425 / 598
15歳
400 だれ
しおりを挟む
暑さもやわらぎ、だいぶ涼しくなってきた頃。
今日も今日とて勉強に励む俺は偉いと思う。先生になりたいという夢は、まだカル先生にしか教えていない。カル先生は、馬鹿にすることなく俺の夢に付き合ってくれている。ユリスに教えると、なんだか小馬鹿にされそうな気がするのだ。だからしばらくはまだ内緒にしておこうと思う。
「綿毛ちゃん! 散歩に行くぞ」
『はいはい。いや、待って。それはいらないよ?』
リードを片手に綿毛ちゃんに声をかければ、毛玉がふるふると首を左右に振る。我儘め。
無言で毛玉に近寄って、捕まえる。
『やめてぇ? それにはいい思い出がないんですけどぉ?』
「我儘言うな! お散歩したい!」
『我儘は坊ちゃんの方じゃん』
ぐちぐちうるさい毛玉を抱えたまま、奮闘する。そうしてリードをつけることに成功した俺は、早速外へと綿毛ちゃんを引っ張っていく。
そこら辺の散歩だからひとりで大丈夫と言いおけば、ジャンもレナルドもついてこない。
無駄にくねくねする綿毛ちゃんを庭に出して、散歩を開始する。
「楽しいね?」
『いや、オレはあんまり』
リードをぐいぐい引っ張って、庭を走る。『やめて、引っ張らないでぇ』と綿毛ちゃんも短い足でついてくる。
どんどん庭を突き進んでいけば、『そろそろ帰ろうよぉ』と足元から我儘が聞こえてくる。今きたばかりだろうが。
『ほら、お花見よう。きれいだよぉ』
「興味ない」
『じゃあ、とりあえず走るのやめようよ。もう疲れたよぉ』
「おじいちゃんだから? 体力ないの?」
『おじいちゃんはやめて! オレまだ若いから!』
綿毛ちゃんは、すごく長生きの生き物だ。
人間に化けたら若いお兄さんだけど、実はもう結構なお年なのだ。
仕方がないので足を止める。
『あー、疲れたぁ』
下を向く綿毛ちゃんに合わせて、のろのろと歩く。ゆったりしていて、あまり楽しくない。
唇を尖らせる俺に気がついて、綿毛ちゃんが『そんなに拗ねなくても』と困った顔をしている。
「じゃあ靴投げるから。綿毛ちゃん取ってきてよ」
『また木に引っかかるよ?』
いそいそと靴を脱ごうとするが、綿毛ちゃんが邪魔をしてくる。なんだこの毛玉。なんで邪魔するんだ。
「綿毛ちゃん、あっち行って」
『もっと平和に遊ぼうよぉ』
足に纏わりついてくる毛玉を追い払おうと奮闘していれば、なにやら足音が聞こえてきた。
庭師でもやって来たのだろうか。俺が居たら仕事の邪魔かもしれない。移動した方がいいかなと顔を上げようとしたその時。
「ルイス様!」
勢いよく名前を呼ばれて、目を瞬く。
耳慣れない低い声に、綿毛ちゃんもピシッと固まり警戒している。
見れば、白いシャツに身を包んだ青年がこちらへと早足に寄ってくるところであった。
誰だろう。
見たことのない顔だ。背が高く、そこそこ体格も良い。騎士服は着ていないが、使用人というよりは騎士といわれた方が納得のいく感じだ。
誰だろうね? と綿毛ちゃんを抱っこして耳打ちすれば、『さぁ? 知らなぁい』との答え。小声で応じてくる綿毛ちゃんは、どうやらこの見知らぬ人の前でお喋りしていいのか迷っているらしい。犬が喋ると外部の人に知られたら、大騒ぎになるからな。
にこやかな笑顔で俺の前までやってきた青年は「お久しぶりです。ルイス様も大きくなりましたね」と、なんだか妙に馴々しく声をかけてくる。
いや、おまえはどこの誰なんだよ。
記憶を探るが、こんな好青年に心当たりはない。薄青の髪を耳にかき上げた彼は、なおも「お元気でしたか?」と微笑んでくる。
「……」
マジで誰?
