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16歳
459 なんか流れで
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「なんでジェフリーと一緒に寝てるんですか」
「なんか流れで?」
「はぁ!?」
朝からアロンがうるさい。
むにゃむにゃと寝ぼけている綿毛ちゃんを睨みつけ、次にしれっと俺の部屋に居座るジェフリーにも鋭い視線を送っている。朝から忙しそうだな。
肩身が狭そうにしているジャンが可哀想なので、俺はアロンを部屋から追い出そうと奮闘する。
「今忙しいから。後にして」
「俺だって仕事の合間を縫ってルイス様に会いに来ているんですけど」
「仕事しなよ」
なんでそんなに堂々と仕事を放置できるのだろうか。アロンの我儘っぷりに、ジェフリーが若干引いている。
「僕は、今日帰るので」
うるさいアロンを見かねたのか。ジェフリーがぼそっと呟く。それを聞いたアロンは、露骨ににやりと笑う。なんて大人気ない。
ジェフリーの告白を再度断った俺である。でも、ジェフリーはこれからも俺と仲良くしてくれると言った。ひとまずはそれでいいと思う。ジェフリーはまだ十四歳だ。これからいろんな人に会って、きっと俺よりもいい人を見つけるはずである。
「邪魔なんですけど、先輩」
部屋に居座るアロンに、ティアンがわざとらしく先輩呼びをしてみせる。
アロンは騎士として優秀だし、ヴィアン家にも長いこといるのだが、いまいち先輩って感じがしないとティアンが前にぼやいていた。その気持ちはわかる。アロンは我儘で子どもっぽいから。到底先輩には見えないのだろう。ロニーの方がずっと大人だ。
「近いうちにまた来ます。本も返さないといけませんから」
「うん。いつでもおいで」
本の返却を口実に、ジェフリーはまた俺と会ってくれるだろう。にこにこしていれば、いつの間にか隣に来ていたアロンが、おもむろに俺の頬を突いた。
「……え、なに?」
突然の暴挙に戸惑っていると、アロンが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「残念でしたぁ。その本は全部ブルース様が用意した物です。ルイス様は読んでません」
「アロン!!」
すごく余計なことを言うアロンの口を慌てて塞ごうと奮闘するも、アロンは余裕の表情でかわしてしまう。
やめろ。俺のかっこいいお兄さんというイメージをぶち壊すんじゃない。
案の定、ジェフリーが「え」と目を見張っている。
「いや、えっと。俺、普段はユリスの部屋の本読むから」
まったく読書しないわけではない。言い訳めいた言葉を並べて、なんだか格好悪いなと肩を落とす。ジェフリーの前では、かっこいいお兄さんでいたかったのに。アロンはなんでそう余計なことを言うのだろうか。
思わずアロンを睨みつけるが、彼は飄々としている。ジェフリーの戸惑いを観察しては、非常に満足そうな顔だ。
ぱちぱちと目を瞬くジェフリーは、けれどもすぐに苦笑した。
「じゃあ僕が先に読みますから。その後、ルイス様も読みませんか? 一緒に感想を語り合えたら楽しいですよ、きっと」
穏やかな微笑みのジェフリー。その提案に、俺は大きく頷く。ジェフリーと同じ本を読むってことだ。なんだか楽しそう。
へへっと笑えば、アロンが面白くないとそっぽを向いてしまう。
「ほら。はやく仕事に戻ってくださいよ、先輩」
「君も仕事に戻りなよ」
「僕の仕事はルイス様の護衛なので」
ティアンと睨み合いを繰り広げたアロンであったが、ブルース兄様のお怒り顔を思い出したのだろう。渋々ドアへと足を向けている。
「ルイス様。今度は俺の部屋に泊まっていいですよ」
「ブルース兄様に怒られるから嫌」
「ブルース様はどうでもいいんですよ!」
どうでもよくはないだろ。
捨て台詞ともとれる言葉を吐いて、ようやくアロンは帰って行った。
※※※
「いつもデニスと何してるの?」
「なんだっていいだろ」
ジェフリーとデニスが帰宅した後。
ユリスの部屋にお邪魔すれば、彼は夢中で読書をしていた。
「デニスと一緒に寝た?」
気になって尋ねれば、ユリスが怪訝な様子で顔を上げた。
「なんで僕がデニスと一緒に寝るんだ」
「寝てないの? お泊まり会なのに?」
「お泊まり会ってなんだ」
そこから説明しないといけないの?
ユリスによると、夜は別々の部屋で寝たらしい。ものすごく意外。だって相手はユリスのことが大好きなデニスである。一緒に寝ようと可愛い顔で小首を傾げそうなのに。
「あっちは十七。僕も十六だ。子どもじゃないんだから一緒に寝るわけないだろ」
「でもユリス。俺とは一緒に寝るじゃん」
「おまえが無断で僕のベッドに潜り込んでくるだけだ」
そうだっけ?
でも俺の侵入に気がついても、ユリスは俺を追い出したりはしない。
「それはルイスが弟だから」
「じゃあケイシーとも一緒に寝るの?」
「ケイシーは弟じゃないだろ。それにあいつはまだ小さい」
オーガス兄様とキャンベルとの間に生まれたケイシーは、一歳になる。すごく子ども。まだ赤ちゃんだ。
俺はケイシーとも遊びたいのだが、毎回オーガス兄様に止められる。「ケイシーはまだ小さいから。ルイスと遊ぶのは無理だよ」というのがオーガス兄様の言い分だ。だが、キャンベルはそんなこと言わない。
だから最近の俺は、オーガス兄様が仕事で忙しい時を見計らってケイシーのもとを訪れている。優しいキャンベルは「ルイスお兄ちゃんと遊べてケイシーも嬉しいわよね」とにこにこしてくれるのだ。
「なんか流れで?」
「はぁ!?」
朝からアロンがうるさい。
むにゃむにゃと寝ぼけている綿毛ちゃんを睨みつけ、次にしれっと俺の部屋に居座るジェフリーにも鋭い視線を送っている。朝から忙しそうだな。
肩身が狭そうにしているジャンが可哀想なので、俺はアロンを部屋から追い出そうと奮闘する。
「今忙しいから。後にして」
「俺だって仕事の合間を縫ってルイス様に会いに来ているんですけど」
「仕事しなよ」
なんでそんなに堂々と仕事を放置できるのだろうか。アロンの我儘っぷりに、ジェフリーが若干引いている。
「僕は、今日帰るので」
うるさいアロンを見かねたのか。ジェフリーがぼそっと呟く。それを聞いたアロンは、露骨ににやりと笑う。なんて大人気ない。
ジェフリーの告白を再度断った俺である。でも、ジェフリーはこれからも俺と仲良くしてくれると言った。ひとまずはそれでいいと思う。ジェフリーはまだ十四歳だ。これからいろんな人に会って、きっと俺よりもいい人を見つけるはずである。
「邪魔なんですけど、先輩」
部屋に居座るアロンに、ティアンがわざとらしく先輩呼びをしてみせる。
アロンは騎士として優秀だし、ヴィアン家にも長いこといるのだが、いまいち先輩って感じがしないとティアンが前にぼやいていた。その気持ちはわかる。アロンは我儘で子どもっぽいから。到底先輩には見えないのだろう。ロニーの方がずっと大人だ。
「近いうちにまた来ます。本も返さないといけませんから」
「うん。いつでもおいで」
本の返却を口実に、ジェフリーはまた俺と会ってくれるだろう。にこにこしていれば、いつの間にか隣に来ていたアロンが、おもむろに俺の頬を突いた。
「……え、なに?」
突然の暴挙に戸惑っていると、アロンが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「残念でしたぁ。その本は全部ブルース様が用意した物です。ルイス様は読んでません」
「アロン!!」
すごく余計なことを言うアロンの口を慌てて塞ごうと奮闘するも、アロンは余裕の表情でかわしてしまう。
やめろ。俺のかっこいいお兄さんというイメージをぶち壊すんじゃない。
案の定、ジェフリーが「え」と目を見張っている。
「いや、えっと。俺、普段はユリスの部屋の本読むから」
まったく読書しないわけではない。言い訳めいた言葉を並べて、なんだか格好悪いなと肩を落とす。ジェフリーの前では、かっこいいお兄さんでいたかったのに。アロンはなんでそう余計なことを言うのだろうか。
思わずアロンを睨みつけるが、彼は飄々としている。ジェフリーの戸惑いを観察しては、非常に満足そうな顔だ。
ぱちぱちと目を瞬くジェフリーは、けれどもすぐに苦笑した。
「じゃあ僕が先に読みますから。その後、ルイス様も読みませんか? 一緒に感想を語り合えたら楽しいですよ、きっと」
穏やかな微笑みのジェフリー。その提案に、俺は大きく頷く。ジェフリーと同じ本を読むってことだ。なんだか楽しそう。
へへっと笑えば、アロンが面白くないとそっぽを向いてしまう。
「ほら。はやく仕事に戻ってくださいよ、先輩」
「君も仕事に戻りなよ」
「僕の仕事はルイス様の護衛なので」
ティアンと睨み合いを繰り広げたアロンであったが、ブルース兄様のお怒り顔を思い出したのだろう。渋々ドアへと足を向けている。
「ルイス様。今度は俺の部屋に泊まっていいですよ」
「ブルース兄様に怒られるから嫌」
「ブルース様はどうでもいいんですよ!」
どうでもよくはないだろ。
捨て台詞ともとれる言葉を吐いて、ようやくアロンは帰って行った。
※※※
「いつもデニスと何してるの?」
「なんだっていいだろ」
ジェフリーとデニスが帰宅した後。
ユリスの部屋にお邪魔すれば、彼は夢中で読書をしていた。
「デニスと一緒に寝た?」
気になって尋ねれば、ユリスが怪訝な様子で顔を上げた。
「なんで僕がデニスと一緒に寝るんだ」
「寝てないの? お泊まり会なのに?」
「お泊まり会ってなんだ」
そこから説明しないといけないの?
ユリスによると、夜は別々の部屋で寝たらしい。ものすごく意外。だって相手はユリスのことが大好きなデニスである。一緒に寝ようと可愛い顔で小首を傾げそうなのに。
「あっちは十七。僕も十六だ。子どもじゃないんだから一緒に寝るわけないだろ」
「でもユリス。俺とは一緒に寝るじゃん」
「おまえが無断で僕のベッドに潜り込んでくるだけだ」
そうだっけ?
でも俺の侵入に気がついても、ユリスは俺を追い出したりはしない。
「それはルイスが弟だから」
「じゃあケイシーとも一緒に寝るの?」
「ケイシーは弟じゃないだろ。それにあいつはまだ小さい」
オーガス兄様とキャンベルとの間に生まれたケイシーは、一歳になる。すごく子ども。まだ赤ちゃんだ。
俺はケイシーとも遊びたいのだが、毎回オーガス兄様に止められる。「ケイシーはまだ小さいから。ルイスと遊ぶのは無理だよ」というのがオーガス兄様の言い分だ。だが、キャンベルはそんなこと言わない。
だから最近の俺は、オーガス兄様が仕事で忙しい時を見計らってケイシーのもとを訪れている。優しいキャンベルは「ルイスお兄ちゃんと遊べてケイシーも嬉しいわよね」とにこにこしてくれるのだ。
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