上 下
288 / 598
11歳

275 疑いの目

しおりを挟む
 颯爽と出て行くラッセルのあとを追いかける。俺に気が付いたラッセルが、怪訝な顔で足を止めた。オーガス兄様はついてくる様子がない。

「ルイス様」
「俺も行く」
「え」

 面食らったラッセルは、俺の後ろにいたジャンへと視線を遣っている。しかし、ジャンは困ったように眉尻を下げるだけで、特に何も言わない。いつものことである。ジャンに頼ってもどうにもならないと悟ったのだろう。すぐに俺へと向き直ったラッセルは、丁寧に言葉を選んでいる。

「ルイス様は、お部屋でお待ちください。私にお任せくだされば、すぐにでもユリス様を見つけてきますから」

 少し屈んで、優しく微笑んでくるラッセル。どうやら俺のことを邪魔者扱いするつもりらしい。だが、オーガス兄様は頼りにならない。俺もユリスを探しに行った方がはやい気がする。

「いや」
「しかし」
「ユリスが心配。俺も行く」

 邪魔しないからと白猫を差し出せば、ラッセルは困惑したように白猫を見つめている。触らないのか? 可愛いもふもふで誤魔化そうとしたのだが、ラッセルは動きを止めてしまった。

 しばし固まっていたラッセルだが、気を取り直したのか、一度大きく頷くと「私から離れないでくださいね」と言い聞かせてくる。うんうん頷いて、早速ラッセルと共にユリス捜索へと乗り出した。さすが忖度お兄さん。物分かりが非常によろしい。

「ユリス様が足を運びそうな場所に心当たりは?」
「うーん」

 正直、ユリスは引きこもりというイメージが強い。自室以外に、彼が積極的に足を運びそうなところってどこだろうか。

 屋敷内は、すでに使用人たちにより大捜索が行われている。ここは手が足りていると判断したラッセルは、迷いなく外へと出る。

 けれども玄関先に、思わぬ姿を見つけた。

「アロン!」
「おはようございます、ルイス様」

 ひらりと手を振ったアロンは、玄関先で偉そうに仁王立ちしていた。おそらく彼も、ユリスの捜索にあたっているはずなのだが、こんなところに突っ立って何をしているのだろうか。まさか本日もサボりだろうか。

 その疑問を口にする間もなく、こちらに歩み寄ってきたアロンは、真っ直ぐにラッセルの肩へと腕をまわした。

 うえーい、と変な声をあげるアロンは、さながら友達に絡みに行くような気軽さで、ラッセルと親しげに肩を組む。

 これに困惑したのは、ラッセルだった。

「あの、アロン殿?」
「お久しぶりです、隊長殿」
「あ、はい。お久しぶりですね」

 こうして並ぶと、アロンの方が背が高い。アロンの奇行に動揺するラッセルは、俺に助けを求めてくる。

「やめなよ、アロン」
「なんでですか?」
「ラッセルが困ってるよ」
「へー」

 興味なさそうに応じたアロンは、やめる気配がない。きょろきょろと周囲を確認するが、ブルース兄様の姿は見えない。

「それで? ユリス様はどこですか」

 じっとラッセルの顔を覗き込むアロンは、その親しげな仕草に反して、険しい表情をしていた。

 今から探しに、と口にしたラッセルは、なんだか顔色が悪くなっていく。アロンの言葉の意味を理解したといった感じで勢いよくアロンの腕を振り払おうとするが、アロンはそう簡単には隙を見せない。逆にガッチリとラッセルを羽交締めにしてみせたアロンは、ニヤリと口角を持ち上げる。悪い笑みだ。こんな時だけ手際がいいな。

「ちょっと待ってください! もしかして私のこと疑ってます⁉︎」
「そりゃあね。王立騎士団にはルイス様を連れ去った前科があるんで」
「それは第二部隊の話ですよ! 一緒にしないでいただきたい!」

 必死に否定するラッセル。どうやらアロンは、ラッセルがユリスをどこかへ連れ去ったと考えているらしい。

 その可能性は、まったく考えていなかった。さすがクソ野郎。目の付け所が違うな。

「ちょっ、助けてください! ルイス様!」

 助けてと言われても。一応、アロンにやめなよと伝えるが、「嫌ですよ」とシンプルな拒絶が返ってきた。

「ラッセル。犯人なのか?」
「違いますよ!」

 食い気味に否定するラッセルは、焦りまくりで冷静さを失っていた。まさか犯人扱いされるとは、想像もしていなかったらしい。

「私がオーガス様に喧嘩を売るわけがないでしょ!」

 なにやら大声で主張しているが、それは嘘である。先程まで、オーガス兄様とバチバチに喧嘩していた。それをアロンに告げ口すれば、ラッセルがますます青い顔になる。

「いえ、あの。それは違いますよ。本当に! 私じゃありません!」

 ひたすらに違うと繰り返すラッセルは、なんだか憐れであった。
しおりを挟む
感想 431

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶のみ失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

不幸体質っすけど役に立って、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ
BL
皇子殿下(7歳)に転生したっぽいけど、何も分からない。 侍従(8歳)と仲良くするように言われたけど、無表情すぎて何を考えてるのか分からない。 分からないことばかりの中、どうにか日々を過ごしていくうちに 主人公・イリヤはとある事件に巻き込まれて……? 思い出せない前世の死と 戸惑いながらも歩み始めた今世の生の狭間で、 ほんのりシリアスな主従ファンタジーBL開幕! .。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ HOTランキング入りしました😭🙌 ♡もエールもありがとうございます…!! ※第1話からプチ改稿中 (内容ほとんど変わりませんが、 サブタイトルがついている話は改稿済みになります) 大変お待たせしました!連載再開いたします…!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...