俺たちは、間違いなく初対面だと思う。知らない人に馴々しく接するとかやばい人だ。距離感がおかしい。綿毛ちゃんをぎゅっと抱きしめたまま、そろそろと後ろに下がる。そうして距離を取ろうとしたのだが、なぜか青年は一歩詰めてくる。やめろ、こっちに来るんじゃない。
「あの、ルイス様?」
俺の警戒に気が付いたのか。動きを止めて、怪訝な目を向けてくる青年は、なんとも頼りなさそうな声を絞り出した。その問いかけるような呼びかけに、俺は眉尻を下げる。困惑しているのは、俺の方だ。
我慢ができなくなった俺は、綿毛ちゃんを盾にしつつ「誰?」と尋ねてみる。固まる毛玉は、口を閉じて大人しくしている。
「え」
みるみる見開かれていく薄青の目。なにその大袈裟な驚き方。
しかし、その髪と瞳の色には、なんだか覚えがあるような?
改めて青年を上から下まで観察してみて、あっと思う。クレイグ団長にそっくりだ。今はもう団長辞めちゃったけど。
なんというか、クレイグ団長をもっと若くして細くした感じである。青という色も相まって、涼し気な雰囲気の青年だ。
もしかしたら、クレイグ団長のご親戚かもしれない。
「え。僕ですよ、僕」
己の顔を指さしてみせる青年に、俺は首を傾げる。
やがて立ち尽くす俺に痺れを切らしたのか。青年が愕然とした表情で俺の顔を凝視してくる。
「本気ですか? 僕ですよ。ティアンですよ!」
飛び出してきた名前に、俺の頭は停止する。
「……ティアン?」
掠れた声で呟けば、目の前の青年が「はい」としっかり頷いてみせた。
今日も今日とて勉強に励む俺は偉いと思う。先生になりたいという夢は、まだカル先生にしか教えていない。カル先生は、馬鹿にすることなく俺の夢に付き合ってくれている。ユリスに教えると、なんだか小馬鹿にされそうな気がするのだ。だからしばらくはまだ内緒にしておこうと思う。
「綿毛ちゃん! 散歩に行くぞ」
『はいはい。いや、待って。それはいらないよ?』
リードを片手に綿毛ちゃんに声をかければ、毛玉がふるふると首を左右に振る。我儘め。
無言で毛玉に近寄って、捕まえる。
『やめてぇ? それにはいい思い出がないんですけどぉ?』
「我儘言うな! お散歩したい!」
『我儘は坊ちゃんの方じゃん』
ぐちぐちうるさい毛玉を抱えたまま、奮闘する。そうしてリードをつけることに成功した俺は、早速外へと綿毛ちゃんを引っ張っていく。
そこら辺の散歩だからひとりで大丈夫と言いおけば、ジャンもレナルドもついてこない。
無駄にくねくねする綿毛ちゃんを庭に出して、散歩を開始する。
「楽しいね?」
『いや、オレはあんまり』
リードをぐいぐい引っ張って、庭を走る。『やめて、引っ張らないでぇ』と綿毛ちゃんも短い足でついてくる。
どんどん庭を突き進んでいけば、『そろそろ帰ろうよぉ』と足元から我儘が聞こえてくる。今きたばかりだろうが。
『ほら、お花見よう。きれいだよぉ』
「興味ない」
『じゃあ、とりあえず走るのやめようよ。もう疲れたよぉ』
「おじいちゃんだから? 体力ないの?」
『おじいちゃんはやめて! オレまだ若いから!』
綿毛ちゃんは、すごく長生きの生き物だ。
人間に化けたら若いお兄さんだけど、実はもう結構なお年なのだ。
仕方がないので足を止める。
『あー、疲れたぁ』
下を向く綿毛ちゃんに合わせて、のろのろと歩く。ゆったりしていて、あまり楽しくない。
唇を尖らせる俺に気がついて、綿毛ちゃんが『そんなに拗ねなくても』と困った顔をしている。
「じゃあ靴投げるから。綿毛ちゃん取ってきてよ」
『また木に引っかかるよ?』
いそいそと靴を脱ごうとするが、綿毛ちゃんが邪魔をしてくる。なんだこの毛玉。なんで邪魔するんだ。
「綿毛ちゃん、あっち行って」
『もっと平和に遊ぼうよぉ』
足に纏わりついてくる毛玉を追い払おうと奮闘していれば、なにやら足音が聞こえてきた。
庭師でもやって来たのだろうか。俺が居たら仕事の邪魔かもしれない。移動した方がいいかなと顔を上げようとしたその時。
「ルイス様!」
