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211 魔石ゲットしたい
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「とりあえず、やってみたい。魔法。猫を元に戻す」
「いや、だから。そんな簡単な話ではないって」
俺を宥めるかのように眉を寄せるマーティーは、大きく欠伸をする。もう夜中である。だが更けていく夜とは対照的に、俺はすっかり目が冴えていた。
だってこんな楽しいこと、滅多にないぞ。
猫を元に戻そうと主張するのだが、マーティーと黒猫ユリスは乗り気ではない。面倒くさそうに顔を見合わせている。
「もう寝てもいいか? 流石に眠い」
「確かに。ベイビーは寝る時間だな」
「ベイビーはおまえの方だろ」
「なんだと! もう一回言ってみろ!」
「うるさい」
軽くあしらってベッドに潜るマーティーは、本当に寝るつもりらしい。まだ話は終わってないのに。
『おまえも寝ろ』
そんなことを言って、黒猫ユリスも丸くなる。「眠くない! 眠れない!」と主張しておくが、誰も反応してくれない。いくらなんでも無視は酷い。人としてどうなんだ。腹いせにマーティーの頭を小突いておく。「やめろ」と小さく抗議をしたマーティーは、目を開けることすらしない。ちくしょう。
※※※
「……おい、朝だぞ」
ゆさゆさと体を遠慮なしに揺さぶられて、目を擦る。むにゃむにゃしながら体を起こすと、「遅くまで起きているからだぞ」となにやらお兄さんぶったマーティーの声が聞こえた。
ふわぁっと欠伸して、ベッドの中を確認する。丸くなる黒猫を発見したので、引っ張り出しておく。『寒い』と文句が聞こえてきたが、知らんふりをした。
「おはようございます、ユリス様」
「おはよう、ジャン」
いつの間にか顔を見せていたジャンに挨拶をしておく。そうしてきょろきょろした俺は、部屋の本棚をぼけっと眺めているセドリックが居ることに気がついた。
「セドリック!」
とりあえず大声で呼んでおけば、振り向いた彼が「お久しぶりです」と一礼してくる。そういえば、昨日タイラーがお休み欲しいと言っていたな。代わりにセドリックが来るとも。
いつの間にか、すっかり着替えて身支度を整えていたマーティーを横目に、俺ももそもそと着替える。
「もうちょいはやく起こしてよ」
なんで自分だけ準備バッチリなんだ。マーティーに文句を言っておけば、「何度も起こしたさ。おまえが起きなかったんだろ」との苦情があった。そうなの? 記憶にない。
「セドリック! 今日は一緒に遊ぼうね」
「……私のことはお気になさらず」
一瞬嫌な顔をしたセドリックは、冷たい反応だ。だが彼の無表情無関心はいつものことだ。気にしていたらきりがない。
マーティーと一緒に朝食を食べて、早速庭に出ようと提案してみる。渋るマーティーであったが、ガブリエルの困ったような顔を見て意見を翻した。
「まぁ、子供と遊んでやるのも大人の勤めだな」
「違う。俺がマーティーと遊んでやっているんだ」
慌てて訂正するが、マーティーはなんだか小馬鹿にするような視線を向けてくる。クソ失礼なお子様である。
そうして庭に出た俺らであったが、マーティーははやくも室内に戻りたい様子であった。寒いと言いながら両手を擦り合わせてアピールしてくる。
黒猫ユリスも一緒である。マフラーでぐるぐる巻きにしてジャンに持たせている。『僕は必要ないだろ』とぐちぐち言っている。
そうして存分に庭を駆け回った俺は、ピンときた。昨夜は魔力が足りなくて黒猫ユリスを元に戻せない的な小難しい話をしていた。では、足りない魔力を補えば、黒猫ユリスを元に戻せるのでは?
そして魔力と言われて思い浮かぶものがある。
「魔石取りに行こう!」
「……は?」
そうだよ。魔石があるのだ。それもオーガス兄様とブルース兄様が、相当珍しい魔石だと言っていた。なんかお高そうな石だった。あれがあれば、どうにかなるのでは?
勢い込んで宣言すれば、マーティーが「魔石……?」と首を捻る。そういやこいつは湖の件は知らなかったな。マーティーの手を引っ張って、魔石について教えてやる。オーガス兄様が本物ユリスにあげたのだが、苛立ったユリスが湖に投げ捨てた件だ。「なんでそんな酷いことをするんだ」と若干引いている。だよな。やること酷すぎるよな。
「魔石ゲットしに行くぞ!」
「はぁ」
気の抜けた返事をするマーティーは、あてになりそうにない。黒猫ユリスに目を向けると、『それは、どうなんだ』との微妙な返事があった。
どうなんだってなに?
『確かに魔力は込められてはいるが、使い方がよくわからん』
「そうなの?」
でもティアンもそんなこと言ってたな。でも現物がないことには考えても仕方がないと思う。とりあえず魔石取りに行こうと急かせば、マーティーが「どうやって?」と目を瞬く。
どうやって?
「湖に潜ってとる」
「おまえ、潜れるのか?」
「……やればできる気がする」
「そんな無茶な」
呆れたと言わんばかりのマーティー。ふむ。じゃあどうするか。視線を動かして黒猫ユリス、ジャンを視界におさめる。こいつらはちょっとあてにならない。そして次に視界に映ったセドリックに、俺はピンとくる。
「セドリック!」
「無茶です」
「セドリック!」
「ユリス様。森はダメです」
「セドリック!」
「……」
ぴたりと口を閉じたセドリックは、微かにではあるが口元を引き攣らせている。基本、何事にも無関心な彼であるが、俺もしつこさには自信があるぞ。ひたすら名前を連呼しておけば、逃れられないと悟ったらしいセドリックが、ガブリエルに目を向けた。
だが、固まる年若い彼は、さっと視線を逸らす。
「あの、ユリス様」
「セドリック! 魔石とって! 湖の中に落ちてるやつ。アロンはとってくれなかった」
「森の中は危険です」
「この間行ったじゃん。大丈夫。余計なことはしないからぁ!」
お願いとしつこくセドリックのまわりをぐるぐる回れば、セドリックは遠い目をしていた。
「……では私がとってきます。ユリス様はお部屋でお待ちください」
「やったぁ!」
ありがとう、セドリック。アロンとは大違いだ。
「いや、だから。そんな簡単な話ではないって」
俺を宥めるかのように眉を寄せるマーティーは、大きく欠伸をする。もう夜中である。だが更けていく夜とは対照的に、俺はすっかり目が冴えていた。
だってこんな楽しいこと、滅多にないぞ。
猫を元に戻そうと主張するのだが、マーティーと黒猫ユリスは乗り気ではない。面倒くさそうに顔を見合わせている。
「もう寝てもいいか? 流石に眠い」
「確かに。ベイビーは寝る時間だな」
「ベイビーはおまえの方だろ」
「なんだと! もう一回言ってみろ!」
「うるさい」
軽くあしらってベッドに潜るマーティーは、本当に寝るつもりらしい。まだ話は終わってないのに。
『おまえも寝ろ』
そんなことを言って、黒猫ユリスも丸くなる。「眠くない! 眠れない!」と主張しておくが、誰も反応してくれない。いくらなんでも無視は酷い。人としてどうなんだ。腹いせにマーティーの頭を小突いておく。「やめろ」と小さく抗議をしたマーティーは、目を開けることすらしない。ちくしょう。
※※※
「……おい、朝だぞ」
ゆさゆさと体を遠慮なしに揺さぶられて、目を擦る。むにゃむにゃしながら体を起こすと、「遅くまで起きているからだぞ」となにやらお兄さんぶったマーティーの声が聞こえた。
ふわぁっと欠伸して、ベッドの中を確認する。丸くなる黒猫を発見したので、引っ張り出しておく。『寒い』と文句が聞こえてきたが、知らんふりをした。
「おはようございます、ユリス様」
「おはよう、ジャン」
いつの間にか顔を見せていたジャンに挨拶をしておく。そうしてきょろきょろした俺は、部屋の本棚をぼけっと眺めているセドリックが居ることに気がついた。
「セドリック!」
とりあえず大声で呼んでおけば、振り向いた彼が「お久しぶりです」と一礼してくる。そういえば、昨日タイラーがお休み欲しいと言っていたな。代わりにセドリックが来るとも。
いつの間にか、すっかり着替えて身支度を整えていたマーティーを横目に、俺ももそもそと着替える。
「もうちょいはやく起こしてよ」
なんで自分だけ準備バッチリなんだ。マーティーに文句を言っておけば、「何度も起こしたさ。おまえが起きなかったんだろ」との苦情があった。そうなの? 記憶にない。
「セドリック! 今日は一緒に遊ぼうね」
「……私のことはお気になさらず」
一瞬嫌な顔をしたセドリックは、冷たい反応だ。だが彼の無表情無関心はいつものことだ。気にしていたらきりがない。
マーティーと一緒に朝食を食べて、早速庭に出ようと提案してみる。渋るマーティーであったが、ガブリエルの困ったような顔を見て意見を翻した。
「まぁ、子供と遊んでやるのも大人の勤めだな」
「違う。俺がマーティーと遊んでやっているんだ」
慌てて訂正するが、マーティーはなんだか小馬鹿にするような視線を向けてくる。クソ失礼なお子様である。
そうして庭に出た俺らであったが、マーティーははやくも室内に戻りたい様子であった。寒いと言いながら両手を擦り合わせてアピールしてくる。
黒猫ユリスも一緒である。マフラーでぐるぐる巻きにしてジャンに持たせている。『僕は必要ないだろ』とぐちぐち言っている。
そうして存分に庭を駆け回った俺は、ピンときた。昨夜は魔力が足りなくて黒猫ユリスを元に戻せない的な小難しい話をしていた。では、足りない魔力を補えば、黒猫ユリスを元に戻せるのでは?
そして魔力と言われて思い浮かぶものがある。
「魔石取りに行こう!」
「……は?」
そうだよ。魔石があるのだ。それもオーガス兄様とブルース兄様が、相当珍しい魔石だと言っていた。なんかお高そうな石だった。あれがあれば、どうにかなるのでは?
勢い込んで宣言すれば、マーティーが「魔石……?」と首を捻る。そういやこいつは湖の件は知らなかったな。マーティーの手を引っ張って、魔石について教えてやる。オーガス兄様が本物ユリスにあげたのだが、苛立ったユリスが湖に投げ捨てた件だ。「なんでそんな酷いことをするんだ」と若干引いている。だよな。やること酷すぎるよな。
「魔石ゲットしに行くぞ!」
「はぁ」
気の抜けた返事をするマーティーは、あてになりそうにない。黒猫ユリスに目を向けると、『それは、どうなんだ』との微妙な返事があった。
どうなんだってなに?
『確かに魔力は込められてはいるが、使い方がよくわからん』
「そうなの?」
でもティアンもそんなこと言ってたな。でも現物がないことには考えても仕方がないと思う。とりあえず魔石取りに行こうと急かせば、マーティーが「どうやって?」と目を瞬く。
どうやって?
「湖に潜ってとる」
「おまえ、潜れるのか?」
「……やればできる気がする」
「そんな無茶な」
呆れたと言わんばかりのマーティー。ふむ。じゃあどうするか。視線を動かして黒猫ユリス、ジャンを視界におさめる。こいつらはちょっとあてにならない。そして次に視界に映ったセドリックに、俺はピンとくる。
「セドリック!」
「無茶です」
「セドリック!」
「ユリス様。森はダメです」
「セドリック!」
「……」
ぴたりと口を閉じたセドリックは、微かにではあるが口元を引き攣らせている。基本、何事にも無関心な彼であるが、俺もしつこさには自信があるぞ。ひたすら名前を連呼しておけば、逃れられないと悟ったらしいセドリックが、ガブリエルに目を向けた。
だが、固まる年若い彼は、さっと視線を逸らす。
「あの、ユリス様」
「セドリック! 魔石とって! 湖の中に落ちてるやつ。アロンはとってくれなかった」
「森の中は危険です」
「この間行ったじゃん。大丈夫。余計なことはしないからぁ!」
お願いとしつこくセドリックのまわりをぐるぐる回れば、セドリックは遠い目をしていた。
「……では私がとってきます。ユリス様はお部屋でお待ちください」
「やったぁ!」
ありがとう、セドリック。アロンとは大違いだ。
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