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11歳
261 忖度大事
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ひとしきり演説を終えたラッセルは、清々しい表情であった。
要するに、彼とオーガス兄様は大親友らしい。こんなイケメンお兄さんが、なんでオーガス兄様の親友なんてやっているのか。ちょっと怪しい。
疑いの目を向けていると、ラッセルは怪訝な顔で周囲を見まわす。どうやら俺とユリスが、お供も連れずに学園内をうろうろしていることを不思議に思っているらしい。
これはチャンスである。
すかさずラッセルに寄っていって、逃がさないようその腕をがっちりと掴む。
「えっと、ルイス様?」
やんわりと俺の手を剥がしにかかるラッセル。
「ラッセル!」
「はい、なんでしょうか」
「アロンがどっか行った。探すの手伝って」
「アロン子爵ですか?」
どうやらラッセルは、アロンのことを知っているらしい。これは話がはやい。早速みんなとはぐれた旨を説明すれば、「それは災難でしたね」と眉尻を下げてくれる。
どうやら探すのを手伝ってくれるらしい。すごくラッキーだ。
そうして、俺とユリスはラッセルと共にみんなを探すこととなった。
ラッセルはいい人だった。先程はちょっとテンションが変だったが、概ねいい人であった。
俺の話を聞いてくれるし、にこやかに相槌も打ってくれる。外見だけではなく、中身もイケメンだな。これで髪が長ければ完璧なのに。惜しいな。
双子の件について、ラッセルは特に深入りしてはこなかった。けれども俺らがオーガス兄様の弟であることは信じてくれているらしく、丁寧に接してくれる。突然の事態に対する適応能力がすごい。
「ラッセルは、なんで隊長やってるの」
道すがら、何気なく訊ねてみる。王立騎士団の隊長とかかっこいい。どうやったら隊長になれるのか、すごく気になる。
しかし、ラッセルは軽く笑うだけで流してしまう。隊長すごいねと褒めても「いえ、そんなことは」と謙遜されてしまう。これがアロンであれば、ドヤ顔でいかに自分が優れているかを語り始める場面である。ラッセルは謙虚だな。
「アロンがね、ずっと副団長になりたいって言ってるのに、なれないの。どうやったら出世できるの?」
「出世、ですか」
少し困ったように上を向いたラッセルは、言葉を探しているようだった。
「教えて! アロンに教えてあげるから」
出世のコツを教えてと言い続ける俺を、ユリスが冷めた目で見つめているが気にしない。ねぇねぇとラッセルのまわりをぐるぐるすれば、なぜかユリスも参加してくる。そのままふたりで、ラッセルを囲んでしまう。立ち尽くしたラッセルは、声こそ発しないが、すごく困っているようであった。
「出世のコツですか」
やがて諦めたように顎に手をやった彼は、渋々といった感じで「では、ひとつだけ」と秘密を暴露するかのように、唇の前に人差し指を立ててみせる。
隊長というからには強い騎士なのだろう。強さの秘密を教えてくれるというラッセルに、わくわくする。自分が剣を振るのは怖いが、剣や騎士にはすごく興味がある。そうしてラッセルの言葉を聞き逃すまいと静かに待っていれば、彼はごくごく真剣な声音で秘密を教えてくれた。
「上の言うことには決して逆らわないことです。これが一番大事ですよ」
思ってたんと違う。
そういう処世術的なものではなく、もっとこう剣術に関するものを期待していた俺は、出端を挫かれる。中途半端に握り締めた拳をそっとおろして、続きを待つ。
「出世というのは、要するにどれだけ上に気に入られるかということです。であれば、上の言うことには絶対に逆らわない。どんな無茶振りだろうと返事はYES一択。嫌な顔ひとつ見せずに快諾するのが出世の近道ですよ」
「……忖度ってこと?」
おずおずと問い掛ければ、ラッセルが大きく頷いた。
「えぇ、そうです。上の意向に従って全力で媚を売る。忖度しまくってようやく出世できるというわけですよ!」
どうしよう。この人、やっぱり変なお兄さんだ。
※※※
ラッセルは、忖度お兄さんだった。
よくわからないが、これまでの人生、上への忖度だけで成り上がってきたらしい。本人がそう語るのだから間違いはない。
「オーガス兄様にも忖度してるの?」
「いえ、そんなことは。オーガス様とは本当に親友ですよ」
絶対に嘘だ。すごくあからさまな嘘つくな、このお兄さん。
どうしていいかわからなくて、隣にいたユリスに助けを求める。興味深そうにラッセルと俺の会話を聞いていたユリスは、ポケットに手を突っ込んだまま偉そうに立っている。
「おい」
「はい、ユリス様」
「おまえ、僕の子分にしてやってもいいぞ」
「ありがとうございます!」
食い気味に返事をしたラッセルは、確かにNOとは言わなかった。これが出世のコツなのか。
