170 / 580
160 約束
しおりを挟む
デニスいわく。
彼とユリスは結婚の約束をしたらしい。いつの話だよ。ちなみに現在、ユリス十歳、デニス十一歳らしい。マジでいつの約束だよ。
ぽかんとする俺に構わず、デニスはひとり楽しそうににこにこしている。愛想のいい子供だ。
『……昔、こいつ髪が長かったんだ』
え。なにそれ見たかった。俺が好きなのは大人の長髪男子であるが、別に子供でもいいかもしれない。デニスは可愛い系だからちょっと俺の好みからはズレるけど、単純に長髪は好き。なんで切ったんだ。長髪に対する冒涜だ。
『それにこの顔だろ。あの時はもっと幼かったし』
なにやらもごもごと言い訳を始めた黒猫ユリス。もしやなにか心当たりでもあるのか。ぎゅっと抱える腕に力を込めれば、黒猫ユリスが苦々しい声を出した。
『女だと思ってたんだ』
「は?」
え? なんだって?
思わず困惑を口に出した俺に、デニスが「どうしたの?」と優しく問いかけてくるが、それどころではない。
黒猫ユリスを凝視すれば、ばっちりと目があった。
『だから。三、四年前くらいの話か? こいつに会った時、女だと思ったんだ。それで結婚してくれとか言われたから』
結婚するって言ったのか?
視線で訊ねれば、黒猫ユリスが小さく頷いた。
『顔が可愛かったから。とりあえず唾付けとくかと思ってな』
やってることがアロンと一緒だ。わるにゃんこめ。てか三、四年前ってユリス六歳とかじゃん。ませてる。すごくませてる子供じゃん。なんか嫌だ。
なんてことだ。デニスはその時のユリスの言葉を覚えていて、なおかつ本気にしているらしい。彼も彼でどうなってんだよ。そんな子供の頃の口約束なんて真に受けるなよ。
『いやあ、後から実は男だと知ってな。それ以来会うこともなかったんだが。まさか本気にしていたとは。こいつ頭大丈夫か?』
責任転嫁がひどい。デニス可哀想。
つまり本物ユリスはデニスを女の子と勘違いして結婚の約束をした。ところがデニスが男の子だと判明し、めっきり興味を失いそれきり放置していた、ということらしい。クソじゃん。アロンにも負けないくらいのクソ野郎じゃん。
だが今のユリスは俺である。
いくら本物ユリスがクソな行いをやっていたとしても、俺が責任を取るのはごめんである。丁重にお断りせねば。
「あ、あのね、デニス」
「前みたいにデニーって呼んでよ」
「デニー」
ダメだ。なんかこう、罪悪感が。いや、ここで諦めたらダメだ。頑張れ、俺。
ちなみにタイラーとティアンは無言で俺らのことを見守っている。デニスが公爵家のご令息だから強く出られないらしい。ジャンも少し離れたところでオロオロしている。援護射撃は期待できないぞ。
「えっと、それは昔の話だから」
「うん。だからユリスが覚えていてくれてすごく嬉しい」
「お、おぉ」
ポジティブ。
あとなんかふにゃふにゃ笑ってて「おまえと結婚するなんて冗談に決まってるだろ!」とは言い難い。相手がアロンだったらズバズバ言いたいこと言えるのに。なんかデニス相手だと言い難い。顔が可愛いからか? 可愛い系だとちょっと強く言えないんだが?
