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148 冷酷な美少年
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目の前が暗くなり、次に目を開けた時には見慣れた美少年の腕の中だった。どうやらきちんと入れ替われたらしい。
同じくゆるゆると目を開けた本物ユリスは、腕の中の俺に目線を落とした次の瞬間、容赦なく俺を放り投げた。なにすんだ、こいつ。
すたっと着地した俺は大声で抗議してやる。
『投げるな!』
それを黙殺した冷たい美少年は立ち上がるとおもむろに服装を整え始める。手櫛で髪型まで整える念の入れようである。どうやら気合い十分らしい。やろうとしていることは最低だけど。
だがしかし。これには俺の平穏生活がかかっている。タイラーには申し訳ないが犠牲になってもらおう。
キリッと表情を引き締めた本物ユリスは、カツカツと足音を立てて部屋の中央へと向かう。そうしてわざとらしく音を立てながらティアンの向かいに着席した彼は、偉そうに足を組んだ。
「お行儀悪いですよ」
目敏く発見したティアンが早速注意しているが、本物ユリスはそれをひと睨みでいなしてしまう。
おぉ。なんだかいい感じである。すごい冷たい美少年って感じだ。さすがいじめっ子。悪者役が板についている。興奮する俺とは対照的に、室内には妙な緊張感が走る。
ただならぬ雰囲気を察したのだろう。困惑したように眉尻を下げたティアンが、パタンと本を閉じた。その間の抜けた音が、室内に案外大きく響いた。
「ユリス様?」
どうしましたか? と小首を傾げるティアンを見据えて、本物ユリスが腕を組む。整った顔を無表情に保っていた彼であったが、やがて不愉快そうに顔を顰めた。
「誰に口を利いている。伯爵家の倅ごときが。気安く僕の名前を口にするな」
しんと、水を打ったように部屋が静まり返った。
息をするのも憚られるような重苦しい沈黙の中、ティアンが驚愕したように目を見開いている。思えば、ティアンがユリスと出会ったのは俺が成り代わった後である。つまり彼は本物ユリスに会ったことがないのだ。タイラーもそうだ。この場で唯一、本物ユリスと接したことがあるのは元々彼の従者をつとめていたジャンだけ。
俺が散らかした紙片を拾い集めていたジャンが素早く立ち上がった。何やら真っ青な顔でじりじりと壁際に移動して存在感を消そうとしている。その佇まいがあまりにも頼りなく、憐れに思った俺はトコトコと彼の足元に寄っていく。ぴたりと寄り添うが、ジャンは無反応だった。なんでだよ。もふもふが足元に落ちているのに無視するとか正気ではない。よほど本物ユリスにビビっていると思われる。
ぴたりと手を止めたタイラーも、じっと息を殺してティアンと本物ユリスの様子を伺っている。
異様な空気の中、本物ユリスが床の紙片に手を伸ばしていたタイラーに視線を投げた。ゆっくり立ち上がったタイラーは、真正面からその視線を受けている。
「おい、おまえ」
静かに声を発した本物ユリスが、口元を歪める。
「もう帰っていいぞ。おまえは必要ない」
意地悪く鼻で笑った本物ユリスは、けれども立ち尽くして動かないタイラーを鋭く睨み付ける。
「聞こえなかったのか? おまえはクビだと言っている。さっさと出ていけ」
淡々と、けれども氷のように冷たい声が容赦なく降った。
冷酷な美少年が、ニヤリと口角を持ち上げた。
同じくゆるゆると目を開けた本物ユリスは、腕の中の俺に目線を落とした次の瞬間、容赦なく俺を放り投げた。なにすんだ、こいつ。
すたっと着地した俺は大声で抗議してやる。
『投げるな!』
それを黙殺した冷たい美少年は立ち上がるとおもむろに服装を整え始める。手櫛で髪型まで整える念の入れようである。どうやら気合い十分らしい。やろうとしていることは最低だけど。
だがしかし。これには俺の平穏生活がかかっている。タイラーには申し訳ないが犠牲になってもらおう。
キリッと表情を引き締めた本物ユリスは、カツカツと足音を立てて部屋の中央へと向かう。そうしてわざとらしく音を立てながらティアンの向かいに着席した彼は、偉そうに足を組んだ。
「お行儀悪いですよ」
目敏く発見したティアンが早速注意しているが、本物ユリスはそれをひと睨みでいなしてしまう。
おぉ。なんだかいい感じである。すごい冷たい美少年って感じだ。さすがいじめっ子。悪者役が板についている。興奮する俺とは対照的に、室内には妙な緊張感が走る。
ただならぬ雰囲気を察したのだろう。困惑したように眉尻を下げたティアンが、パタンと本を閉じた。その間の抜けた音が、室内に案外大きく響いた。
「ユリス様?」
どうしましたか? と小首を傾げるティアンを見据えて、本物ユリスが腕を組む。整った顔を無表情に保っていた彼であったが、やがて不愉快そうに顔を顰めた。
「誰に口を利いている。伯爵家の倅ごときが。気安く僕の名前を口にするな」
しんと、水を打ったように部屋が静まり返った。
息をするのも憚られるような重苦しい沈黙の中、ティアンが驚愕したように目を見開いている。思えば、ティアンがユリスと出会ったのは俺が成り代わった後である。つまり彼は本物ユリスに会ったことがないのだ。タイラーもそうだ。この場で唯一、本物ユリスと接したことがあるのは元々彼の従者をつとめていたジャンだけ。
俺が散らかした紙片を拾い集めていたジャンが素早く立ち上がった。何やら真っ青な顔でじりじりと壁際に移動して存在感を消そうとしている。その佇まいがあまりにも頼りなく、憐れに思った俺はトコトコと彼の足元に寄っていく。ぴたりと寄り添うが、ジャンは無反応だった。なんでだよ。もふもふが足元に落ちているのに無視するとか正気ではない。よほど本物ユリスにビビっていると思われる。
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「おい、おまえ」
静かに声を発した本物ユリスが、口元を歪める。
「もう帰っていいぞ。おまえは必要ない」
意地悪く鼻で笑った本物ユリスは、けれども立ち尽くして動かないタイラーを鋭く睨み付ける。
「聞こえなかったのか? おまえはクビだと言っている。さっさと出ていけ」
淡々と、けれども氷のように冷たい声が容赦なく降った。
冷酷な美少年が、ニヤリと口角を持ち上げた。
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