上 下
225 / 598

214 兄様にも見せてやる

しおりを挟む
「見て、オーガス兄様。魔石をゲットした」
「あ。それ僕があげたやつ」

 なにやら言葉を切ったオーガス兄様は、微妙な表情をしていた。

「いや、気に入ってくれたのは嬉しいけどさ。君一度捨てたよね、それ」
「そうだっけ?」

 いちゃもんつけてくるオーガス兄様は、適当にあしらっておくに限る。これ捨てたのは本物ユリスであって、俺ではないからな。きらきらの魔石をお披露目してやれば、オーガス兄様は無意識に手を伸ばそうとしてくる。慌てて手を引っ込める俺。なんで全員とりあえず魔石に触ろうとしてくるのか。これは俺のだって言ってるだろうが。

 マーティーとティアンは部屋に置いてきた。兄様たちに魔石自慢しに行くと伝えたところ、「僕は行かない」とマーティーが我儘言ったためだ。どうやら兄様たちの部屋に突入することを遠慮しているらしい。変なところで気遣いを発揮するお子様である。
 マーティーをひとりにするわけにはいかないと、ティアンも部屋に残った。そうだな。ガブリエルが一緒とはいえ、ベイビーをひとりで部屋に残すのは心配だな。ティアンには、マーティーが黒猫にいじめられないよう見張っておけと伝えておいたから安心だ。

 というわけで。

 ジャンとセドリックを引き連れて、オーガス兄様の部屋にやって来た俺。

「ところでどうやってとったの? 湖に沈んでいたやつだよね」

 首を捻るオーガス兄様。ちらりとセドリックに目を向ければ、これまで黙っていたニックが「え!」と突然の大声を発した。びっくりしてニックを振り返ると、驚愕のあまり目を見開いた彼が、呆然とセドリックを見つめていた。

「……まさか副団長にとりに行かせたんですか」
「うん」

 他人事みたいにそっぽを向いているセドリックに代わって頷けば、ニックが「副団長になにやらせているんですか⁉︎」と俺の肩を掴んでくる。なんでって、おまえが頑なにとってくれないからだろ。

「セドリックは優しいから」

 とりあえずセドリックを褒めておけば、ニックが口元を引き攣らせる。俺と話してもどうにもならないと思ったのだろう。緩く首を左右に振った彼は、セドリックに向き合う。

「言ってもらえれば、俺がとりに行きましたのに」
「……そういうことは早く言え」

 ニックの申し出に、微かに眉を上げたセドリック。押し付けることができるのならば、押し付けたかったという本音が丸わかりである。

 だがしかし。俺は大事なことを訊かねばならない。

「ニック! 俺の言うこときかないのに、なんでセドリックの言うことは素直にきくんだ!」
「なんでって。うちの副団長ですよ?」
「俺は⁉︎」
「え? あー? そういやユリス様はユリス様でしたね」

 わけわからんことを口走るニックは、ばつが悪そうに首に手をやっている。どうやらセドリック信者である彼は、ついうっかり俺のことを忘れてセドリック一直線になってしまったらしい。意味がわからない。

 セドリックが余計な仕事するんて珍しいと驚いているオーガス兄様は、きょろきょろと視線を彷徨わせている。

「マーティーは?」
「俺の部屋」
「一緒に遊ばないの?」
「遊んでる。今はティアンにお任せしている」

 そうなんだ、とたいして興味なさそうなオーガス兄様。エリック相手だとビビるくせに、マーティー相手だと普通らしい。マーティーがベイビーだからか?

「そういえば、オーガス兄様。マーティーがね、オーガス兄様の行為は人間として恥ずべき行為だって言ってたよ」
「え、なんで?」

 どういうことだよ、と首を捻る兄様は「えーと、具体的にはどの行為のこと?」と困ったように佇んでいる。どうやら心当たりがたくさんあるらしい。さすがオーガス兄様。

「勝手に人の縁談お断りしたらダメだよ」
「あー、その件。はい、ごめんなさい」

 遠い目をしたオーガス兄様は、相変わらず頼りのない長男であった。
 

※※※


「見て、ブルース兄様。魔石」
「……セドリックが動くなんて珍しいな」

 ひくりと頬を引き攣らせるブルース兄様は、信じられない物でも見るかのような目で、セドリックを凝視している。

「さっさと取りに行った方が早いと判断致しました」
「そうか」

 簡潔に報告するセドリックは、多くを語らない。再び黙り込んだ彼は、我関せずといった顔で控えている。

「アロンと違って、セドリックは優しい」
「副団長のは優しさではなく、妥協ですよ。できるだけ仕事を最小限にしたいだけです。今回だって延々とユリス様を宥めるより、湖に潜った方がマシだと判断しただけですよ」
「やめなよ、アロン」

 彼がなんと言おうが、実際に魔石を取ってきてくれたセドリックの方が優しい。なぜか喧嘩腰となるアロンを落ち着かせて、俺は魔石を自慢する。

「ほら見て。きれい」
「ユリス様の方が断然お綺麗ですよ」
「まあね」

 魔石ではなく、俺を凝視するアロンは、俺の魅力をよくわかっている。得意になって胸を張れば、ブルース兄様が「どういう会話なんだ」と眉を寄せる。どうやら俺だけアロンに褒められて拗ねているらしい。だがブルース兄様は顔が怖いからな。綺麗という言葉は似合わない。眉間の皺をどうにかしたらいいと思う、とお伝えすれば「やかましい」とひと睨みされてしまった。酷い。
しおりを挟む
感想 431

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶のみ失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

不幸体質っすけど役に立って、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する

めろ
BL
皇子殿下(7歳)に転生したっぽいけど、何も分からない。 侍従(8歳)と仲良くするように言われたけど、無表情すぎて何を考えてるのか分からない。 分からないことばかりの中、どうにか日々を過ごしていくうちに 主人公・イリヤはとある事件に巻き込まれて……? 思い出せない前世の死と 戸惑いながらも歩み始めた今世の生の狭間で、 ほんのりシリアスな主従ファンタジーBL開幕! .。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ HOTランキング入りしました😭🙌 ♡もエールもありがとうございます…!! ※第1話からプチ改稿中 (内容ほとんど変わりませんが、 サブタイトルがついている話は改稿済みになります) 大変お待たせしました!連載再開いたします…!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...