に行ってしまったかもしれない。

 戻ろうか迷う。
 ティアンのことだ。部屋に戻って俺がいなければ、探しに来ると思う。ジャンにはティアン探してくると伝えたから、ティアンも俺を探しに騎士棟へやって来るかも。

 だったら、もう少しここを探してもいいかもしれない。

 綿毛ちゃんとふたりで、のんびり騎士棟周辺を歩き回ることにする。

 そうして捜索を始めてしばらくすると、騎士棟の玄関から少し離れた木陰に佇むティアンを発見した。

「いた!」
『いたいたぁ』

 綿毛ちゃんと一緒に駆け寄ろうとした俺であったが、ティアンがひとりではないことに気が付いて、咄嗟に足を止めた。

「……誰だろう」

 知らない青年ふたりと話し込んでいるらしい。よく見ると、青年たちは王立騎士団の白い騎士服を着ている。よくうちにやって来るラッセルたちとは少し違うデザインだが、あれは王立騎士団で間違いないと思う。

 声をかけるのを躊躇っていると、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。その和やかな雰囲気は、三人の仲のよさを表していた。

 昨日今日知り合ったというわけではなさそうだ。

 なんとなく、綿毛ちゃんと一緒に隠れてしまう。向こうはまだ俺の存在に気が付いていない。こそこそと様子を窺うように三人のことを観察してしまう。

 木々が邪魔で、俺のことはあちらから見えないはずだ。息を殺して、綿毛ちゃんを抱きしめる。綿毛ちゃんも、興味津々にティアンの方を見つめている。

 辺りに人がいないため、耳を澄ませば三人の会話が聞こえてくる。一瞬、これって盗み聞きだよなと思ったが、特に内緒話をしているような雰囲気でもなかったため、まぁいいやと身を潜め続ける。

「にしても、本当にいいのか? もったいないと思うけど」
「おまえもこっちに移ってこいよ。正直、王立騎士団の方が経歴的にも絶対にいいって」

 おっと。

 綿毛ちゃんと思わず顔を見合わせる。
 内容的に、ティアンに王立騎士団へ移ってこいと説得している感じだ。引き抜きだ。

 先日、王立騎士団第一部隊隊長のラッセルもティアンの引き抜きを持ちかけていた。

 綿毛ちゃんをぎゅっと抱きしめて、白い騎士服に囲まれているティアンを眺める。ティアンの方は、訓練終わりだからか普段の黒い上着を身につけていなかった。薄手のシャツ一枚というラフな格好だ。

 袖を捲って緩く笑うティアンは、ふたりの誘いを断っているように見える。

「僕はいいかな。こっちの方が性に合ってるし」
「なんでだよ。確かにここも大公家だけどさ。所詮は私営騎士団だろ。出世したところで高が知れてるだろ。それともなに? なんかここにこだわる理由でもあるわけ?」

 ティアンの肩を小突く青年。それを受けて、ティアンは「やめろよ」と楽しそうに笑い飛ばしている。

 すごく親しそうな雰囲気だ。友達だろうか。ああいう態度のティアンは、すごく新鮮だ。ティアンは基本的に、ずっと敬語だ。なにそのフランクな言葉遣い。

 見れば、青年たちはティアンと同じくらいの年頃だ。もしや学園時代の友達だろうか。ティアンが通っていたのは、騎士を目指す人が通うクラスだった。だとすれば、同級生が王立騎士団で働いていても何もおかしくはない。

「ティアンの友達かな?」

 ぼそっと呟けば、綿毛ちゃんが『そうかもね』と頷いた。
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