勢いよく名前を呼ばれて、目を瞬く。
耳慣れない低い声に、綿毛ちゃんもピシッと固まり警戒している。
見れば、白いシャツに身を包んだ青年がこちらへと早足に寄ってくるところであった。
誰だろう。
見たことのない顔だ。背が高く、そこそこ体格も良い。騎士服は着ていないが、使用人というよりは騎士といわれた方が納得のいく感じだ。
誰だろうね? と綿毛ちゃんを抱っこして耳打ちすれば、『さぁ? 知らなぁい』との答え。小声で応じてくる綿毛ちゃんは、どうやらこの見知らぬ人の前でお喋りしていいのか迷っているらしい。犬が喋ると外部の人に知られたら、大騒ぎになるからな。
にこやかな笑顔で俺の前までやってきた青年は「お久しぶりです。ルイス様も大きくなりましたね」と、なんだか妙に馴々しく声をかけてくる。
いや、おまえはどこの誰なんだよ。
記憶を探るが、こんな好青年に心当たりはない。薄青の髪を耳にかき上げた彼は、なおも「お元気でしたか?」と微笑んでくる。
「……」
マジで誰?
俺たちは、間違いなく初対面だと思う。知らない人に馴々しく接するとかやばい人だ。距離感がおかしい。綿毛ちゃんをぎゅっと抱きしめたまま、そろそろと後ろに下がる。そうして距離を取ろうとしたのだが、なぜか青年は一歩詰めてくる。やめろ、こっちに来るんじゃない。
「あの、ルイス様?」
俺の警戒に気が付いたのか。動きを止めて、怪訝な目を向けてくる青年は、なんとも頼りなさそうな声を絞り出した。その問いかけるような呼びかけに、俺は眉尻を下げる。困惑しているのは、俺の方だ。
我慢ができなくなった俺は、綿毛ちゃんを盾にしつつ「誰?」と尋ねてみる。固まる毛玉は、口を閉じて大人しくしている。
「え」
みるみる見開かれていく薄青の目。なにその大袈裟な驚き方。
しかし、その髪と瞳の色には、なんだか覚えがあるような?
改めて青年を上から下まで観察してみて、あっと思う。クレイグ団長にそっくりだ。今はもう団長辞めちゃったけど。
なんというか、クレイグ団長をもっと若くして細くした感じである。青という色も相まって、涼し気な雰囲気の青年だ。
もしかしたら、クレイグ団長のご親戚かもしれない。
「え。僕ですよ、僕」
己の顔を指さしてみせる青年に、俺は首を傾げる。
やがて立ち尽くす俺に痺れを切らしたのか。青年が愕然とした表情で俺の顔を凝視してくる。
「本気ですか? 僕ですよ。ティアンですよ!」
飛び出してきた名前に、俺の頭は停止する。
「……ティアン?」
掠れた声で呟けば、目の前の青年が「はい」としっかり頷いてみせた。
1,684
お気に入りに追加
3,050
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶のみ失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
不幸体質っすけど役に立って、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する
めろ
BL
皇子殿下(7歳)に転生したっぽいけど、何も分からない。
侍従(8歳)と仲良くするように言われたけど、無表情すぎて何を考えてるのか分からない。
分からないことばかりの中、どうにか日々を過ごしていくうちに
主人公・イリヤはとある事件に巻き込まれて……?
思い出せない前世の死と
戸惑いながらも歩み始めた今世の生の狭間で、
ほんのりシリアスな主従ファンタジーBL開幕!
.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
HOTランキング入りしました😭🙌
♡もエールもありがとうございます…!!
※第1話からプチ改稿中
(内容ほとんど変わりませんが、
サブタイトルがついている話は改稿済みになります)
大変お待たせしました!連載再開いたします…!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる