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11歳
239 ムキになる
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それはユリスの部屋でごろごろしていた時のことである。出て行けと繰り返すユリスをガン無視して、持参した白猫と戯れていた俺は、苦い顔で部屋を片付けるタイラーに興味をひかれた。
どうやら、ユリスが散らかしたガラクタをお片付けしているようだ。相変わらず用途不明の品々をぼんやり眺めていると、タイラーが「まったく。こんなに散らかして」とぶつぶつ言っている。
「……ねえ、ユリス」
「……」
ユリスの無愛想は、いまに始まったことではない。意外と彼はきちんと話を聞いているので、気にせず話しかけるに限る。
「あの変なガラクタ。どこから集めてくるの?」
ユリスは引きこもり気質である。部屋から出るところを、あまり見ない。そのわりには、変な物品がたくさんある。どこから入手してくるのか。首を捻れば、ユリスが「おまえには関係ない」と、素っ気ないことを言う。
「教えて」
「……」
「ねえ、ユリス」
「……」
「そんなこと言わずに! 教えて!」
「うるさい!」
ガバリと顔を上げたユリスは、「出て行け!」とドアを指差す。酷過ぎる。
絶対に出て行くものかと身構えれば、タイラーが「喧嘩しない」と適当に口を挟んでくる。片付けをしながら、こちらに目を向けることもなく声をかけてくる様には、もはや慣れを感じた。
「ロニー! ユリスが俺をいじめてくる」
とりあえず、全力で被害者面しておくことにする。えんえんと泣き真似をすれば、ロニーが困ったように小首を傾げている。これはいけない。ロニーに迷惑はかけられない。
ぴたりと泣き真似をやめて、ユリスを睨み付ける。そのまましばらく、無言で睨み合いをしていた俺らであるが、タイラーがこほんとわざとらしく咳払いをしてくる。
これ以上喧嘩が長引くと、本気でタイラーがキレそうだ。ふんっと視線を逸らせば、ユリスが薄く笑う。自分の勝ちだとでも言いたげなその表情に、メラメラと怒りが湧いてくる。しかし我慢だ。俺は大人なので。
「で? どこで手に入れてくるの」
話を蒸し返してやれば、ユリスが小さく舌打ちした。その愛想の悪さで、こいつ友達とかいるのかな。ちょっと心配になってくる。
「オーガスに訊けばいいだろ」
なんでオーガス兄様。少々面食らうが、根気強く話を聞いてみたところ、どうやら多くの怪しげな品は、オーガス兄様が持ってきた物らしい。マジかよ。
これはあれだ。入手経路を解明せねばならない。なんかこう、そうしなければならない気がする。
オーガス兄様のところに行ってくると伝えれば、ユリスが「相変わらず暇そうだな」と小馬鹿にしてくる。けれども、ゆったりと立ち上がった彼は、当然のような顔で寄ってくる。
「……ユリスも一緒に行くか?」
「当然だろ」
なにが当然なんだよ。だが引きこもりが外に出るなんて珍しい。どうせオーガス兄様を揶揄って遊びたいという不純な動機だろうけど。
※※※
「どっちがユリスかわかる⁉︎」
「う、うん。君はルイスだよね」
「正解!」
さすがオーガス兄様。弟の見分けくらい簡単につくらしい。感心していると「とにかく元気なのがルイスだよね。ユリスはね、なんかこう。こっちを小馬鹿にした感じで構えているよね」と、解説してくる。
仕事中らしいオーガス兄様は、疲れた顔で俺らを出迎えた。なんだか口元が引き攣っているような気もする。もしかしてユリス相手にビビっているのかもしれないな。
「それで。なんの用かな?」
控えめに首を傾げるオーガス兄様は、ユリスとは決して目を合わせようとはせず、俺に注目してくる。
「ユリスになんか色々あげてるでしょ」
「ん? あぁ、あげてるね。たまにだよ?」
別にユリスだけ特別扱いしているわけでは、と言葉を並べるオーガス兄様は、どうやら俺が「ユリスだけずるい」と殴り込みに来たと思っているらしい。そういう用件で来たのではないと誤解を解いて、本題に入る。
「ああいう面白そうな物。どこで手に入れてくるの?」
顎に手をやった兄様は、「色々だよ」と簡潔にまとめてしまう。色々ってどこだよ。それを詳しく知りたいのだ。
「いや本当に、色々だよ。出入りの商人から買ったり、遠出した街で偶然見かけた物とか、知り合いにもらったりとか」
壁際で必死に気配を消そうとするジャンに目を向けた兄様は「あぁ、そう。その猫も」と、手を打つ。
ジャンが抱えている白猫も、知り合いに譲ってもらったらしい。
「知り合い? 嘘だな」
「なんでそんな疑いを」
不服そうな表情を作ったオーガス兄様は、心底わからないという顔をしていた。
「僕も嘘だと思う」
なぜか便乗してきたユリスが、偉そうに腕を組む。じっとオーガス兄様を見据えるユリスは「だってオーガスに友達なんていないだろ」とデリケートな部分にがんがん触れに行っている。
「友達くらいいるけど⁉︎」
ムキになるオーガス兄様に、俺はユリスとこっそり顔を見合わせる。俺もユリスと同意見である。
「でも、オーガス兄様ってビビリじゃん」
「ビビリでも友達くらいできますけど⁉︎」
なにやら必死になるオーガス兄様は、果たして本当に友達いるのか怪しかった。
「オーガス兄様。見栄を張るのはよくないよ?」
「見栄じゃないよ!」
勢いよく立ち上がったオーガス兄様。それをみていたニックが、「オーガス様。そんなムキにならなくとも」と、そっと口を挟んでくる。
「ムキにはなってないよ!」
そう叫ぶオーガス兄様は、どう見てもムキになっていた。
どうやら、ユリスが散らかしたガラクタをお片付けしているようだ。相変わらず用途不明の品々をぼんやり眺めていると、タイラーが「まったく。こんなに散らかして」とぶつぶつ言っている。
「……ねえ、ユリス」
「……」
ユリスの無愛想は、いまに始まったことではない。意外と彼はきちんと話を聞いているので、気にせず話しかけるに限る。
「あの変なガラクタ。どこから集めてくるの?」
ユリスは引きこもり気質である。部屋から出るところを、あまり見ない。そのわりには、変な物品がたくさんある。どこから入手してくるのか。首を捻れば、ユリスが「おまえには関係ない」と、素っ気ないことを言う。
「教えて」
「……」
「ねえ、ユリス」
「……」
「そんなこと言わずに! 教えて!」
「うるさい!」
ガバリと顔を上げたユリスは、「出て行け!」とドアを指差す。酷過ぎる。
絶対に出て行くものかと身構えれば、タイラーが「喧嘩しない」と適当に口を挟んでくる。片付けをしながら、こちらに目を向けることもなく声をかけてくる様には、もはや慣れを感じた。
「ロニー! ユリスが俺をいじめてくる」
とりあえず、全力で被害者面しておくことにする。えんえんと泣き真似をすれば、ロニーが困ったように小首を傾げている。これはいけない。ロニーに迷惑はかけられない。
ぴたりと泣き真似をやめて、ユリスを睨み付ける。そのまましばらく、無言で睨み合いをしていた俺らであるが、タイラーがこほんとわざとらしく咳払いをしてくる。
これ以上喧嘩が長引くと、本気でタイラーがキレそうだ。ふんっと視線を逸らせば、ユリスが薄く笑う。自分の勝ちだとでも言いたげなその表情に、メラメラと怒りが湧いてくる。しかし我慢だ。俺は大人なので。
「で? どこで手に入れてくるの」
話を蒸し返してやれば、ユリスが小さく舌打ちした。その愛想の悪さで、こいつ友達とかいるのかな。ちょっと心配になってくる。
「オーガスに訊けばいいだろ」
なんでオーガス兄様。少々面食らうが、根気強く話を聞いてみたところ、どうやら多くの怪しげな品は、オーガス兄様が持ってきた物らしい。マジかよ。
これはあれだ。入手経路を解明せねばならない。なんかこう、そうしなければならない気がする。
オーガス兄様のところに行ってくると伝えれば、ユリスが「相変わらず暇そうだな」と小馬鹿にしてくる。けれども、ゆったりと立ち上がった彼は、当然のような顔で寄ってくる。
「……ユリスも一緒に行くか?」
「当然だろ」
なにが当然なんだよ。だが引きこもりが外に出るなんて珍しい。どうせオーガス兄様を揶揄って遊びたいという不純な動機だろうけど。
※※※
「どっちがユリスかわかる⁉︎」
「う、うん。君はルイスだよね」
「正解!」
さすがオーガス兄様。弟の見分けくらい簡単につくらしい。感心していると「とにかく元気なのがルイスだよね。ユリスはね、なんかこう。こっちを小馬鹿にした感じで構えているよね」と、解説してくる。
仕事中らしいオーガス兄様は、疲れた顔で俺らを出迎えた。なんだか口元が引き攣っているような気もする。もしかしてユリス相手にビビっているのかもしれないな。
「それで。なんの用かな?」
控えめに首を傾げるオーガス兄様は、ユリスとは決して目を合わせようとはせず、俺に注目してくる。
「ユリスになんか色々あげてるでしょ」
「ん? あぁ、あげてるね。たまにだよ?」
別にユリスだけ特別扱いしているわけでは、と言葉を並べるオーガス兄様は、どうやら俺が「ユリスだけずるい」と殴り込みに来たと思っているらしい。そういう用件で来たのではないと誤解を解いて、本題に入る。
「ああいう面白そうな物。どこで手に入れてくるの?」
顎に手をやった兄様は、「色々だよ」と簡潔にまとめてしまう。色々ってどこだよ。それを詳しく知りたいのだ。
「いや本当に、色々だよ。出入りの商人から買ったり、遠出した街で偶然見かけた物とか、知り合いにもらったりとか」
壁際で必死に気配を消そうとするジャンに目を向けた兄様は「あぁ、そう。その猫も」と、手を打つ。
ジャンが抱えている白猫も、知り合いに譲ってもらったらしい。
「知り合い? 嘘だな」
「なんでそんな疑いを」
不服そうな表情を作ったオーガス兄様は、心底わからないという顔をしていた。
「僕も嘘だと思う」
なぜか便乗してきたユリスが、偉そうに腕を組む。じっとオーガス兄様を見据えるユリスは「だってオーガスに友達なんていないだろ」とデリケートな部分にがんがん触れに行っている。
「友達くらいいるけど⁉︎」
ムキになるオーガス兄様に、俺はユリスとこっそり顔を見合わせる。俺もユリスと同意見である。
「でも、オーガス兄様ってビビリじゃん」
「ビビリでも友達くらいできますけど⁉︎」
なにやら必死になるオーガス兄様は、果たして本当に友達いるのか怪しかった。
「オーガス兄様。見栄を張るのはよくないよ?」
「見栄じゃないよ!」
勢いよく立ち上がったオーガス兄様。それをみていたニックが、「オーガス様。そんなムキにならなくとも」と、そっと口を挟んでくる。
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