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150 籠城
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「俺が気付いたからよかったものの。あのまま直撃していたらどうするおつもりですか」
現在、俺はひたすらタイラーに説教されていた。なんで俺が。やってもいないことで怒られるとは。ストレスがすごい。
本物ユリスが散々やらかした尻拭いをさせられている感じである。俺じゃないもん。花瓶振り上げたのはあの猫だもん。俺はそんなサイコパスじゃないもん。
最悪のタイミングで元に戻ってしまった俺はぐすぐすと鼻をすする。マジでなんで俺が怒られてんの?
ふんっと鼻息荒くウロウロしている黒猫ユリスは、いまだに『おまえのせいだぞ!』とキレ散らかしている。キレたいのはこっちだよ。なにを被害者面してんだ、わるにゃんこめ。
「花瓶で人の頭殴るとか絶対にダメですよ」
んなこと知ってる。
『おまえの日頃の行いのせいだぞ! おまえがふざけたことばかりするせいで完全に舐められている! こいつら全く僕の言うこと聞かないじゃないか。どうしてくれる』
それは知らない。俺に言われましても。
左右からそれぞれネチネチと言葉が飛んでくる。非常にストレスだ。我慢ができなくなった俺は、足元を彷徨く黒猫ユリスを指差した。
「俺じゃないもん! やったのはこいつだもん!」
「だからなんで猫のせいにするんですか」
ダメだ。タイラーがますます怖い顔をする。八方塞がりだ。俺は嘘なんてついてないのに。
こうして俺はタイラーの説教を聞き流しながら決意した。もう二度と黒猫ユリスには頼るまいと。
※※※
「酷い目にあった」
「なんでそんな被害者ぶっているんですか」
悪いのはユリス様でしょう? と冷たいティアンはなにもわかっていない。悪いのは本物ユリスである。前々からヤバい奴だとなんとなく察してはいたが、予想以上にヤバい奴だった。ジャンが当初あんなにも俺に怯えていた理由を身を持って知ったよ。
あいつはヤバい子供である。オーガス兄様がビビっていたのも無理はない。相手が騎士とはいえ、まさかなんの躊躇もなく花瓶で殴りかかるとは。やってることがまんま犯罪である。殺人未遂だよ。
延々と俺に説教をかましたタイラーは、先程部屋を出て行った。よくわからんが多分ブルース兄様あたりに告げ口に行ったと思われる。クソ。タイラーめ。ここからさらにブルース兄様に怒られるのはごめんである。よし、逃げよう。
決意を固めた俺はすたっと立ち上がる。ジャンとティアンが視線を向けてくるが気にしない。俺は今、全力で逃げなければならない。これ以上の説教は勘弁だ。
ティアンが口を開く前に、俺はダッシュした。
「ちょっと!」
慌てたティアンとジャンが追ってくる。廊下に出た俺はまっすぐ目的地へと向かった。後ろを振り返っている余裕はない。全力で階段を駆け上がってお目当てのドアを躊躇なく開け放った。
「オーガス兄様! みんなが俺のこといじめてくる!」
「……は?」
ぽかんとした顔のオーガス兄様に構わず、俺は素早くドアに鍵をかけてやった。ガチャンと無機質な音が響いて準備はばっちりである。
改めて室内を見渡すと、執務机で固まるオーガス兄様がいるのみ。子分その2であるニックがいない。どこに行ったと訊ねれば、騎士棟へ行っているとのお答えがあった。ふむふむ。好都合だ。
「えっと? なんで鍵閉めたの?」
なにやらオーガス兄様がビビっている。弟相手にビビるなと言いたいところだが、先程本物ユリスの激ヤバ行動を目撃したばかりの俺である。まぁ、オーガス兄様がユリスにビビるのも無理はないよね、と納得する。
廊下の方から控えめなノックの音が響いてくる。ついでティアンの焦ったような声。
「申し訳ありません、オーガス様。ユリス様、ここ開けてください」
無視だ無視。むすっと腕を組んでドアを睨み付けてやる。
「……ティアンと喧嘩でもしたの?」
「べつに」
「べつにって。絶対なにかあったでしょ」
心配そうに顔を上げたオーガス兄様は、どうやら本物ユリスの激ヤバ行動についてはまだなにも知らないらしい。てことは、タイラーはやはり先にブルース兄様の方に報告へ行ったな。
これ以上怒られたくない俺は決意した。
「俺しばらくここに住む」
「やめてくれる?」
悲痛な顔をしたオーガス兄様には悪いが、他に行くところがないので仕方ないだろ。
「ちなみにしばらくってどれくらい?」
「二、三年くらい?」
「ほんとにやめて?」
俺とドアを見比べたオーガス兄様は、「よくわからないけど。早くティアンと仲直りしなよ」と的外れなアドバイスをよこす。違う。俺が戦っている相手はティアンではない。タイラーだ。
「ろーじょーするから。オーガス兄様も外出ないでね」
「籠城ね。絶対やめて」
弱々しく抗議をしたオーガス兄様であるが、どうやらまだ遊びの延長だと思っているらしい。本気で止めに入る様子はない。
だがこれは遊びではない。ガチである。俺は本気で籠城するぞ。
とりあえずの期間は、今頃タイラーから報告を受けているであろうブルース兄様のお怒りがおさまるまでだ。俺の本気を見せてやる!
現在、俺はひたすらタイラーに説教されていた。なんで俺が。やってもいないことで怒られるとは。ストレスがすごい。
本物ユリスが散々やらかした尻拭いをさせられている感じである。俺じゃないもん。花瓶振り上げたのはあの猫だもん。俺はそんなサイコパスじゃないもん。
最悪のタイミングで元に戻ってしまった俺はぐすぐすと鼻をすする。マジでなんで俺が怒られてんの?
ふんっと鼻息荒くウロウロしている黒猫ユリスは、いまだに『おまえのせいだぞ!』とキレ散らかしている。キレたいのはこっちだよ。なにを被害者面してんだ、わるにゃんこめ。
「花瓶で人の頭殴るとか絶対にダメですよ」
んなこと知ってる。
『おまえの日頃の行いのせいだぞ! おまえがふざけたことばかりするせいで完全に舐められている! こいつら全く僕の言うこと聞かないじゃないか。どうしてくれる』
それは知らない。俺に言われましても。
左右からそれぞれネチネチと言葉が飛んでくる。非常にストレスだ。我慢ができなくなった俺は、足元を彷徨く黒猫ユリスを指差した。
「俺じゃないもん! やったのはこいつだもん!」
「だからなんで猫のせいにするんですか」
ダメだ。タイラーがますます怖い顔をする。八方塞がりだ。俺は嘘なんてついてないのに。
こうして俺はタイラーの説教を聞き流しながら決意した。もう二度と黒猫ユリスには頼るまいと。
※※※
「酷い目にあった」
「なんでそんな被害者ぶっているんですか」
悪いのはユリス様でしょう? と冷たいティアンはなにもわかっていない。悪いのは本物ユリスである。前々からヤバい奴だとなんとなく察してはいたが、予想以上にヤバい奴だった。ジャンが当初あんなにも俺に怯えていた理由を身を持って知ったよ。
あいつはヤバい子供である。オーガス兄様がビビっていたのも無理はない。相手が騎士とはいえ、まさかなんの躊躇もなく花瓶で殴りかかるとは。やってることがまんま犯罪である。殺人未遂だよ。
延々と俺に説教をかましたタイラーは、先程部屋を出て行った。よくわからんが多分ブルース兄様あたりに告げ口に行ったと思われる。クソ。タイラーめ。ここからさらにブルース兄様に怒られるのはごめんである。よし、逃げよう。
決意を固めた俺はすたっと立ち上がる。ジャンとティアンが視線を向けてくるが気にしない。俺は今、全力で逃げなければならない。これ以上の説教は勘弁だ。
ティアンが口を開く前に、俺はダッシュした。
「ちょっと!」
慌てたティアンとジャンが追ってくる。廊下に出た俺はまっすぐ目的地へと向かった。後ろを振り返っている余裕はない。全力で階段を駆け上がってお目当てのドアを躊躇なく開け放った。
「オーガス兄様! みんなが俺のこといじめてくる!」
「……は?」
ぽかんとした顔のオーガス兄様に構わず、俺は素早くドアに鍵をかけてやった。ガチャンと無機質な音が響いて準備はばっちりである。
改めて室内を見渡すと、執務机で固まるオーガス兄様がいるのみ。子分その2であるニックがいない。どこに行ったと訊ねれば、騎士棟へ行っているとのお答えがあった。ふむふむ。好都合だ。
「えっと? なんで鍵閉めたの?」
なにやらオーガス兄様がビビっている。弟相手にビビるなと言いたいところだが、先程本物ユリスの激ヤバ行動を目撃したばかりの俺である。まぁ、オーガス兄様がユリスにビビるのも無理はないよね、と納得する。
廊下の方から控えめなノックの音が響いてくる。ついでティアンの焦ったような声。
「申し訳ありません、オーガス様。ユリス様、ここ開けてください」
無視だ無視。むすっと腕を組んでドアを睨み付けてやる。
「……ティアンと喧嘩でもしたの?」
「べつに」
「べつにって。絶対なにかあったでしょ」
心配そうに顔を上げたオーガス兄様は、どうやら本物ユリスの激ヤバ行動についてはまだなにも知らないらしい。てことは、タイラーはやはり先にブルース兄様の方に報告へ行ったな。
これ以上怒られたくない俺は決意した。
「俺しばらくここに住む」
「やめてくれる?」
悲痛な顔をしたオーガス兄様には悪いが、他に行くところがないので仕方ないだろ。
「ちなみにしばらくってどれくらい?」
「二、三年くらい?」
「ほんとにやめて?」
俺とドアを見比べたオーガス兄様は、「よくわからないけど。早くティアンと仲直りしなよ」と的外れなアドバイスをよこす。違う。俺が戦っている相手はティアンではない。タイラーだ。
「ろーじょーするから。オーガス兄様も外出ないでね」
「籠城ね。絶対やめて」
弱々しく抗議をしたオーガス兄様であるが、どうやらまだ遊びの延長だと思っているらしい。本気で止めに入る様子はない。
だがこれは遊びではない。ガチである。俺は本気で籠城するぞ。
とりあえずの期間は、今頃タイラーから報告を受けているであろうブルース兄様のお怒りがおさまるまでだ。俺の本気を見せてやる!
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