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15歳

綿毛ちゃんの日常9

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「俺はお兄ちゃんになったので。綿毛ちゃんも俺の言うことちゃんと聞いてね」
『オレの方が坊ちゃんより年上だけどねぇ』
「うるさい!」
『ひどい』

 オーガスくんとキャンベルさんの間に男の子が生まれてからというもの。ルイス坊ちゃんは、なにかとお兄ちゃんアピールをしてくるようになった。

 自分よりも小さい子ができて、嬉しいみたい。

 本日も、朝からお兄ちゃん宣言をしてくるルイス坊ちゃんは、なぜかオレのことを窓際へと追いやってくる。坊ちゃんは、よくオレと猫ちゃんに日光を当てようとしてくる。

 これになんの意味があるのかは不明だけど。

 ついでにブラッシングもしてくれるのだが、相変わらず手つきが雑。『痛いでーす』と伝えるのだが、まるっと無視されてしまう。

「肉球肉球」
『はいはい』

 今度は足を拭いてくれるらしい。タオルでゴシゴシ拭いてくる坊ちゃんは、オレの肉球を執拗に触ってくる。

 坊ちゃんにされるがままにしていると、すごく疲れるのだが仕方がない。ここでやめてと伝えても、坊ちゃんはやめてはくれない。それどころか、「我儘言うな!」とかなんとか言って余計にもみくちゃにされてしまうだろう。

「よし!」
『ありがとねぇ。助かるよぉ』

 ようやく解放される。ホッと息を吐き出すオレだったけど、坊ちゃんによって抱き上げられてしまう。

『坊ちゃん?』
「ケイシーのとこ行こう」
『えー?』

 ケイシーくんは、生まれたばかりの赤ちゃんである。ルイス坊ちゃんの甥っ子にあたるんだけど、坊ちゃんはケイシーくんのことを頑なに弟だと言い張っている。

 部屋を飛び出す坊ちゃんは、二階へと駆け上がる。そうしてケイシーくんが居るであろうキャンベルさんの部屋をノックしてしまう。

 けれども、顔を出したのはオーガスくんであった。

「なにしてるの、兄様」
「なにって。息子の顔を見に」
「ふーん?」

 部屋の中を覗こうとするが、オーガスくんが微妙に邪魔をしている。それに焦れたらしい坊ちゃんが「邪魔だよ」と控えめに抗議をしている。

「今寝たところだからさ」
「うん。起こさないようにする」
「絶対に起こすでしょ」

 ルイス坊ちゃんの言葉をいまいち信用していないオーガスくんは、「また今度会いに来てね」と苦笑を浮かべつつ坊ちゃんを追い返そうとしている。

 気持ちはわかる。だって相手はルイス坊ちゃん。静かにするといいつつも、結局は騒ぐのが目に見えている。

「ケイシーに綿毛ちゃん見せるだけだから。いいでしょ?」
「起こす気満々じゃん。ダメだよ」
「えー」

 しょんぼりする坊ちゃんは、代わりと言わんばかりにオーガスくんへとオレを押し付けている。やんわり受け取り拒否をするオーガスくんは、困った顔をしていた。

 とりあえず場を和ませようと、へらっと笑って尻尾を振っておく。誰も見ていないけど。

 ルイス坊ちゃんは、一時期オーガスくんのことを無視していたのだが、最近では普通にお喋りしている。反抗期は終わったらしい。

「いつケイシーと遊んでいい?」
「ケイシーが起きてる時にね」
「せっかく綿毛ちゃんのお手入れしたのに」

 ね? と同意を求めてくる坊ちゃんに、『そうだねぇ』と笑っておく。

 ルイス坊ちゃんは、思うようにケイシーくんと遊べなくてガッカリしているらしい。でもケイシーくんは赤ちゃんだからね。一緒に遊ぶのはまだ難しいと思うよ。

 オーガスくんに追い出された坊ちゃんは、オレを抱えたまま屋敷をうろうろし始める。

「綿毛ちゃんを誰かに見せたい」
『オレを? いまさら珍しくもないでしょ』

 この屋敷の人は、ほとんどオレがお喋りできることを知っている。いまさら驚きはしないと思うけど。

「綿毛ちゃんを綺麗にしたから。見せたい」
『う、うん』

 そんなに綺麗になっていないと思うけどな。
 その後も諦めずに廊下を歩く坊ちゃんは、近くにあったブルースくんの部屋に狙いを定めたようだ。

「ブルース兄様!」

 大声で呼びかけると、すぐにドアが開いた。出てきたのはアロンさんだ。オレを一瞥して、顔を顰めたアロンさんは、けれどもルイス坊ちゃんに視線を移すとにこりと笑みを浮かべる。態度の差が露骨だねぇ。

「アロン。ブルース兄様は?」
「騎士棟に居ますけど」
「アロンは兄様の部屋でなにしてるの?」
「仕事ですけど」
「へー」

 じとっと疑いの目を向ける坊ちゃんに、アロンさんが口元を引き攣らせている。あれだね。アロンさんの日頃の行いが影響してるよね。

「まぁ、アロンでもいいや。見て、綿毛ちゃん!」
「はぁ。いつも通り犬ですね」

 ばーんとオレを掲げた坊ちゃんであったが、アロンさんの「いつも通り」発言に、目を見開いている。

「いつも通りじゃないもん!」
「え」

 いや、いつも通りだよ?
 アロンさんの発言は正しいよ?

 だが、坊ちゃんは止まらない。坊ちゃんがオレのお手入れをしたおかげで、オレがいつもより綺麗になっていると信じて疑っていないのだ。

「よく見て! いつもと違うでしょ!」
「えぇー?」

 困った顔でオレを凝視するアロンさんが、ちょっと可哀想に思えてくる。これどうしようかぁ。

 肩身の狭い思いをするオレとは裏腹に、坊ちゃんはアロンさんに「なんでわかんないの!」と詰め寄っている。頬を掻いたアロンさんが、答えを捻り出そうと奮闘している。

「……ちょっと太った?」
『失礼な。重さは変わってないですぅ』
「じゃあ小さくなった」
『オレは縮みません』
「老けた?」
『なんでオレを貶してくるの?』

 的外れなことばかり言うアロンさんに、とうとう坊ちゃんが我慢の限界をむかえた。

「綺麗になってるでしょ! ブラッシングしたの。足も拭いてあげた!」

 なんでわかんないの! と、なぜかオレを揺さぶってくる坊ちゃん。

「ブラッシング?」

 首を捻るアロンさんは、「そんなのわかりませんって」と盛大に天を仰ぐ。だよね。

 ひとりでジタバタする坊ちゃんに、アロンさんが珍しく困ったような顔をしていた。
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