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15歳
430 作るわけない
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「ティアンってさ。学園に通ってる時なにしてたの?」
「なにって。勉強とか剣術とか色々ですよ」
面食らったように答えてくれるティアンに、俺はぱちぱちと目を瞬く。俺が聞きたかったのは、そういうことではない。
朝から暇だった俺は、目に入ったティアン相手に会話を試みる。先程アロンがやってきて、追加のインクを置いて行ったのだが、すぐに仕事へと戻ってしまった。あまりサボると、ブルース兄様が怒るからな。
俺がアロンにもらったペンを愛用していると知って、アロンは前にも増してインクを持ってくるようになった。インクの残りを気にしなくてすむのはありがたいが、逆に使い切れなくて困っている。あいつは程々という言葉を知らないのだろうか。ストックがたまる一方なので、ティアンにも分けてあげたことは、アロンには内緒である。
適当に勉強して時間を潰すが、それにも飽きてきた。ティアンはいまだに、俺が勉強を始めるとちょっと信じられないものを見たような顔をする。「ルイス様が勉強?」という困惑の声を、俺はもう何度も聞いた。普通に失礼だと思う。俺だって、将来のことを考え始めたのだ。いつまでもお気楽に過ごしているわけにもいかないだろう。
本を閉じて、実はずっと気になっていたことを訊いてみるが、ティアンは「普通に学園に通っていましたよ。特別変わったことはありません」と素っ気ない。
普通と言われても。俺は、この世界の学園がどういう仕組みなのかをよく知らない。一度だけ、ティアンの通う学園に足を踏み入れたことはあるが、中庭を駆けまわっただけで終わってしまった。どういう教室で、どういう授業をしているのかは見学する暇がなかった。
話を聞く限りだと、ティアンは貴族の子たちが通う学園に身を置いていたらしい。その中でも、騎士を目指す子たちが集まるクラスだと聞いた。
騎士を目指す貴族の子供たちってそんなにいるのか。ヴィアン家騎士団にもそれなりにいるらしい。わかりやすいところだとアロンとか。だが、たいていの人は王宮に仕える王立騎士団や近衛騎士を目指すらしい。そう考えると、ヴィアン家の私営騎士団を目指していたティアンは、かなり珍しい部類だったのだろうと予想できる。まぁ、私営騎士団といってもヴィアン家は大公家だ。それなりに規模も大きいし、王宮に出入りできる機会も多い。王族に会うことだってある。
「楽しかったの?」
ティアンがどういう学園生活を送っていたのか。俺は興味があった。特に、ティアンの友達とか。
ティアンは、小さい頃から俺の遊び相手をしていたので、ティアンと会う時はもっぱらこの屋敷内。外でのティアンの様子を、俺はあまり知らない。
俺以外に友達っているのだろうか。学園には同い年の子たちがたくさんいただろうから、きっと仲良くなった子もいるはずだ。でも、ティアンの口から友達の話題が出ないので、これは一体どういうことなのだろうかと不思議に思っていたのだ。
「学園生活ですか? 普通ですよ」
普通としか言わないティアンに、眉を寄せる。綿毛ちゃんも興味があるのだろう。『学園かぁ。なんか楽しそうだねぇ』とにこにこしている。
「学園で、友達とかできた?」
「えぇ。同じクラスの人とか。卒業してからは会う機会なんてないですけどね」
ティアンの通っていた学園は、ここから遠いところにある。アロンの実家であるミュンスト伯爵家の領地にあるので、気軽に同級生と顔を合わせる機会がないというのは納得だ。
アロンの顔を思い浮かべた流れで、そういえばティアンはアロンのコネで入学したことを思い出した。
「……なんか。いじめられたりしなかった?」
コネ入学がバレたら、友達なんてできないんじゃないか。ちょっと心配になった俺であるが、ティアンはきょとんとしている。なぜ自分がいじめられる心配をされているのか全くわからないという表情をしている。
「アロンのコネで入学したんでしょ?」
「あぁ、はい」
特に否定もしないティアンは「それがなにか?」と首を捻っている。こいつ、相変わらず図太いな。ティアンは昔から、真面目に見えて全然真面目じゃない。利用できるものは、遠慮なく利用する性格だ。
「僕、結構成績よかったんですよ」
「へー」
ドヤ顔で報告してくるティアンに、綿毛ちゃんが『すごいねぇ。えらいねぇ』と、しきりに相槌を打っている。
「……彼女とか、できた?」
学園に女の子がいるのかは知らないが、同級生と共に学園生活をしていれば、恋愛話で盛り上がることもあっただろう。おずおずと訊いてみる。よくわからないが、なんだかすごく緊張する。
目を見開くティアン。なにその反応。え、彼女できたの?
