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108 わかりやすい嘘
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「しかし私が副団長となればユリス様の護衛騎士の席が空いてしまいます。適任が見つかるまでは私が引き続き勤めますがよろしいですか」
オーガス兄様に確認したセドリックは、すっかり副団長っぽい雰囲気だ。いつもの無関心さは鳴りを潜めて、ぽんぽんと首を突っ込んでくる。こいつがこんなに喋っているなんて珍しい。もしかして副団長に戻れて浮かれているのかもしれない。
「俺のことはお気になさらず」
正直ジャンだけで十分だ。今までもそれでやってきていたわけだし。護衛は必要ないと拒否すれば、セドリックは眉を顰める。
「そういうわけにはまいりません」
「大丈夫。ジャンがいる」
「ジャンは騎士ではありません。それに」
なぜか言葉を切ったセドリックは、ちらりと俺を見下ろすと視線をオーガス兄様へと移した。
「ユリス様は目を離すとなにをされるかわかりませんので。見張りを兼ねて騎士を側につけた方が賢明かと」
「なんだと!」
今まで無口だったくせに急に饒舌になったセドリックは、ここぞとばかりに俺の悪口を並べ立てる。拳を上げて抗議すれば、オーガス兄様が「確かにね」と賛同してしまう。これは嫌な流れだ。
「俺は大人なので! ひとりで大丈夫です!」
ありったけの大声で主張すれば、ティアンが無言で耳を塞いでうるさいアピールをしてくる。おまえは見ていないで助けろよ。
「……まぁ、それはおいおい考えるとして」
俺の剣幕におされて結論を先送りにしたオーガス兄様は「父上には僕から話を通しておこう」と急に長男っぽいことを言い始める。ついさっきまで泣き喚いていたとは思えない程に背筋を伸ばして長男ぶっている。
そんなオーガス兄様をいまだに睨みつけているニック。
「ユリス様」
「どうした、子分その2」
「子分になった覚えはありません。ちなみにその1は誰ですか」
「ジャン」
なるほど、と納得したようなニックは少し屈んで俺の耳に顔を近づけてくる。
「オーガス様が裏でやっていた色々とはなんでしょうか」
「い、色々だよ」
急にピンチ。
先程オーガス兄様が裏でやっていた色々の一部をユリスに知られてしまったと口を滑らせていた。俺が知らないと答えるのは不自然だ。助けを求めて黒猫ユリスを探すが見当たらない。
じっとこちらを見据えてくるニックの迫力に負けて、俺はおろおろとそれらしき答えを探す。多分ブルース兄様がオーガス兄様の恋人を奪ったみたいな件に関係する話だ。
「え、えっと。オーガス兄様がブルース兄様に裏で色々嫌がらせしてたの」
「具体的には?」
曖昧な答えで濁したのに、ニックは納得してくれない。詳しく教えろと迫ってくる。
「う、うーん。彼女とられた腹いせに、なんかこう、色々」
「ですからもっと具体的に教えていただきたいのですが」
「お、おう。えっと、オーガス兄様がブルース兄様のおやつ勝手に食べちゃったりとか?」
「……滅茶苦茶にわかりやすい嘘をつかないでください。オーガス様がそんな子供じみた嫌がらせをするわけないでしょう」
「するもん!」
咄嗟に思いついた嫌がらせをあげてみたところ、俺に疑いの目を向けてくるニック。なんとか嘘つきの汚名を返上しようと大声で「オーガス兄様がブルース兄様のおやつとってたもん!」とありもしない事実をでっちあげれば「そんなことするわけないだろ⁉︎」とオーガス兄様が割り込んできた。どうやらコソコソ話が聞かれてしまったらしい。なんてことだ。
「そもそも毎日おやつ食べてるの君だけだから!」
なんだって。
「ティアンも食べてる」
気配を消すティアンに話を向ければ、彼は「別にいいじゃないですか」と小首を傾げる。
なんだかますます収拾がつかなくなってきた。ニックとオーガス兄様に詰め寄られてあわあわする俺。
すると今までどこに居たのか。黒猫ユリスがくすくす笑いながら隣にやってきた。どうも黒猫ユリスは人がピンチに陥ると面白くて仕方がないらしい。どこからともなく姿を現してくる。
『ほら、あれだ。ブルースにきた縁談を勝手に断ってたんだ。片っ端から』
嫌な奴だな、オーガス兄様。
しかし黒猫ユリスの助けはありがたい。そのままニックに教えてやることにする。
「んっと、ブルース兄様にきた縁談を全部勝手に断ってた」
半眼になったニックは「なんですか、その地味な嫌がらせ」とオーガス兄様に詰め寄っている。
「……ふっ」
ついにアロンが噴き出した。盛大に笑い声を上げ始めたアロンは「やることがせこい」とオーガス兄様の嫌がらせを酷評している。それを受けてオーガス兄様は「だって!」と声を荒げる。
「僕より先に結婚されたら嫌だし! 弟に先越されるとか僕のプライド的に無理!」
「オーガス兄様にもプライドとかあるんだね」
「こら! ユリス様! やめなさい」
うっかり本音を溢した俺を、ティアンが慌てて止めにかかる。だってねえ、これだけ醜態晒しておいてなにを今更って感じだもん。
オーガス兄様に確認したセドリックは、すっかり副団長っぽい雰囲気だ。いつもの無関心さは鳴りを潜めて、ぽんぽんと首を突っ込んでくる。こいつがこんなに喋っているなんて珍しい。もしかして副団長に戻れて浮かれているのかもしれない。
「俺のことはお気になさらず」
正直ジャンだけで十分だ。今までもそれでやってきていたわけだし。護衛は必要ないと拒否すれば、セドリックは眉を顰める。
「そういうわけにはまいりません」
「大丈夫。ジャンがいる」
「ジャンは騎士ではありません。それに」
なぜか言葉を切ったセドリックは、ちらりと俺を見下ろすと視線をオーガス兄様へと移した。
「ユリス様は目を離すとなにをされるかわかりませんので。見張りを兼ねて騎士を側につけた方が賢明かと」
「なんだと!」
今まで無口だったくせに急に饒舌になったセドリックは、ここぞとばかりに俺の悪口を並べ立てる。拳を上げて抗議すれば、オーガス兄様が「確かにね」と賛同してしまう。これは嫌な流れだ。
「俺は大人なので! ひとりで大丈夫です!」
ありったけの大声で主張すれば、ティアンが無言で耳を塞いでうるさいアピールをしてくる。おまえは見ていないで助けろよ。
「……まぁ、それはおいおい考えるとして」
俺の剣幕におされて結論を先送りにしたオーガス兄様は「父上には僕から話を通しておこう」と急に長男っぽいことを言い始める。ついさっきまで泣き喚いていたとは思えない程に背筋を伸ばして長男ぶっている。
そんなオーガス兄様をいまだに睨みつけているニック。
「ユリス様」
「どうした、子分その2」
「子分になった覚えはありません。ちなみにその1は誰ですか」
「ジャン」
なるほど、と納得したようなニックは少し屈んで俺の耳に顔を近づけてくる。
「オーガス様が裏でやっていた色々とはなんでしょうか」
「い、色々だよ」
急にピンチ。
先程オーガス兄様が裏でやっていた色々の一部をユリスに知られてしまったと口を滑らせていた。俺が知らないと答えるのは不自然だ。助けを求めて黒猫ユリスを探すが見当たらない。
じっとこちらを見据えてくるニックの迫力に負けて、俺はおろおろとそれらしき答えを探す。多分ブルース兄様がオーガス兄様の恋人を奪ったみたいな件に関係する話だ。
「え、えっと。オーガス兄様がブルース兄様に裏で色々嫌がらせしてたの」
「具体的には?」
曖昧な答えで濁したのに、ニックは納得してくれない。詳しく教えろと迫ってくる。
「う、うーん。彼女とられた腹いせに、なんかこう、色々」
「ですからもっと具体的に教えていただきたいのですが」
「お、おう。えっと、オーガス兄様がブルース兄様のおやつ勝手に食べちゃったりとか?」
「……滅茶苦茶にわかりやすい嘘をつかないでください。オーガス様がそんな子供じみた嫌がらせをするわけないでしょう」
「するもん!」
咄嗟に思いついた嫌がらせをあげてみたところ、俺に疑いの目を向けてくるニック。なんとか嘘つきの汚名を返上しようと大声で「オーガス兄様がブルース兄様のおやつとってたもん!」とありもしない事実をでっちあげれば「そんなことするわけないだろ⁉︎」とオーガス兄様が割り込んできた。どうやらコソコソ話が聞かれてしまったらしい。なんてことだ。
「そもそも毎日おやつ食べてるの君だけだから!」
なんだって。
「ティアンも食べてる」
気配を消すティアンに話を向ければ、彼は「別にいいじゃないですか」と小首を傾げる。
なんだかますます収拾がつかなくなってきた。ニックとオーガス兄様に詰め寄られてあわあわする俺。
すると今までどこに居たのか。黒猫ユリスがくすくす笑いながら隣にやってきた。どうも黒猫ユリスは人がピンチに陥ると面白くて仕方がないらしい。どこからともなく姿を現してくる。
『ほら、あれだ。ブルースにきた縁談を勝手に断ってたんだ。片っ端から』
嫌な奴だな、オーガス兄様。
しかし黒猫ユリスの助けはありがたい。そのままニックに教えてやることにする。
「んっと、ブルース兄様にきた縁談を全部勝手に断ってた」
半眼になったニックは「なんですか、その地味な嫌がらせ」とオーガス兄様に詰め寄っている。
「……ふっ」
ついにアロンが噴き出した。盛大に笑い声を上げ始めたアロンは「やることがせこい」とオーガス兄様の嫌がらせを酷評している。それを受けてオーガス兄様は「だって!」と声を荒げる。
「僕より先に結婚されたら嫌だし! 弟に先越されるとか僕のプライド的に無理!」
「オーガス兄様にもプライドとかあるんだね」
「こら! ユリス様! やめなさい」
うっかり本音を溢した俺を、ティアンが慌てて止めにかかる。だってねえ、これだけ醜態晒しておいてなにを今更って感じだもん。
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