交代して欲しい。今こそ本物ユリスと入れ替わって彼に全てをお任せしてしまいたい。俺にはちょっと無理。
ごくりと唾を飲み込んで、黒猫ユリスと視線を合わせる。だが何かを察したらしい黒猫がふいっと視線を逸らしてしまう。そのまま顔を俯けて断固入れ替わり拒否体勢を取ってしまう。薄情者。
「せっかく会えたんだし、少しお話でもしない?」
「う、うん」
うるうるしたお目めで覗き込まれると、お断りできない。話くらいならとこくこく頷けば、黒猫ユリスが『絆されてどうする』と呆れ声をもらした。いや誰のせいでこうなったと思っているんだ。
彼とユリスは結婚の約束をしたらしい。いつの話だよ。ちなみに現在、ユリス十歳、デニス十一歳らしい。マジでいつの約束だよ。
ぽかんとする俺に構わず、デニスはひとり楽しそうににこにこしている。愛想のいい子供だ。
『……昔、こいつ髪が長かったんだ』
え。なにそれ見たかった。俺が好きなのは大人の長髪男子であるが、別に子供でもいいかもしれない。デニスは可愛い系だからちょっと俺の好みからはズレるけど、単純に長髪は好き。なんで切ったんだ。長髪に対する冒涜だ。
『それにこの顔だろ。あの時はもっと幼かったし』
なにやらもごもごと言い訳を始めた黒猫ユリス。もしやなにか心当たりでもあるのか。ぎゅっと抱える腕に力を込めれば、黒猫ユリスが苦々しい声を出した。
『女だと思ってたんだ』
「は?」
え? なんだって?
思わず困惑を口に出した俺に、デニスが「どうしたの?」と優しく問いかけてくるが、それどころではない。
黒猫ユリスを凝視すれば、ばっちりと目があった。
『だから。三、四年前くらいの話か? こいつに会った時、女だと思ったんだ。それで結婚してくれとか言われたから』
結婚するって言ったのか?
視線で訊ねれば、黒猫ユリスが小さく頷いた。
『顔が可愛かったから。とりあえず唾付けとくかと思ってな』
やってることがアロンと一緒だ。わるにゃんこめ。てか三、四年前ってユリス六歳とかじゃん。ませてる。すごくませてる子供じゃん。なんか嫌だ。
なんてことだ。デニスはその時のユリスの言葉を覚えていて、なおかつ本気にしているらしい。彼も彼でどうなってんだよ。そんな子供の頃の口約束なんて真に受けるなよ。
『いやあ、後から実は男だと知ってな。それ以来会うこともなかったんだが。まさか本気にしていたとは。こいつ頭大丈夫か?』
責任転嫁がひどい。デニス可哀想。
つまり本物ユリスはデニスを女の子と勘違いして結婚の約束をした。ところがデニスが男の子だと判明し、めっきり興味を失いそれきり放置していた、ということらしい。クソじゃん。アロンにも負けないくらいのクソ野郎じゃん。
だが今のユリスは俺である。
いくら本物ユリスがクソな行いをやっていたとしても、俺が責任を取るのはごめんである。丁重にお断りせねば。
「あ、あのね、デニス」
「前みたいにデニーって呼んでよ」
「デニー」
ダメだ。なんかこう、罪悪感が。いや、ここで諦めたらダメだ。頑張れ、俺。
ちなみにタイラーとティアンは無言で俺らのことを見守っている。デニスが公爵家のご令息だから強く出られないらしい。ジャンも少し離れたところでオロオロしている。援護射撃は期待できないぞ。
「えっと、それは昔の話だから」
「うん。だからユリスが覚えていてくれてすごく嬉しい」
「お、おぉ」
ポジティブ。
あとなんかふにゃふにゃ笑ってて「おまえと結婚するなんて冗談に決まってるだろ!」とは言い難い。相手がアロンだったらズバズバ言いたいこと言えるのに。なんかデニス相手だと言い難い。顔が可愛いからか? 可愛い系だとちょっと強く言えないんだが?
交代して欲しい。今こそ本物ユリスと入れ替わって彼に全てをお任せしてしまいたい。俺にはちょっと無理。
ごくりと唾を飲み込んで、黒猫ユリスと視線を合わせる。だが何かを察したらしい黒猫がふいっと視線を逸らしてしまう。そのまま顔を俯けて断固入れ替わり拒否体勢を取ってしまう。薄情者。
「せっかく会えたんだし、少しお話でもしない?」
「う、うん」
うるうるしたお目めで覗き込まれると、お断りできない。話くらいならとこくこく頷けば、黒猫ユリスが『絆されてどうする』と呆れ声をもらした。いや誰のせいでこうなったと思っているんだ。
346
お気に入りに追加
3,005
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる