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15歳
392 気の迷い?
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「カル先生」
「なんですか?」
カル先生は、飽きずに俺の元へとやって来る。ユリスは、いつの間にかカル先生の授業に参加しなくなり、最近では当たり前のように生徒は俺ひとりだ。なんであいつは当然のように勉強しないのか。一度ブルース兄様にこそっと告げ口してみたのだが、兄様は「ユリスには退屈なんだろ」と言うだけで話を終わらせてしまった。
授業中は、綿毛ちゃんも追い出されてしまうし。綿毛ちゃんも一緒にやると何度か主張しているのだが、カル先生は「ダメです」と素っ気ない。綿毛ちゃんが居ると、俺が真面目に聞かないと変なことを言う。
そんな綿毛ちゃんだが、俺の目が離れるのをいいことに、ひとりで色々と暴れていることを俺は知っている。お母様の部屋に突撃してお菓子をもらったり、ユリスの部屋でゴロゴロしたり。とにかくやりたい放題なのだ。
「カル先生は、どうやって先生になったの?」
「どうやって?」
意外そうに聞き返してくるカル先生は、なんでも恩師の紹介で家庭教師を始めたらしい。最初は少しだけのつもりだったらしいが、やめるタイミングを逃し、他の家も紹介され、そのまま家庭教師としてやっていくことに決めたそうだ。カル先生の小さい頃ってなんだか想像できない。いつも眼鏡をかけていて、キリッとした表情なのだ。
「給料はどれくらい?」
「質問に遠慮がないですね」
眉間に皺を寄せるカル先生は、「私ひとり十分に暮らしていけるくらいです」との曖昧な返答で誤魔化してくる。具体的にいくらか知りたかったのに。
「先生は結婚しないの?」
眼鏡を触る先生は、俺の質問を無視してしまう。この手の話題には答えないつもりらしい。カル先生のそういう話は聞いたことがない。独身だと前に言っていた。その後、結婚したという報告も聞かない。だが、俺の前で話題に出さないだけで、実は恋人いたりするのかな。
床でお昼寝するエリスちゃんに視線をやれば「こっちに集中しましょうね」と小言が飛んでくる。綿毛ちゃんは追い出されるのに、エリスちゃんは追い出されない。きっと綿毛ちゃんがお喋りでうるさいからだ。あの犬は、飽きることなくずっとお喋りしている。
「ねぇ、カル先生」
「なんです」
「俺も先生やりたい」
「……はい?」
怪訝な顔になってしまう先生は、眼鏡の位置をしきりに気にして、「え? 今なんと?」と聞き返してくる。そんなに意外なこと言ったかな、俺。
「先生やりたい。どうやったら先生になれる?」
勉強はずっと嫌いだと思っていたけど、最近はそうでもない。むしろジェフリーや綿毛ちゃん相手に教えるのはちょっと楽しい。思えば、ジェフリーに色々教えてほしいと言われてから、俺は急に勉強が苦ではなくなった。これまでは、カル先生が一方的に行う授業をはいはい聞き流していたのだが、今は結構真面目に聞いている。たまに猫の様子はチェックするけど。
俺が授業に関連して質問すると、カル先生は「え?」という顔をする。しまいには「真面目に聞いてたんですね」と放つのだ。すごく失礼。
それに、アロンにいい感じにかっこいいペンをもらった。黒色で重厚感のあるやつ。持っているだけでクールで大人な気分になれてお気に入り。
俺が気に入っていることを、アロンはすごく喜んでいた。宣言通りに、追加のインクも持ってきてくれた。これで心置きなく使える。カル先生にも見せてやれば「いい品ですね」との感心したような言葉が返ってきた。
そのペンは、今も俺の前に置かれている。
ペンとカル先生を見比べるようにして視線を移せば、先生はひどく驚いた表情をしていた。カル先生のこういう顔は珍しい。目を見開いて、ぽかんと口を開けている。
「先生?」
心配になって首を傾げれば、「え。今なんと?」と絞り出すような声が返ってきた。何度聞き返せば気が済むんだ。
「だからぁ。大人になったら先生になる!」
「それは一時の気の迷いではなく?」
失礼過ぎるカル先生は、俺の半眼に気がついて慌てたように咳払いをした。
「いえ、あの。勉強はお嫌いだったのでは?」
「最近は普通」
「そこは好きとは言わないんですね」
苦笑するカル先生。だが、嫌いじゃなくなっただけ大きな進歩ですね、とにこやかに言ってくれる。
「ユリスはね、最近ずっと魔法の研究してる。俺だけなにもしてない」
自分のやりたいことはなんだろうと考える。猫は好きだけど、それに関わる仕事をしたいかと言われればそうでもない。
そんな中、ジェフリーと出会って。
今まで末っ子扱いされていた俺を、初めてお兄ちゃんとして見てくれる彼に出会って。なんか、しっかりしないといけないと思ったのだ。
特に、ジェフリーは俺が何かを教えるとすごくきらきらとした目で聞いてくれる。
カル先生は、前に家庭教師の仕事は楽しいと言っていた。その時の俺は、そんなわけないと切り捨てたけど。今ならちょっとわかる。
「ルイス様が本当にやりたいというのであれば、私は応援しますよ」
「うん」
ふっと、小さく笑ったカル先生は、「とりあえずやってみましょう」と眼鏡を触る。
「将来のことなんて誰にも分かりませんからね。人生には様々な寄り道がある方が楽しいというものです。やりたいと思ったことがあれば、やってみるのも大事なことですよ」
まずはしっかり勉強しないといけませんね、と語るカル先生は、いつになく楽しそうな様子であった。
「なんですか?」
カル先生は、飽きずに俺の元へとやって来る。ユリスは、いつの間にかカル先生の授業に参加しなくなり、最近では当たり前のように生徒は俺ひとりだ。なんであいつは当然のように勉強しないのか。一度ブルース兄様にこそっと告げ口してみたのだが、兄様は「ユリスには退屈なんだろ」と言うだけで話を終わらせてしまった。
授業中は、綿毛ちゃんも追い出されてしまうし。綿毛ちゃんも一緒にやると何度か主張しているのだが、カル先生は「ダメです」と素っ気ない。綿毛ちゃんが居ると、俺が真面目に聞かないと変なことを言う。
そんな綿毛ちゃんだが、俺の目が離れるのをいいことに、ひとりで色々と暴れていることを俺は知っている。お母様の部屋に突撃してお菓子をもらったり、ユリスの部屋でゴロゴロしたり。とにかくやりたい放題なのだ。
「カル先生は、どうやって先生になったの?」
「どうやって?」
意外そうに聞き返してくるカル先生は、なんでも恩師の紹介で家庭教師を始めたらしい。最初は少しだけのつもりだったらしいが、やめるタイミングを逃し、他の家も紹介され、そのまま家庭教師としてやっていくことに決めたそうだ。カル先生の小さい頃ってなんだか想像できない。いつも眼鏡をかけていて、キリッとした表情なのだ。
「給料はどれくらい?」
「質問に遠慮がないですね」
眉間に皺を寄せるカル先生は、「私ひとり十分に暮らしていけるくらいです」との曖昧な返答で誤魔化してくる。具体的にいくらか知りたかったのに。
「先生は結婚しないの?」
眼鏡を触る先生は、俺の質問を無視してしまう。この手の話題には答えないつもりらしい。カル先生のそういう話は聞いたことがない。独身だと前に言っていた。その後、結婚したという報告も聞かない。だが、俺の前で話題に出さないだけで、実は恋人いたりするのかな。
床でお昼寝するエリスちゃんに視線をやれば「こっちに集中しましょうね」と小言が飛んでくる。綿毛ちゃんは追い出されるのに、エリスちゃんは追い出されない。きっと綿毛ちゃんがお喋りでうるさいからだ。あの犬は、飽きることなくずっとお喋りしている。
「ねぇ、カル先生」
「なんです」
「俺も先生やりたい」
「……はい?」
怪訝な顔になってしまう先生は、眼鏡の位置をしきりに気にして、「え? 今なんと?」と聞き返してくる。そんなに意外なこと言ったかな、俺。
「先生やりたい。どうやったら先生になれる?」
勉強はずっと嫌いだと思っていたけど、最近はそうでもない。むしろジェフリーや綿毛ちゃん相手に教えるのはちょっと楽しい。思えば、ジェフリーに色々教えてほしいと言われてから、俺は急に勉強が苦ではなくなった。これまでは、カル先生が一方的に行う授業をはいはい聞き流していたのだが、今は結構真面目に聞いている。たまに猫の様子はチェックするけど。
俺が授業に関連して質問すると、カル先生は「え?」という顔をする。しまいには「真面目に聞いてたんですね」と放つのだ。すごく失礼。
それに、アロンにいい感じにかっこいいペンをもらった。黒色で重厚感のあるやつ。持っているだけでクールで大人な気分になれてお気に入り。
俺が気に入っていることを、アロンはすごく喜んでいた。宣言通りに、追加のインクも持ってきてくれた。これで心置きなく使える。カル先生にも見せてやれば「いい品ですね」との感心したような言葉が返ってきた。
そのペンは、今も俺の前に置かれている。
ペンとカル先生を見比べるようにして視線を移せば、先生はひどく驚いた表情をしていた。カル先生のこういう顔は珍しい。目を見開いて、ぽかんと口を開けている。
「先生?」
心配になって首を傾げれば、「え。今なんと?」と絞り出すような声が返ってきた。何度聞き返せば気が済むんだ。
「だからぁ。大人になったら先生になる!」
「それは一時の気の迷いではなく?」
失礼過ぎるカル先生は、俺の半眼に気がついて慌てたように咳払いをした。
「いえ、あの。勉強はお嫌いだったのでは?」
「最近は普通」
「そこは好きとは言わないんですね」
苦笑するカル先生。だが、嫌いじゃなくなっただけ大きな進歩ですね、とにこやかに言ってくれる。
「ユリスはね、最近ずっと魔法の研究してる。俺だけなにもしてない」
自分のやりたいことはなんだろうと考える。猫は好きだけど、それに関わる仕事をしたいかと言われればそうでもない。
そんな中、ジェフリーと出会って。
今まで末っ子扱いされていた俺を、初めてお兄ちゃんとして見てくれる彼に出会って。なんか、しっかりしないといけないと思ったのだ。
特に、ジェフリーは俺が何かを教えるとすごくきらきらとした目で聞いてくれる。
カル先生は、前に家庭教師の仕事は楽しいと言っていた。その時の俺は、そんなわけないと切り捨てたけど。今ならちょっとわかる。
「ルイス様が本当にやりたいというのであれば、私は応援しますよ」
「うん」
ふっと、小さく笑ったカル先生は、「とりあえずやってみましょう」と眼鏡を触る。
「将来のことなんて誰にも分かりませんからね。人生には様々な寄り道がある方が楽しいというものです。やりたいと思ったことがあれば、やってみるのも大事なことですよ」
まずはしっかり勉強しないといけませんね、と語るカル先生は、いつになく楽しそうな様子であった。
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