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166 打ち負かしてやれ
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「やあ! ユリス」
「来たな。デニス」
「だからデニーって呼んでよ」
「来たな。デニー」
翌日。
宣言通りにやって来たデニスは、今日も顔だけは可愛かった。昨日と同じくジャンとタイラー。そしてティアンもいる。どうやら俺とデニスのことが気になるらしく、最近ティアンがずっと俺の側にいる。
ちなみにアロンはいない。先程まで一緒だったのだが、仕事をサボっていることがブルース兄様にバレて連行されていった。やっぱりサボりだったか。
『今日こそはこいつを打ち負かしてやれ!』
鼻息荒い黒猫ユリスが足元でうろうろしている。言われなくともそのつもりである。お供を引き連れて来たデニスは、俺ににこっと微笑んで手を取ってくる。
「ねぇ、今日はさ」
「庭で遊ぶ!」
先回りして要望を伝えれば、デニスがちょっと眉を寄せる。
「寒いよ」
「大丈夫」
「僕が大丈夫じゃないんだよ」
そう言って屋敷内に入ろうとしてしまう。負けてたまるか! 踏ん張って阻止すれば、デニスが「そんなに外で遊びたいの?」と呆れ顔をする。遊びたいに決まっている。
「じゃあ訊くけど、デニスは部屋の中でなにして遊ぶつもりなの」
「お喋りしようよ」
断固拒否!
なにが楽しいのだ。俺はまったく楽しくないぞ。嫌だと声を張り上げれば、デニスが肩をすくめる。
「じゃあユリスはなにがしたいの?」
「噴水見に行く」
「それこそなにが面白いのかわからない」
なんだと?
つくづく趣味が合わない。俺は昨日デニスに合わせてやったんだから、今日はデニスが俺に合わせるべきだ。そうしないと不公平だ、と地団駄を踏めば、デニスのお供である男性が「デニス様」と控えめに声を発する。三十代くらいのピシッとした男だ。綺麗に髪を撫で付けて、細身の敏腕執事って感じの見た目だ。
「なに」
「あまり我儘を言うものではありませんよ」
お? なにやら敏腕執事が俺の味方を始めた。いいぞ、その調子だ。「そうだ! そうだ!」と拳を上げて同調すれば「やめなさい」とティアンに怒られてしまった。
小さく舌打ちをしたデニスは「はーい」とわざとらしい返事をしている。しかしこれはチャンスである。
大人しくなったデニス相手に再度「外で遊ぶ」とお伝えすれば、明らかに嫌な顔をするが直接の文句は言ってこない。ただただ俺を静かに睨み付けている。
『あの使用人つかえるな。褒めてやってもいいぞ』
黒猫が偉そうなことを言っている。概ね同意である。
「ユリス様」
そうして静かにデニスと睨み合いを繰り広げていた時である。ティアンが俺の袖を引いた。
「温室で遊んではいかがですか? あそこなら外よりは暖かいですよ」
「いいね、それ! じゃあ温室に行こうか、ユリス」
なぜか俺よりも食いついたデニスは、早く案内しろと俺を顎でこき使おうとしてくる。だが部屋でお喋りよりはマシである。仕方がない。俺が折れてやろう。
※※※
「ここが温室。たまに猫が寝ている」
「暖かいもんね」
黒猫ユリスをもふもふしてからデニスが満足そうに頷いた。
「ところでこの猫、なんて名前なの?」
「猫」
「……飼ってるんだよね?」
「そうだよ。俺の猫」
なんだか変な顔をしたデニス。「名前くらいつけてあげなよ」と再び黒猫ユリスをもふもふしている。
「猫ちゃん、お名前なくて可哀想だね? ユリス意地悪だね?」
『気安く触るな! ガキ!』
なにやら楽しそうに黒猫ユリスへと語りかけているが、すごい悪口言われてる。
「僕が飼ってあげようか?」
『ふざけるな! 誰がおまえみたいな性悪についていくか!』
「すごく鳴いてるね。僕に飼ってほしいみたいだよ」
んなこと言ってないよ。すごいデニスの悪口言ってるよ、その猫。
「僕が貰ってあげる」
「ダメ! 絶対!」
いきなりなにを言い出すのだ、このお子様。信じられない。慌てて黒猫ユリスを抱きかかえてデニスにとられないよう守ってやる。
じりじりと後退れば、デニスが不満そうな顔をする。
「ケチだね」
「近づくな! 猫泥棒め!」
もう我慢できない。なんだこのお子様。
庭遊びは拒否するわ、猫奪おうとするわ。やりたい放題じゃないか。もう耐えられない。俺の中でなにかが爆発した瞬間である。たまっていた苛立ちが一気に爆ぜた。
「ストレス!」
「は? なに急に」
「ストレス! ストレス! ストレス‼︎」
ありったけの大声で叫んでやれば、デニスが怪訝な顔で耳を塞ぐ。「あぁ、ついに我慢の限界が」とティアンがあわあわしている。タイラーとジャンも困惑顔である。
「ものすごくストレス! もうデニスと遊ばない!」
ビシッと指を突き付けてやれば、タイラーが間に割って入ってくる。「落ち着きましょう、ユリス様」と背中を撫でられるが、それくらいでおさまるストレス量ではない。
「もう遊んであげない!」
勢いそのままに駆け出して温室を飛び出してやる。『いいぞ! やれやれ!』と黒猫ユリスが鼻息荒く応援してくる。
「ちょっと! ユリス様!」
俺とデニスの間で、ティアンたちがオロオロしているが知らない。もう俺はデニスと遊んでやらないと決めたのだ。
「来たな。デニス」
「だからデニーって呼んでよ」
「来たな。デニー」
翌日。
宣言通りにやって来たデニスは、今日も顔だけは可愛かった。昨日と同じくジャンとタイラー。そしてティアンもいる。どうやら俺とデニスのことが気になるらしく、最近ティアンがずっと俺の側にいる。
ちなみにアロンはいない。先程まで一緒だったのだが、仕事をサボっていることがブルース兄様にバレて連行されていった。やっぱりサボりだったか。
『今日こそはこいつを打ち負かしてやれ!』
鼻息荒い黒猫ユリスが足元でうろうろしている。言われなくともそのつもりである。お供を引き連れて来たデニスは、俺ににこっと微笑んで手を取ってくる。
「ねぇ、今日はさ」
「庭で遊ぶ!」
先回りして要望を伝えれば、デニスがちょっと眉を寄せる。
「寒いよ」
「大丈夫」
「僕が大丈夫じゃないんだよ」
そう言って屋敷内に入ろうとしてしまう。負けてたまるか! 踏ん張って阻止すれば、デニスが「そんなに外で遊びたいの?」と呆れ顔をする。遊びたいに決まっている。
「じゃあ訊くけど、デニスは部屋の中でなにして遊ぶつもりなの」
「お喋りしようよ」
断固拒否!
なにが楽しいのだ。俺はまったく楽しくないぞ。嫌だと声を張り上げれば、デニスが肩をすくめる。
「じゃあユリスはなにがしたいの?」
「噴水見に行く」
「それこそなにが面白いのかわからない」
なんだと?
つくづく趣味が合わない。俺は昨日デニスに合わせてやったんだから、今日はデニスが俺に合わせるべきだ。そうしないと不公平だ、と地団駄を踏めば、デニスのお供である男性が「デニス様」と控えめに声を発する。三十代くらいのピシッとした男だ。綺麗に髪を撫で付けて、細身の敏腕執事って感じの見た目だ。
「なに」
「あまり我儘を言うものではありませんよ」
お? なにやら敏腕執事が俺の味方を始めた。いいぞ、その調子だ。「そうだ! そうだ!」と拳を上げて同調すれば「やめなさい」とティアンに怒られてしまった。
小さく舌打ちをしたデニスは「はーい」とわざとらしい返事をしている。しかしこれはチャンスである。
大人しくなったデニス相手に再度「外で遊ぶ」とお伝えすれば、明らかに嫌な顔をするが直接の文句は言ってこない。ただただ俺を静かに睨み付けている。
『あの使用人つかえるな。褒めてやってもいいぞ』
黒猫が偉そうなことを言っている。概ね同意である。
「ユリス様」
そうして静かにデニスと睨み合いを繰り広げていた時である。ティアンが俺の袖を引いた。
「温室で遊んではいかがですか? あそこなら外よりは暖かいですよ」
「いいね、それ! じゃあ温室に行こうか、ユリス」
なぜか俺よりも食いついたデニスは、早く案内しろと俺を顎でこき使おうとしてくる。だが部屋でお喋りよりはマシである。仕方がない。俺が折れてやろう。
※※※
「ここが温室。たまに猫が寝ている」
「暖かいもんね」
黒猫ユリスをもふもふしてからデニスが満足そうに頷いた。
「ところでこの猫、なんて名前なの?」
「猫」
「……飼ってるんだよね?」
「そうだよ。俺の猫」
なんだか変な顔をしたデニス。「名前くらいつけてあげなよ」と再び黒猫ユリスをもふもふしている。
「猫ちゃん、お名前なくて可哀想だね? ユリス意地悪だね?」
『気安く触るな! ガキ!』
なにやら楽しそうに黒猫ユリスへと語りかけているが、すごい悪口言われてる。
「僕が飼ってあげようか?」
『ふざけるな! 誰がおまえみたいな性悪についていくか!』
「すごく鳴いてるね。僕に飼ってほしいみたいだよ」
んなこと言ってないよ。すごいデニスの悪口言ってるよ、その猫。
「僕が貰ってあげる」
「ダメ! 絶対!」
いきなりなにを言い出すのだ、このお子様。信じられない。慌てて黒猫ユリスを抱きかかえてデニスにとられないよう守ってやる。
じりじりと後退れば、デニスが不満そうな顔をする。
「ケチだね」
「近づくな! 猫泥棒め!」
もう我慢できない。なんだこのお子様。
庭遊びは拒否するわ、猫奪おうとするわ。やりたい放題じゃないか。もう耐えられない。俺の中でなにかが爆発した瞬間である。たまっていた苛立ちが一気に爆ぜた。
「ストレス!」
「は? なに急に」
「ストレス! ストレス! ストレス‼︎」
ありったけの大声で叫んでやれば、デニスが怪訝な顔で耳を塞ぐ。「あぁ、ついに我慢の限界が」とティアンがあわあわしている。タイラーとジャンも困惑顔である。
「ものすごくストレス! もうデニスと遊ばない!」
ビシッと指を突き付けてやれば、タイラーが間に割って入ってくる。「落ち着きましょう、ユリス様」と背中を撫でられるが、それくらいでおさまるストレス量ではない。
「もう遊んであげない!」
勢いそのままに駆け出して温室を飛び出してやる。『いいぞ! やれやれ!』と黒猫ユリスが鼻息荒く応援してくる。
「ちょっと! ユリス様!」
俺とデニスの間で、ティアンたちがオロオロしているが知らない。もう俺はデニスと遊んでやらないと決めたのだ。
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