219 / 580
208 猫になる方法
しおりを挟む
「あの変な本。あれなにが書いてあるんだ?」
その日の夜。
今日もマーティーを俺の部屋に招待した。一応、嫉妬深いオーガス兄様に再度確認すれば「だから別にいいんじゃない? マーティーと随分仲良くなったね」と小首を傾げていた。なんでマーティーはいいんだろうか。アロンはダメなのに。どんだけアロンのことが嫌いなんだ。
タイラーたちが引き上げた後、ソワソワしていたマーティーが、そんなことを訊いてくる。どうやら魔導書に興味津々らしい。昼間、ティアンに読めないことを指摘されたのが悔しいのかもしれない。戸棚から勝手に魔導書を引っ張り出してきたマーティーは、ベッドに寝転がってパラパラとページを捲っている。それを横から覗き込んで、ついでに黒猫をなでなでしておく。
「これなんて書いてあんの?」
『自分で読めばいいだろ』
黒猫ユリスは素っ気ない。ふにゃふにゃ言って協力してくれない。
なんでこんな頑なに中身を教えてくれないのか。そんなにマズイことが? と考えて、ハッとする。わかってしまった。魔導書の中身。
だって黒猫ユリスが秘密にしたいことなんて、あれしかないのでは?
「……もしかして、猫になる方法が書いてあるのか?」
ピクリと、黒猫の耳が動く。ジトッと半眼になる黒猫は、誤魔化すように顔を背けた。
『……人間が猫になれるわけないだろ』
「なってるじゃん!」
おまえがその実例だろが。
しかしこの反応は間違いない。これはあれだ。絶対に猫になれる方法が書いてあるに違いない。それを使って、こいつは黒猫になったんだ。
「マーティー! こいつ猫になる方法を独り占めするつもりだぞ!」
とりあえずマーティーに教えてやれば、彼は「なんで?」と首を捻る。なんでってなに? 知らないよ。
急いで魔導書をマーティーから奪い取る。そうして真剣にページを捲ってみるが、やはり読めない。挿絵も少ないからマジで意味がわからない。ちくしょう。
悔しさのあまり、ベッドに転がって足をバタバタさせる。「埃がするからやめろ」と文句を言うマーティーは無視だ。
「俺も猫になりたい! 自分だけズルいぃ!」
「……こいつはなにを言っているんだ?」
若干引いた目で俺を見下ろしてくるマーティーは、黒猫ユリスに問いかけている。おまえ、猫の言葉理解できないだろ。なんで猫と会話しようとするんだ。
『相変わらずお気楽な奴だな』
くわっと欠伸する黒猫ユリスは、俺の仮説を否定しない。ということはだ。どうやらユリスは、この魔導書をもとに色々やって猫になったらしい。俺がユリスに成り代わったのもこれが原因だろう。
全ての原因はこの魔導書ということか。
「ねぇ! 教えて! 猫になる方法! 教えてくれないならこれオーガス兄様に返してやる!」
『やめろ馬鹿』
素早く寄ってきた黒猫ユリスは、やはり魔導書の中身をオーガス兄様には知られたくないらしい。
教えてくれないならオーガス兄様に魔導書見せてやる! と盛大に騒いでやれば、マーティーが「静かにしないか。今何時だと思っている」とお兄さんぶってくる。
俺を六歳児だと酷い誤解をしているマーティーは、すっかりお兄さん気分でいるらしい。つい先日までは少しお子様扱いするだけで泣き喚いていたというのに。今ではちょっと困ったように眉尻を下げるだけで流してしまう。なんだその余裕な態度は。
「マーティー! おまえはなんで読めないんだ! 勉強してないからだろ!」
真面目に勉強しておけと指を突きつければ、マーティーが「い、今から習うんだ!」と言い訳を紡ぐ。
「……ティアンに読んでもらう!」
『絶対にダメだ』
どうやら黒猫ユリスは、ティアンのことも嫌いらしい。思えば、ティアンに触られる度に威嚇していた。気難しい猫である。
「俺はやる時はやるぞ。魔導書みんなに見せびらかしてやる」
『ダメだと言っている』
冷たい黒猫は、苛立ったようにバタバタしている。だが魔導書を俺が本当に見せびらかしてまわると考えているのだろう。悔しそうに顔を歪めている。黒猫の言葉が聞こえないマーティーは、「なにがどうなっているんだ」とひとりで困っている。
今は黒猫ユリスが我儘言っているところだ。マーティーは、俺に味方しろ。やがて、渋々といった感じで、黒猫ユリスが低く唸る。
『……絶対に誰にも言わないと約束できるか』
「できる! 任せておけ!」
『不安だ』
なんだと。とりあえずマーティーにも「内緒な!」と念押しすれば、「よくわからんが、わかった」と力強い頷きが返ってきた。よしよし。
「マーティーも内緒にできるってよ」
『なによりもおまえが心配なんだが』
「俺? 俺は口堅いよ」
『嘘をつくな』
全然俺のことを信用していないらしい黒猫ユリスは、悩むように険しい顔をしている。そんなに悩まなくても。俺マジで秘密は守れるから大丈夫だよ。
その日の夜。
今日もマーティーを俺の部屋に招待した。一応、嫉妬深いオーガス兄様に再度確認すれば「だから別にいいんじゃない? マーティーと随分仲良くなったね」と小首を傾げていた。なんでマーティーはいいんだろうか。アロンはダメなのに。どんだけアロンのことが嫌いなんだ。
タイラーたちが引き上げた後、ソワソワしていたマーティーが、そんなことを訊いてくる。どうやら魔導書に興味津々らしい。昼間、ティアンに読めないことを指摘されたのが悔しいのかもしれない。戸棚から勝手に魔導書を引っ張り出してきたマーティーは、ベッドに寝転がってパラパラとページを捲っている。それを横から覗き込んで、ついでに黒猫をなでなでしておく。
「これなんて書いてあんの?」
『自分で読めばいいだろ』
黒猫ユリスは素っ気ない。ふにゃふにゃ言って協力してくれない。
なんでこんな頑なに中身を教えてくれないのか。そんなにマズイことが? と考えて、ハッとする。わかってしまった。魔導書の中身。
だって黒猫ユリスが秘密にしたいことなんて、あれしかないのでは?
「……もしかして、猫になる方法が書いてあるのか?」
ピクリと、黒猫の耳が動く。ジトッと半眼になる黒猫は、誤魔化すように顔を背けた。
『……人間が猫になれるわけないだろ』
「なってるじゃん!」
おまえがその実例だろが。
しかしこの反応は間違いない。これはあれだ。絶対に猫になれる方法が書いてあるに違いない。それを使って、こいつは黒猫になったんだ。
「マーティー! こいつ猫になる方法を独り占めするつもりだぞ!」
とりあえずマーティーに教えてやれば、彼は「なんで?」と首を捻る。なんでってなに? 知らないよ。
急いで魔導書をマーティーから奪い取る。そうして真剣にページを捲ってみるが、やはり読めない。挿絵も少ないからマジで意味がわからない。ちくしょう。
悔しさのあまり、ベッドに転がって足をバタバタさせる。「埃がするからやめろ」と文句を言うマーティーは無視だ。
「俺も猫になりたい! 自分だけズルいぃ!」
「……こいつはなにを言っているんだ?」
若干引いた目で俺を見下ろしてくるマーティーは、黒猫ユリスに問いかけている。おまえ、猫の言葉理解できないだろ。なんで猫と会話しようとするんだ。
『相変わらずお気楽な奴だな』
くわっと欠伸する黒猫ユリスは、俺の仮説を否定しない。ということはだ。どうやらユリスは、この魔導書をもとに色々やって猫になったらしい。俺がユリスに成り代わったのもこれが原因だろう。
全ての原因はこの魔導書ということか。
「ねぇ! 教えて! 猫になる方法! 教えてくれないならこれオーガス兄様に返してやる!」
『やめろ馬鹿』
素早く寄ってきた黒猫ユリスは、やはり魔導書の中身をオーガス兄様には知られたくないらしい。
教えてくれないならオーガス兄様に魔導書見せてやる! と盛大に騒いでやれば、マーティーが「静かにしないか。今何時だと思っている」とお兄さんぶってくる。
俺を六歳児だと酷い誤解をしているマーティーは、すっかりお兄さん気分でいるらしい。つい先日までは少しお子様扱いするだけで泣き喚いていたというのに。今ではちょっと困ったように眉尻を下げるだけで流してしまう。なんだその余裕な態度は。
「マーティー! おまえはなんで読めないんだ! 勉強してないからだろ!」
真面目に勉強しておけと指を突きつければ、マーティーが「い、今から習うんだ!」と言い訳を紡ぐ。
「……ティアンに読んでもらう!」
『絶対にダメだ』
どうやら黒猫ユリスは、ティアンのことも嫌いらしい。思えば、ティアンに触られる度に威嚇していた。気難しい猫である。
「俺はやる時はやるぞ。魔導書みんなに見せびらかしてやる」
『ダメだと言っている』
冷たい黒猫は、苛立ったようにバタバタしている。だが魔導書を俺が本当に見せびらかしてまわると考えているのだろう。悔しそうに顔を歪めている。黒猫の言葉が聞こえないマーティーは、「なにがどうなっているんだ」とひとりで困っている。
今は黒猫ユリスが我儘言っているところだ。マーティーは、俺に味方しろ。やがて、渋々といった感じで、黒猫ユリスが低く唸る。
『……絶対に誰にも言わないと約束できるか』
「できる! 任せておけ!」
『不安だ』
なんだと。とりあえずマーティーにも「内緒な!」と念押しすれば、「よくわからんが、わかった」と力強い頷きが返ってきた。よしよし。
「マーティーも内緒にできるってよ」
『なによりもおまえが心配なんだが』
「俺? 俺は口堅いよ」
『嘘をつくな』
全然俺のことを信用していないらしい黒猫ユリスは、悩むように険しい顔をしている。そんなに悩まなくても。俺マジで秘密は守れるから大丈夫だよ。
308
お気に入りに追加
3,005
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる