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16歳

綿毛ちゃんの日常15

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 ルイス坊ちゃんの授業中。
 いつものようにカル先生によって部屋を追い出されたオレは、ひとり寂しく屋敷を散歩していた。

 特に珍しいものがあるわけでもなく。
 ひたすら暇潰しのために歩いているような状態だ。

 どこかでお昼寝でもしようかなぁ。

 日当たりの良さそうな場所を探してきょろきょろしていれば、玄関から入ってくるティアンさんを発見した。

『ティアンさーん!』

 すたすた寄っていけば、オレに気付いたティアンさんが屈んでくれる。

 騎士棟に行っていたティアンさんは、訓練に参加していたらしい。首にかけたタオルで汗を拭っている。毎日頑張っていると思う。ここ最近では、ルイス坊ちゃんの授業中に騎士棟へ向かうのが日課になっているらしい。

『お疲れさまでーす』

 労いの言葉を投げれば、ティアンさんは照れたように微笑む。

「ルイス様は?」
『まだ授業中だよ』
「そっか」

 ちょっぴり残念そうな顔をするティアンさん。ルイス坊ちゃんと会えないのが悲しいらしい。

 思わずにやにやしていると、ティアンさんがオレの頭を優しい手つきで撫でてくる。なんだかくすぐったい。ルイス坊ちゃんは、遠慮なしにわしゃわしゃ撫でてくるので、気がついたら毛がボサボサになっている。いつもジャンさんが綺麗にしてくれるのだ。

 けど、最近では坊ちゃんもオレのブラッシングをしたがる。坊ちゃんは色々と荒いんだよねぇ。坊ちゃんのブラッシングは、毛が抜けそうでちょっとドキドキする。

『ティアンさんはさぁ』
「んー?」
『なんでルイス坊ちゃんのことが好きなのぉ?』
「……」

 突然動きを止めたティアンさんは、「え? 好き? なんで?」ととぼけてしまう。

 またまたぁ。見ていればわかるよ。ルイス坊ちゃんのことが好きなんでしょ?

 ルイス坊ちゃんの隣に居るために騎士になったことだって知っている。ティアンさんの行動の中心には、いつもルイス坊ちゃん。

『いいじゃん、教えてよぉ。オレと恋ばなしよ』
「なんで? 嫌だよ」
『ひどいぃ』

 あっさり断るティアンさんは、すっと立ち上がる。自室に戻るらしいので、なんとなく追いかけてみる。

 ティアンさんの部屋には、入ったことがない。アロンさんの部屋は何度かお邪魔したことあるけど。あの人の部屋は、基本的にいつも散らかっている。たまに見かねたアリアさんが文句を言いながら片付けをしている。

 アリアさんはブルースくんと結婚したはずだけど、夫婦らしいことは何ひとつしていない。ふたりで並んでいるところも見ないし、会話する場面も見ない。徹底的に形だけの結婚を貫いている。

 キャンベルさんは、オーガスくんと仲良く笑っている場面をたまに見るんだけどな。息子であるケイシーくんは、オーガスくん似の金髪だ。そろそろ一歳になるはずだ。

 ルイス坊ちゃんは、ケイシーくんに興味津々。どうにかオレと猫ちゃんをケイシーくんに触らせようと奮闘している。その度に、オーガスくんが青い顔で止めに入っている。

 一時期、オーガスくんの代わりにケイシーくんのパパをやると宣言していたルイス坊ちゃん。しかし、実際にはジェフリーくんと遊ぶ方が楽しいらしくて、ケイシーくんの面倒はあまりみていない。これにはオーガスくんが胸を撫で下ろしていた。パパの立場をとられるのではと内心で怯えていたらしい。

 話がずれた。

 ティアンさんの部屋は、小綺麗に片付いている。さっと走りまわって、ひと通り確認する。ふむふむ。

『特に怪しい物はないですねぇ』
「怪しい物って。ないよ、そんなの」

 苦笑するティアンさんは、おもむろに着替えを始める。

『アロンさんの部屋にはね、怪しい物たくさんあるんだよ』
「なにそれ。すごく気になる」
『なんかぁ、変なお酒とか。あと女の人にもらったっぽい手紙とか。プレゼントとか』
「あぁ、なるほど」

 まぁ、手紙やプレゼントは部屋に放ってあるような感じで、どうも大事にしているような雰囲気ではなかったけど。

 着替えを済ませたティアンさんは、短く息を吐いて時間を確認している。坊ちゃんの授業が終わるのを待っているのだ。

『はやく終わるといいねぇ?』

 にやにやと話しかければ、ティアンさんが「いや」と誤魔化すように俯いてしまう。そんなに照れなくてもいいのに。
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