しれっと子分を増やしているユリスを横目に、俺はただただ困惑していた。
要するに、彼とオーガス兄様は大親友らしい。こんなイケメンお兄さんが、なんでオーガス兄様の親友なんてやっているのか。ちょっと怪しい。
疑いの目を向けていると、ラッセルは怪訝な顔で周囲を見まわす。どうやら俺とユリスが、お供も連れずに学園内をうろうろしていることを不思議に思っているらしい。
これはチャンスである。
すかさずラッセルに寄っていって、逃がさないようその腕をがっちりと掴む。
「えっと、ルイス様?」
やんわりと俺の手を剥がしにかかるラッセル。
「ラッセル!」
「はい、なんでしょうか」
「アロンがどっか行った。探すの手伝って」
「アロン子爵ですか?」
どうやらラッセルは、アロンのことを知っているらしい。これは話がはやい。早速みんなとはぐれた旨を説明すれば、「それは災難でしたね」と眉尻を下げてくれる。
どうやら探すのを手伝ってくれるらしい。すごくラッキーだ。
そうして、俺とユリスはラッセルと共にみんなを探すこととなった。
ラッセルはいい人だった。先程はちょっとテンションが変だったが、概ねいい人であった。
俺の話を聞いてくれるし、にこやかに相槌も打ってくれる。外見だけではなく、中身もイケメンだな。これで髪が長ければ完璧なのに。惜しいな。
双子の件について、ラッセルは特に深入りしてはこなかった。けれども俺らがオーガス兄様の弟であることは信じてくれているらしく、丁寧に接してくれる。突然の事態に対する適応能力がすごい。
「ラッセルは、なんで隊長やってるの」
道すがら、何気なく訊ねてみる。王立騎士団の隊長とかかっこいい。どうやったら隊長になれるのか、すごく気になる。
しかし、ラッセルは軽く笑うだけで流してしまう。隊長すごいねと褒めても「いえ、そんなことは」と謙遜されてしまう。これがアロンであれば、ドヤ顔でいかに自分が優れているかを語り始める場面である。ラッセルは謙虚だな。
「アロンがね、ずっと副団長になりたいって言ってるのに、なれないの。どうやったら出世できるの?」
「出世、ですか」
少し困ったように上を向いたラッセルは、言葉を探しているようだった。
「教えて! アロンに教えてあげるから」
出世のコツを教えてと言い続ける俺を、ユリスが冷めた目で見つめているが気にしない。ねぇねぇとラッセルのまわりをぐるぐるすれば、なぜかユリスも参加してくる。そのままふたりで、ラッセルを囲んでしまう。立ち尽くしたラッセルは、声こそ発しないが、すごく困っているようであった。
「出世のコツですか」
やがて諦めたように顎に手をやった彼は、渋々といった感じで「では、ひとつだけ」と秘密を暴露するかのように、唇の前に人差し指を立ててみせる。
隊長というからには強い騎士なのだろう。強さの秘密を教えてくれるというラッセルに、わくわくする。自分が剣を振るのは怖いが、剣や騎士にはすごく興味がある。そうしてラッセルの言葉を聞き逃すまいと静かに待っていれば、彼はごくごく真剣な声音で秘密を教えてくれた。
「上の言うことには決して逆らわないことです。これが一番大事ですよ」
思ってたんと違う。
そういう処世術的なものではなく、もっとこう剣術に関するものを期待していた俺は、出端を挫かれる。中途半端に握り締めた拳をそっとおろして、続きを待つ。
「出世というのは、要するにどれだけ上に気に入られるかということです。であれば、上の言うことには絶対に逆らわない。どんな無茶振りだろうと返事はYES一択。嫌な顔ひとつ見せずに快諾するのが出世の近道ですよ」
「……忖度ってこと?」
おずおずと問い掛ければ、ラッセルが大きく頷いた。
「えぇ、そうです。上の意向に従って全力で媚を売る。忖度しまくってようやく出世できるというわけですよ!」
どうしよう。この人、やっぱり変なお兄さんだ。
※※※
ラッセルは、忖度お兄さんだった。
よくわからないが、これまでの人生、上への忖度だけで成り上がってきたらしい。本人がそう語るのだから間違いはない。
「オーガス兄様にも忖度してるの?」
「いえ、そんなことは。オーガス様とは本当に親友ですよ」
絶対に嘘だ。すごくあからさまな嘘つくな、このお兄さん。
どうしていいかわからなくて、隣にいたユリスに助けを求める。興味深そうにラッセルと俺の会話を聞いていたユリスは、ポケットに手を突っ込んだまま偉そうに立っている。
「おい」
「はい、ユリス様」
「おまえ、僕の子分にしてやってもいいぞ」
「ありがとうございます!」
食い気味に返事をしたラッセルは、確かにNOとは言わなかった。これが出世のコツなのか。
しれっと子分を増やしているユリスを横目に、俺はただただ困惑していた。
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