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15歳

423 確信がある

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 結局、アロンは時間ギリギリまで戻ってこなかった。仕方がないので、アロン抜きで街をまわった。

 アロンが誘ったくせに、なんなのだ。

 綿毛ちゃんが案内してくれたパン屋さんで買った甘いパンを頬張る。たまにロニーが買ってきてくれるやつ。ティアンとアリアが美味しいと微笑んでいる。美味しいんだけど、素直に美味しいと喜べない。

 その後も、ぼんやりとした気分で街を意味もなく徘徊する。綿毛ちゃんがひとりでずっとお喋りしているが、それに反応する余裕もない。

 暗くなる前に帰宅しなければならない。
 馬を預けたところまで戻ると、何食わぬ顔でアロンが合流してきた。「どこに行っていたんですか」と、ティアンが責めるような口調で問いただすも、アロンは悪びれずに「ちょっと向こうまで」と言い放つ。妹であるアリアが、何やら目線で兄に訴えかけているが、アロンにはいまいち伝わらなかったらしい。

「楽しかったですか?」

 アロンに肩を叩かれて、俺は思わずぎゅっと眉間に皺を寄せる。最大限に不機嫌なことをアピールしようとするが、アロンは「ん?」と首を傾げるだけで俺の望むような結果にはならない。

 こいつは、一体なんなのだ。前々からおかしな言動はしていたが、今日は顕著だ。なんで平気な顔で戻ってこられたのだろうか。アロンは、俺が怒っている可能性をまったく考えていないらしい。

 ふいっと顔を逸らしてやれば、ようやく俺の不機嫌に思い至ったらしい。ガシガシと頭を掻いて、「あー、えっと。すみません」との適当な謝罪をしてきた。これはあれだ。オーガス兄様の謝罪に似ている。オーガス兄様は、しょっちゅう謝罪の言葉を口にするが、あれは本気で悪いと思っているのではなく、その場をおさめるためになんとなく謝っているだけなのだ。今のアロンには、それとそっくりな空気が纏わりついている。

「怒ってます?」
「別に」
「でも街で遊べて楽しかったでしょ?」

 楽しくないよ。
 心の中で反射的に言い返して、そうか楽しくなかったのかと今更のように自覚した。

 ティアンもいたし、綿毛ちゃんもアリアもいた。俺ひとりで放置されたわけではないのに、なんとなくアロンに放っておかれたという事実だけが重くのしかかって素直に楽しめなかった。

 アロンの顔を凝視する。
 気まずそうに首に手を遣るアロンは、俺の機嫌を伺うかのように見下ろしてくる。

「……帰りましょう。暗くなる前に」

 やがてアロンに背中を押されて、馬に乗る。俺が不機嫌なことに気がつきつつも、アロンは特になにも言ってこない。これがオーガス兄様だったら、しきりに「ごめんね」と繰り返している場面だと思う。

 こういう時、アロンは自己中だなと実感する。一度謝罪の言葉を口にして、それで全部済んだとでも思っているのだろうか。別に謝罪を繰り返してほしいわけではないけれど、たった一回口にしただけで勝手にすべて終わったことにされると俺としては複雑だ。

 そうして無言の帰り道。犬姿に戻った綿毛ちゃんだけが、ティアンの馬で『疲れたねぇ。お腹すいたねぇ』とずっとぶつぶつ言っている。

 俺は、今日はアロンと遊べるんだと思ってここまでついてきた。それなのに、あっさりと俺を置いて女の人とどこかへ姿を消したアロンに裏切られたような気分になったのだ。アロンの側には、裏切ったという気持ちはないのだろう。これは俺が勝手にそう感じたというだけだから。

 アロンがそうやって俺の前からふらっと消えるのは珍しいことではない。今までにも、何度かこういうことがあった。今日だって、俺の気が付かないうちに勝手にひとりで姿を消しただけであれば、俺はここまで気にしなかったと思う。「また居なくなったね」と、ティアンと顔を見合わせて笑っていられたと思う。また仕事をサボって仕方のない大人だなと軽く流せたと思う。

 アロンに腕を絡める女性の、何かを期待するような甘ったるい声を思い出す。

 それを雑に追い払おうとする、アロンのちょっと苛立ったような声を思い出す。

 なにかがすごく嫌だった。あの瞬間、俺はすごく嫌な気分になった。俺が嫌な気分になったこと、アロンは気が付いたと思う。だからこそ「怒ってます?」なんていう言葉が飛び出したのだ。気が付いたのなら、もっとなにか言ってほしい。俺から顔を背けないでほしいと思うのは、俺の我儘だろうか。

 好きなんですか? というティアンの拗ねたような声も思い出してしまった。好きっていうか、なんていうか。自分でも上手く説明できない。説明できないからこそ、余計にムシャクシャとした気分になってしまうのだ。

 手綱を握る手に、力がこもる。

 視界が高くなって、一気にテンションが上がるはずの乗馬も、今はそんなに楽しくない。はやく屋敷に戻りたい。

 戻って、ユリスに会いたい。やっぱりユリスも誘えばよかった。

 ユリスは、文句を言いながらも俺の話を聞いてくれる。最近は魔法の研究が思ったように進まないことで若干苛々しているようだが、それでも俺の話は聞いてくれるという確信が俺にはあるのだ。
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