どきどきして答えを待つ俺。なんでこんなに緊張するのか自分でも不明だが、とにかく誤魔化すように前髪を触る。
「いえ。恋人なんて、作るわけないじゃないですか」
ちょっと固い表情になるティアンは、強張った声で恋人はいないと言ってくる。その答えに、俺はホッと息を吐いた。吐いてから、なんでこんなに安堵しているのだろうかと首を捻る。
なんか、ティアンに彼女とかいてほしくない。
「なにって。勉強とか剣術とか色々ですよ」
面食らったように答えてくれるティアンに、俺はぱちぱちと目を瞬く。俺が聞きたかったのは、そういうことではない。
朝から暇だった俺は、目に入ったティアン相手に会話を試みる。先程アロンがやってきて、追加のインクを置いて行ったのだが、すぐに仕事へと戻ってしまった。あまりサボると、ブルース兄様が怒るからな。
俺がアロンにもらったペンを愛用していると知って、アロンは前にも増してインクを持ってくるようになった。インクの残りを気にしなくてすむのはありがたいが、逆に使い切れなくて困っている。あいつは程々という言葉を知らないのだろうか。ストックがたまる一方なので、ティアンにも分けてあげたことは、アロンには内緒である。
適当に勉強して時間を潰すが、それにも飽きてきた。ティアンはいまだに、俺が勉強を始めるとちょっと信じられないものを見たような顔をする。「ルイス様が勉強?」という困惑の声を、俺はもう何度も聞いた。普通に失礼だと思う。俺だって、将来のことを考え始めたのだ。いつまでもお気楽に過ごしているわけにもいかないだろう。
本を閉じて、実はずっと気になっていたことを訊いてみるが、ティアンは「普通に学園に通っていましたよ。特別変わったことはありません」と素っ気ない。
普通と言われても。俺は、この世界の学園がどういう仕組みなのかをよく知らない。一度だけ、ティアンの通う学園に足を踏み入れたことはあるが、中庭を駆けまわっただけで終わってしまった。どういう教室で、どういう授業をしているのかは見学する暇がなかった。
話を聞く限りだと、ティアンは貴族の子たちが通う学園に身を置いていたらしい。その中でも、騎士を目指す子たちが集まるクラスだと聞いた。
騎士を目指す貴族の子供たちってそんなにいるのか。ヴィアン家騎士団にもそれなりにいるらしい。わかりやすいところだとアロンとか。だが、たいていの人は王宮に仕える王立騎士団や近衛騎士を目指すらしい。そう考えると、ヴィアン家の私営騎士団を目指していたティアンは、かなり珍しい部類だったのだろうと予想できる。まぁ、私営騎士団といってもヴィアン家は大公家だ。それなりに規模も大きいし、王宮に出入りできる機会も多い。王族に会うことだってある。
「楽しかったの?」
ティアンがどういう学園生活を送っていたのか。俺は興味があった。特に、ティアンの友達とか。
ティアンは、小さい頃から俺の遊び相手をしていたので、ティアンと会う時はもっぱらこの屋敷内。外でのティアンの様子を、俺はあまり知らない。
俺以外に友達っているのだろうか。学園には同い年の子たちがたくさんいただろうから、きっと仲良くなった子もいるはずだ。でも、ティアンの口から友達の話題が出ないので、これは一体どういうことなのだろうかと不思議に思っていたのだ。
「学園生活ですか? 普通ですよ」
普通としか言わないティアンに、眉を寄せる。綿毛ちゃんも興味があるのだろう。『学園かぁ。なんか楽しそうだねぇ』とにこにこしている。
「学園で、友達とかできた?」
「えぇ。同じクラスの人とか。卒業してからは会う機会なんてないですけどね」
ティアンの通っていた学園は、ここから遠いところにある。アロンの実家であるミュンスト伯爵家の領地にあるので、気軽に同級生と顔を合わせる機会がないというのは納得だ。
アロンの顔を思い浮かべた流れで、そういえばティアンはアロンのコネで入学したことを思い出した。
「……なんか。いじめられたりしなかった?」
コネ入学がバレたら、友達なんてできないんじゃないか。ちょっと心配になった俺であるが、ティアンはきょとんとしている。なぜ自分がいじめられる心配をされているのか全くわからないという表情をしている。
「アロンのコネで入学したんでしょ?」
「あぁ、はい」
特に否定もしないティアンは「それがなにか?」と首を捻っている。こいつ、相変わらず図太いな。ティアンは昔から、真面目に見えて全然真面目じゃない。利用できるものは、遠慮なく利用する性格だ。
「僕、結構成績よかったんですよ」
「へー」
ドヤ顔で報告してくるティアンに、綿毛ちゃんが『すごいねぇ。えらいねぇ』と、しきりに相槌を打っている。
「……彼女とか、できた?」
学園に女の子がいるのかは知らないが、同級生と共に学園生活をしていれば、恋愛話で盛り上がることもあっただろう。おずおずと訊いてみる。よくわからないが、なんだかすごく緊張する。
目を見開くティアン。なにその反応。え、彼女できたの?
どきどきして答えを待つ俺。なんでこんなに緊張するのか自分でも不明だが、とにかく誤魔化すように前髪を触る。
「いえ。恋人なんて、作るわけないじゃないですか」
ちょっと固い表情になるティアンは、強張った声で恋人はいないと言ってくる。その答えに、俺はホッと息を吐いた。吐いてから、なんでこんなに安堵しているのだろうかと首を捻る。
なんか、ティアンに彼女とかいてほしくない。
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