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137 いじめっ子

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 王宮に到着した俺は、早々に客間に案内された。なんでもマーティーがゆっくり挨拶したいとか。それを聞いた黒猫ユリスが『殊勝なことだ』と満足そうにしていた。

 ティアンたちと別れて、ひとり客間に案内された俺。どうしてもマーティーに自慢したいとごねまくって黒猫ユリスを持ち込むことに成功した。部屋の外ではサムとタイラーが待機しているそうだ。黒猫ユリスとふたりきりになった室内で『僕を待たせるとはいい度胸だ』と不機嫌にゃんこがゴロゴロしている。

「マーティーってどんな感じ?」
『あいつは僕の下僕だ。なんでも言うことをきく』
「そうなの?」

 よくわからない。だがこの世界に来てから初めて会う十歳児である。ちょっと楽しみ。わくわくしていると、黒猫ユリスがむくりと体を起こした。

『ちょっと僕とかわれ』
「は?」
『マーティーは子供だが、なかなかに勘が鋭いところがある。おまえがユリスじゃないとバレるかもしれない』

 だから入れ替われ、と短い前足を持ち上げて主張してくる。

 俺と黒猫ユリスが、キスによって入れ替われることが判明したのはつい最近のこと。特に使っていなかったが、俺はマーティーに会ったことがない。そうであれば本物ユリスに任せるのも得策かもしれない。それに俺も猫生活を楽しみたい。

「いいよ!」

 すぐに了承した俺は、黒猫ユリスを抱き上げる。

『おそらく長時間はもたない。いいか? おまえがまたユリスに戻ったら、僕らしく振る舞えよ。話を合わせるんだ』
「わかった」

 それくらい理解している。入れ替わりがバレるのはまずいからな。


※※※


 マーティーは泣きそうな顔をしていた。のんびり猫になって様子を見ていた俺であるが、こうして観察すると本物ユリスはいじめっ子だな。マーティーを揶揄って遊んでいる。

 マーティーはエリックに似ていた。主に色が。さすが兄弟。だが性格はあまり似ていないらしい。

 声も主張も大きいエリックに対して、マーティーはなんだかユリスにビビっているようだった。だが心優しい少年らしく、椅子を占領する俺を退けることなく自分は立って話を続けている。なんていい奴。

 マーティーを下僕扱いして鼻で笑うユリスは嫌な子供だ。そうか。俺は本来ならばこう演じなければならなかったのか。難しいな。まぁ、今後の参考にさせてもらおう。

 小さく震えているマーティーは、小さな子供だった。さすが十歳児である。

 気丈に振る舞っているらしいマーティーは、拳を握りしめて果敢にユリスに立ち向かっている。だが時折「こわ」や「ひぃ」といった声が漏れ出ている。面白い奴だな。そんなんだからユリスに揶揄われるんだぞと教えてあげたい。今は猫だから喋れないけど。

 ひとしきり会話をして満足したらしい本物ユリスが、俺に視線を向けてきた。なにやら険しい顔である。どうやらそろそろ戻りそうな感じらしい。入れ替わりの仕組みはいまいちよくわからない。キスをすれば入れ替われることは判明したが、その長さはまちまちらしい。俺はなにもわからないが、本物ユリスにはそろそろ時間的に限界だとわかるらしい。不明な点が多いな。

 すっと席を立ったユリスは、マーティーを見据える。

「もう十分話して満足しただろう。さっさと出て行ってくれないか?」
「はぁ⁉︎ おまえが僕と話したいと言ったんだろうが! 手紙をよこしてきただろ!」
「僕は単にしばらく見ていない下僕の様子を見にきてやっただけだ。主人の寛大さに感謝するといい」
「誰が下僕だ! 僕はそんなものになった覚えはーー」

 頑張れ、マーティー。
 本物ユリスにひと睨みされて口を閉じてしまった彼は、ふるふると震えている。小さい子をいじめちゃダメだぞ、ユリス。
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