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15歳
396 忙しいのか
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はやくも帰るというエリックを外まで見送る。本当に忙しいらしく、「泊まっていけば?」と声をかけたのだが無理と言われてしまった。
「今度は事前に連絡をください。絶対にですよ」
「はは! 覚えていたらな」
半眼でエリックに進言するブルース兄様だが、当のエリックは軽く笑い飛ばしてしまう。ブルース兄様かわいそう。兄様は、なんでこんなに苦労しているのだろうか。
結局、ユリスは本当に部屋から出てこなかった。薄情者め。『またねぇ』と尻尾を振る綿毛ちゃんの頭を豪快に撫でまわすエリックは、「何度見ても愉快だな」と楽しそうな声色だ。喋る犬をお気に召したらしい。だが綿毛ちゃんは俺の犬なので。エリックにはあげない。
オーガス兄様も、見送りにこない。
先程、エリックと盛大に言い合いをしていたからご機嫌ななめなのかもしれない。そうでなくとも、オーガス兄様はエリックのことが嫌いである。無神経な物言いが気に食わないとよく文句を言っている。
しれっと姿を現したアロンは、相変わらず俺とエリックの間を陣取ってくる。大人気ないなぁ。おかげで、エリックの顔を見るのに苦労する。
「ルイス。気が向いたらいつでも私のところに来い。歓迎するぞ」
「うん」
歓迎すると言われたので、なにも考えずに頷けば、ブルース兄様とアロンがすごい形相になってしまう。「馬鹿」と吐き捨てる兄様は、腕を組んで苦い表情だ。
いつでも遊びに来いという意味で捉えたのだが、どうやら違ったらしい。「おまえが側室でもよければ、私は大歓迎だ」と口角を持ち上げるエリックに、目を瞬く。
「側室はいいや。マーティーと遊びたいから、マーティーに会いに行くね」
思えば、マーティーとはもう何年も会っていないような気がする。もともと頻繁に会う仲でもないからな。
俺の言葉に、アロンがどや顔する。なんでこいつが得意げな表情をするのだ。意味不明だな。エリックも同様に考えたのだろう。アロンに怪訝な目を向けている。アロンの言動がおかしいのは、いつものことだ。気にするだけ無駄。
残念だな、とたいして残念がっているようには聞こえない軽々しい声で肩をすくめるエリックは、アロンをかわして俺の前にやってくる。出遅れたアロンが、「あ」と間の抜けた声を発する。
「まあいいさ。またな」
「うん。またね」
俺の頭をぽんぽん叩いて満足そうに微笑むエリックは、そのまま勢いよく帰って行った。
大勢の騎士を伴って颯爽と引き上げていった一行を見送って、ブルース兄様は「あー」と深くため息を吐く。
「本当に疲れた。なんで俺がこんなに苦労しなければいけないんだ」
ぶつぶつと恨み言を呟く兄様は、とてもお疲れである。アロンが「相手にする必要ないのでは? 追い返せばよかったのに」と最低なことを言っている。従兄弟とはいえ、相手は王太子だぞ。そんな雑に追い返せるわけがないだろうが。
お疲れ兄様に、そっと綿毛ちゃんを差し出せば、「なんだ。どういうつもりだ」と若干引かれてしまった。綿毛ちゃんがかわいそう。
「もふもふ触れば元気になるよ」
「いや、大丈夫だ」
「そう?」
代わりに俺が撫でておこう。『やめてぇ。ボサボサになっちゃうよ』とふにゃふにゃする綿毛ちゃんを捕まえておくのは大変だった。
※※※
「エリック帰ったよ」
「よかったな」
よくはないだろ。
適当な返事をしてくるユリスは、「あいつは居るだけでうるさいだろう。僕は屋敷内が静かな方が好みだ」とどうでもいい情報を付け足してくる。ユリスは読書ばかりで走らないからな。
そういえば、俺もたまにユリスの部屋からこっそり本を借りるのだが、ユリスがそれに気が付いたらしい。「勝手に持っていくな」と少し文句を言われたものの、もう貸さないとは言われなかった。
エリックが帰ったと聞いて、みんな露骨に安堵していた。王太子相手ってそんなに緊張するのかな。アロンが平気でわりと失礼な態度をとるから忘れがちだが、みんなの反応の方が普通なのかも。一番安堵していたのはジャンだ。わかりやすく胸を撫で下ろしている。
エリックのお見送りが終わった後、しれっと俺の後ろをついてこようとしたアロンであったが、呆気なくブルース兄様に捕まっていた。「ここぞとばかりにサボるな」と眉間に皺を寄せる兄様。対するアロンは、「エリック殿下への苛立ちを俺で発散しないでくださいよ!」とすごく余計なことを口走って、ますますブルース兄様を怒らせていた。アロンは、たまに馬鹿なことをする。
「今度はマーティーに会いたいね」
ね? とユリスに同意を求めれば「僕は別に」という冷たい答え。こいつ、どんだけ他人に興味ないんだよ。マーティーには色々とお世話になっただろうに。ユリスが人間に戻れた際にも、マーティーは結構頑張っていた。それらの恩をすっかり忘れたらしいユリスは、短く鼻で笑う。
なんだか微妙な気分になったので、一番同意してくれそうなタイラーに再度「ね?」と意見を求めてみる。足元で綿毛ちゃんが『オレも会いたーい。坊ちゃんたちの従兄弟くん』と声を張り上げている。そういえば、マーティーに綿毛ちゃんを見せたことはないな。見せてみたい。泣き虫マーティーのことだ。びっくりして泣き出しちゃうかもしれない。
苦笑したタイラーは「そうですね。随分と会っていませんからね」と頷いてくれた。
「今度は事前に連絡をください。絶対にですよ」
「はは! 覚えていたらな」
半眼でエリックに進言するブルース兄様だが、当のエリックは軽く笑い飛ばしてしまう。ブルース兄様かわいそう。兄様は、なんでこんなに苦労しているのだろうか。
結局、ユリスは本当に部屋から出てこなかった。薄情者め。『またねぇ』と尻尾を振る綿毛ちゃんの頭を豪快に撫でまわすエリックは、「何度見ても愉快だな」と楽しそうな声色だ。喋る犬をお気に召したらしい。だが綿毛ちゃんは俺の犬なので。エリックにはあげない。
オーガス兄様も、見送りにこない。
先程、エリックと盛大に言い合いをしていたからご機嫌ななめなのかもしれない。そうでなくとも、オーガス兄様はエリックのことが嫌いである。無神経な物言いが気に食わないとよく文句を言っている。
しれっと姿を現したアロンは、相変わらず俺とエリックの間を陣取ってくる。大人気ないなぁ。おかげで、エリックの顔を見るのに苦労する。
「ルイス。気が向いたらいつでも私のところに来い。歓迎するぞ」
「うん」
歓迎すると言われたので、なにも考えずに頷けば、ブルース兄様とアロンがすごい形相になってしまう。「馬鹿」と吐き捨てる兄様は、腕を組んで苦い表情だ。
いつでも遊びに来いという意味で捉えたのだが、どうやら違ったらしい。「おまえが側室でもよければ、私は大歓迎だ」と口角を持ち上げるエリックに、目を瞬く。
「側室はいいや。マーティーと遊びたいから、マーティーに会いに行くね」
思えば、マーティーとはもう何年も会っていないような気がする。もともと頻繁に会う仲でもないからな。
俺の言葉に、アロンがどや顔する。なんでこいつが得意げな表情をするのだ。意味不明だな。エリックも同様に考えたのだろう。アロンに怪訝な目を向けている。アロンの言動がおかしいのは、いつものことだ。気にするだけ無駄。
残念だな、とたいして残念がっているようには聞こえない軽々しい声で肩をすくめるエリックは、アロンをかわして俺の前にやってくる。出遅れたアロンが、「あ」と間の抜けた声を発する。
「まあいいさ。またな」
「うん。またね」
俺の頭をぽんぽん叩いて満足そうに微笑むエリックは、そのまま勢いよく帰って行った。
大勢の騎士を伴って颯爽と引き上げていった一行を見送って、ブルース兄様は「あー」と深くため息を吐く。
「本当に疲れた。なんで俺がこんなに苦労しなければいけないんだ」
ぶつぶつと恨み言を呟く兄様は、とてもお疲れである。アロンが「相手にする必要ないのでは? 追い返せばよかったのに」と最低なことを言っている。従兄弟とはいえ、相手は王太子だぞ。そんな雑に追い返せるわけがないだろうが。
お疲れ兄様に、そっと綿毛ちゃんを差し出せば、「なんだ。どういうつもりだ」と若干引かれてしまった。綿毛ちゃんがかわいそう。
「もふもふ触れば元気になるよ」
「いや、大丈夫だ」
「そう?」
代わりに俺が撫でておこう。『やめてぇ。ボサボサになっちゃうよ』とふにゃふにゃする綿毛ちゃんを捕まえておくのは大変だった。
※※※
「エリック帰ったよ」
「よかったな」
よくはないだろ。
適当な返事をしてくるユリスは、「あいつは居るだけでうるさいだろう。僕は屋敷内が静かな方が好みだ」とどうでもいい情報を付け足してくる。ユリスは読書ばかりで走らないからな。
そういえば、俺もたまにユリスの部屋からこっそり本を借りるのだが、ユリスがそれに気が付いたらしい。「勝手に持っていくな」と少し文句を言われたものの、もう貸さないとは言われなかった。
エリックが帰ったと聞いて、みんな露骨に安堵していた。王太子相手ってそんなに緊張するのかな。アロンが平気でわりと失礼な態度をとるから忘れがちだが、みんなの反応の方が普通なのかも。一番安堵していたのはジャンだ。わかりやすく胸を撫で下ろしている。
エリックのお見送りが終わった後、しれっと俺の後ろをついてこようとしたアロンであったが、呆気なくブルース兄様に捕まっていた。「ここぞとばかりにサボるな」と眉間に皺を寄せる兄様。対するアロンは、「エリック殿下への苛立ちを俺で発散しないでくださいよ!」とすごく余計なことを口走って、ますますブルース兄様を怒らせていた。アロンは、たまに馬鹿なことをする。
「今度はマーティーに会いたいね」
ね? とユリスに同意を求めれば「僕は別に」という冷たい答え。こいつ、どんだけ他人に興味ないんだよ。マーティーには色々とお世話になっただろうに。ユリスが人間に戻れた際にも、マーティーは結構頑張っていた。それらの恩をすっかり忘れたらしいユリスは、短く鼻で笑う。
なんだか微妙な気分になったので、一番同意してくれそうなタイラーに再度「ね?」と意見を求めてみる。足元で綿毛ちゃんが『オレも会いたーい。坊ちゃんたちの従兄弟くん』と声を張り上げている。そういえば、マーティーに綿毛ちゃんを見せたことはないな。見せてみたい。泣き虫マーティーのことだ。びっくりして泣き出しちゃうかもしれない。
苦笑したタイラーは「そうですね。随分と会っていませんからね」と頷いてくれた。
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