146 / 580
137 いじめっ子
しおりを挟む
王宮に到着した俺は、早々に客間に案内された。なんでもマーティーがゆっくり挨拶したいとか。それを聞いた黒猫ユリスが『殊勝なことだ』と満足そうにしていた。
ティアンたちと別れて、ひとり客間に案内された俺。どうしてもマーティーに自慢したいとごねまくって黒猫ユリスを持ち込むことに成功した。部屋の外ではサムとタイラーが待機しているそうだ。黒猫ユリスとふたりきりになった室内で『僕を待たせるとはいい度胸だ』と不機嫌にゃんこがゴロゴロしている。
「マーティーってどんな感じ?」
『あいつは僕の下僕だ。なんでも言うことをきく』
「そうなの?」
よくわからない。だがこの世界に来てから初めて会う十歳児である。ちょっと楽しみ。わくわくしていると、黒猫ユリスがむくりと体を起こした。
『ちょっと僕とかわれ』
「は?」
『マーティーは子供だが、なかなかに勘が鋭いところがある。おまえがユリスじゃないとバレるかもしれない』
だから入れ替われ、と短い前足を持ち上げて主張してくる。
俺と黒猫ユリスが、キスによって入れ替われることが判明したのはつい最近のこと。特に使っていなかったが、俺はマーティーに会ったことがない。そうであれば本物ユリスに任せるのも得策かもしれない。それに俺も猫生活を楽しみたい。
「いいよ!」
すぐに了承した俺は、黒猫ユリスを抱き上げる。
『おそらく長時間はもたない。いいか? おまえがまたユリスに戻ったら、僕らしく振る舞えよ。話を合わせるんだ』
「わかった」
それくらい理解している。入れ替わりがバレるのはまずいからな。
※※※
マーティーは泣きそうな顔をしていた。のんびり猫になって様子を見ていた俺であるが、こうして観察すると本物ユリスはいじめっ子だな。マーティーを揶揄って遊んでいる。
マーティーはエリックに似ていた。主に色が。さすが兄弟。だが性格はあまり似ていないらしい。
声も主張も大きいエリックに対して、マーティーはなんだかユリスにビビっているようだった。だが心優しい少年らしく、椅子を占領する俺を退けることなく自分は立って話を続けている。なんていい奴。
マーティーを下僕扱いして鼻で笑うユリスは嫌な子供だ。そうか。俺は本来ならばこう演じなければならなかったのか。難しいな。まぁ、今後の参考にさせてもらおう。
小さく震えているマーティーは、小さな子供だった。さすが十歳児である。
気丈に振る舞っているらしいマーティーは、拳を握りしめて果敢にユリスに立ち向かっている。だが時折「こわ」や「ひぃ」といった声が漏れ出ている。面白い奴だな。そんなんだからユリスに揶揄われるんだぞと教えてあげたい。今は猫だから喋れないけど。
ひとしきり会話をして満足したらしい本物ユリスが、俺に視線を向けてきた。なにやら険しい顔である。どうやらそろそろ戻りそうな感じらしい。入れ替わりの仕組みはいまいちよくわからない。キスをすれば入れ替われることは判明したが、その長さはまちまちらしい。俺はなにもわからないが、本物ユリスにはそろそろ時間的に限界だとわかるらしい。不明な点が多いな。
すっと席を立ったユリスは、マーティーを見据える。
「もう十分話して満足しただろう。さっさと出て行ってくれないか?」
「はぁ⁉︎ おまえが僕と話したいと言ったんだろうが! 手紙をよこしてきただろ!」
「僕は単にしばらく見ていない下僕の様子を見にきてやっただけだ。主人の寛大さに感謝するといい」
「誰が下僕だ! 僕はそんなものになった覚えはーー」
頑張れ、マーティー。
本物ユリスにひと睨みされて口を閉じてしまった彼は、ふるふると震えている。小さい子をいじめちゃダメだぞ、ユリス。
ティアンたちと別れて、ひとり客間に案内された俺。どうしてもマーティーに自慢したいとごねまくって黒猫ユリスを持ち込むことに成功した。部屋の外ではサムとタイラーが待機しているそうだ。黒猫ユリスとふたりきりになった室内で『僕を待たせるとはいい度胸だ』と不機嫌にゃんこがゴロゴロしている。
「マーティーってどんな感じ?」
『あいつは僕の下僕だ。なんでも言うことをきく』
「そうなの?」
よくわからない。だがこの世界に来てから初めて会う十歳児である。ちょっと楽しみ。わくわくしていると、黒猫ユリスがむくりと体を起こした。
『ちょっと僕とかわれ』
「は?」
『マーティーは子供だが、なかなかに勘が鋭いところがある。おまえがユリスじゃないとバレるかもしれない』
だから入れ替われ、と短い前足を持ち上げて主張してくる。
俺と黒猫ユリスが、キスによって入れ替われることが判明したのはつい最近のこと。特に使っていなかったが、俺はマーティーに会ったことがない。そうであれば本物ユリスに任せるのも得策かもしれない。それに俺も猫生活を楽しみたい。
「いいよ!」
すぐに了承した俺は、黒猫ユリスを抱き上げる。
『おそらく長時間はもたない。いいか? おまえがまたユリスに戻ったら、僕らしく振る舞えよ。話を合わせるんだ』
「わかった」
それくらい理解している。入れ替わりがバレるのはまずいからな。
※※※
マーティーは泣きそうな顔をしていた。のんびり猫になって様子を見ていた俺であるが、こうして観察すると本物ユリスはいじめっ子だな。マーティーを揶揄って遊んでいる。
マーティーはエリックに似ていた。主に色が。さすが兄弟。だが性格はあまり似ていないらしい。
声も主張も大きいエリックに対して、マーティーはなんだかユリスにビビっているようだった。だが心優しい少年らしく、椅子を占領する俺を退けることなく自分は立って話を続けている。なんていい奴。
マーティーを下僕扱いして鼻で笑うユリスは嫌な子供だ。そうか。俺は本来ならばこう演じなければならなかったのか。難しいな。まぁ、今後の参考にさせてもらおう。
小さく震えているマーティーは、小さな子供だった。さすが十歳児である。
気丈に振る舞っているらしいマーティーは、拳を握りしめて果敢にユリスに立ち向かっている。だが時折「こわ」や「ひぃ」といった声が漏れ出ている。面白い奴だな。そんなんだからユリスに揶揄われるんだぞと教えてあげたい。今は猫だから喋れないけど。
ひとしきり会話をして満足したらしい本物ユリスが、俺に視線を向けてきた。なにやら険しい顔である。どうやらそろそろ戻りそうな感じらしい。入れ替わりの仕組みはいまいちよくわからない。キスをすれば入れ替われることは判明したが、その長さはまちまちらしい。俺はなにもわからないが、本物ユリスにはそろそろ時間的に限界だとわかるらしい。不明な点が多いな。
すっと席を立ったユリスは、マーティーを見据える。
「もう十分話して満足しただろう。さっさと出て行ってくれないか?」
「はぁ⁉︎ おまえが僕と話したいと言ったんだろうが! 手紙をよこしてきただろ!」
「僕は単にしばらく見ていない下僕の様子を見にきてやっただけだ。主人の寛大さに感謝するといい」
「誰が下僕だ! 僕はそんなものになった覚えはーー」
頑張れ、マーティー。
本物ユリスにひと睨みされて口を閉じてしまった彼は、ふるふると震えている。小さい子をいじめちゃダメだぞ、ユリス。
431
お気に入りに追加
3,005
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる