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14歳

356 鋭い人

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 翌朝。
 なんか瞼が重い気がしつつも、なんとか起きる。寝起きの悪いユリスを引っ叩くが低く唸るばかりで起きる気配はない。

 それに比べて、綿毛ちゃんはシャキッと起き上がる。尻尾を振りながら俺のことを覗き込んでくる綿毛ちゃんを撫でて、ベッドから降りれば、ちょうどタイラーがやって来た。

「あ。またユリス様のベッドに潜り込んで」
「いいじゃん。それくらい」

 朝からうるさいタイラーは、俺のことを追い出そうとしてくる。俺の部屋には、ジャンが居るだろう。そしてロニーも。

 昨日のことを思い出して、二の足を踏んでしまう。ロニーはいつも通りに遊んでくれると言ってくれたが。

「どうしたんですか? はやく着替えてきてください」

 タイラーに背中を押されて、渋々廊下に出ようとしたところ、ユリスが体を起こすのが見えた。

「おい、ルイス」

 雑に呼びかけられて足を止めるが、ユリスはなにも言わずにじっと俺のことを見ている。その問いかけるような視線に、軽く頷いておく。

 綿毛ちゃんを伴って、部屋に戻った。心配なことはたくさんあるが、ユリスの言う通り大丈夫だろう。言葉こそは発しなかったが、ユリスの言いたいことはわかった。

「おはよー、ジャン」
「おはようございます。ルイス様」

 部屋には、俺の着替えを用意するジャンがいた。ちょっと探してみるが、ロニーの姿はない。がっかりするような、安堵するような。もしかして昨日の一件が原因で今日は来ないとかないよね? と少し心配になってくる。ロニーに避けられるのは、とても嫌だ。しかしジャンに尋ねてもなにも知らないらしく「今日は遅いですね」と首を捻るばかりである。

 ちらちらとドアに視線を投げながら着替えを済ませる。いつもはロニーが髪を整えてくれるのに。仕方がなく、ジャンに櫛を手渡した時、ようやくロニーがやって来た。

「……おはよ」

 ちょっと身構えて挨拶すれば、ロニーは「おはようございます」とにこやかに応じてくれる。いつも通りのロニーだ。ジャンから櫛を受け取って、すぐに髪を整えてくれる。

 その優しい手つきに、ホッと胸を撫で下ろす。ロニーはいつも通りだ。なにも変わっていない。

「ロニー」
「はい」
「今日は猫と一緒に散歩しよう」
「いいですね」

 にこにこと答えてくれるロニーにつられて、笑みがこぼれる。綿毛ちゃんも、安心したように尻尾を振っている。

 本当によかった。ロニーは真面目だから、俺の告白が原因で距離を置かれたらどうしようと思っていた。昨日の告白をなかったことにはしてほしくないけど、必要以上に気にしてほしくはない。これは俺の我儘だけど、普段通りに接してほしい。この件でロニーに迷惑はかけたくない。

 そうして部屋を出ようとしたところ、廊下にボケっと突っ立っているアロンを発見して面食らう。なにこいつ。なんでこんなところに?

「アロン。おはよう」

 ひらひらと手を振れば、アロンが眉を寄せる。なにかを探るような鋭い目線に、思わず目を逸らしてしまった。

「ルイス様」
「なに」
「こいつとなにかありました?」

 こいつと言ってアロンが指さしたのは、俺の後ろにいたロニーである。なにこの人。なんでそんなに鋭いのか。

 だが、昨日の件は誰にも言うつもりはない。あれは俺とロニーの秘密なのだ。あわあわしていれば、アロンがわかりやすく顔を歪める。不機嫌モードになってしまった彼は、「もういいです」と言い置いて背中を向けてくる。そのまま帰ると思いきや、ちらりと俺を振り向いたアロンはなんだか悲しそうな顔をしていた。

「俺は、ルイス様を泣かせたりはしませんけどね」

 ロニーを睨みつけて、早足に去っていくアロン。思いもよらない言葉に、咄嗟に返事ができなかった。

 いやそれよりも。なんで俺が泣いたって知ってるんだよ。あの口振りだと、ロニーが泣かせたと言わんばかりである。なんでそこまで知っているのか。

 まさかロニーがアロンに話したのか?

 でも、ロニーはそんな口が軽い人ではない。じゃあ一体どうして。

「俺、そんなにわかりやすい?」

 隠し事が下手だと、ユリスやブルース兄様に言われたことがある。心配になる俺であったが、ロニーは「そんなこと」と否定してくる。

「今のはちょっと。あの人が鋭いだけですよ」

 困ったように教えてくれるロニーに背中を押されて、ユリスの部屋に向かう。その背後では、話についていけないジャンが、ぱちぱちと目を瞬いていた。


※※※


「交換してもいいぞ」
「なにが?」

 ロニーとタイラーが居ない隙を狙ったように、ユリスが腕を引いてくる。

「護衛。交換してもいいぞ」
「なんで?」
「なんでって。おまえはロニーを側に置いて平気なのか?」
「うん」

 どうやら俺とロニーの仲を懸念しているらしい。まぁ、振られたからな。

 でもロニーはいつも通りだ。なにも変わらない。

 ユリスが心配してくれたことが意外で、素っ気ない反応をしてしまった。こいつは揉め事大好きなので、てっきり俺とロニーの件を揶揄ってにやにやするんだとばかり思っていたのに。

 心配するだけでなく、ロニーとタイラーを交換してやってもいいと提案してくるユリスに、頬を掻く。ユリスが積極的に手を貸してくれるのは珍しい。それと同時に、昨日からずっと心配をかけてしまって申し訳ないような気分にもなってくる。「ありがとう」と呟けば、「別にいい」と顔を逸らされてしまった。

「弟の面倒を見るのは、兄としては当然だからな」
「なんで俺が弟になってんの」

 どさくさに紛れて、兄の座を奪おうとしてくるユリスは油断ならない。腕を組んで偉そうにふんぞり返るユリスは、ブルース兄様そっくりだった。もしかして兄様の真似でもしているのだろうか。

「ロニーは優しいから。いつもと一緒だよ」
「そうか。あいつは優秀な騎士だな」

 ユリスが人を褒めるなんて珍しい。しかも褒められたのがロニーとあって、なんだか照れてしまう。へへっと笑っていれば、ユリスが変なものでも見るかのような目を向けてきた。失礼だと思う。
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