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83 親友

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 キャリーは俺が思っていたよりもずっと大人だった。おそらくアロンやジャンよりも大人かもしれない。もちろん精神年齢的な話だ。

 なんにせよお菓子の話をしたことで俺たちの距離は縮まったに違いない。たぶん俺に大人だと認められたことが嬉しかったのだろう。急にキャリーは饒舌になった。

「そういえば、カーティス様はお元気ですか」

 先程までの挙動不審が嘘のように晴れやかな表情でそんなことを訊いてくる。

 誰それ。
 初めて聞く名前である。しかしすっかりユリス成り代わり生活に馴染んだ俺は、こういう時には曖昧に誤魔化しておけば良いと学習した。うんうん頷いてやれば、キャリーは「それはよかった」と上品に微笑む。

「今はどちらにいらっしゃるのですか」
「誰が?」
「いえ、ですからカーティス様が」

 どこに?
 頷きで対応できない質問をするんじゃない。ここはなんか適当にそれらしい答えをしておこう。

「家にいる」
「そうなんですね」

 それはユリス様も嬉しいですね、とよくわからん返しをしてきた。だがこれには高速で頷いて対応しておく。

「お会いする機会がなかなかありませんから。きっとお忙しいのでしょうね」
「うんうん」
「今は何をされていらっしゃるのですか」

 またきたよ。こっちは相槌だけで乗り切りたいのだ。変化球を投げるんじゃない。

「ユリス様?」

 ぴたりと黙り込んだ俺に、キャリーが怪訝な顔をする。まずいまずい。適当に誤魔化さないと。

「俺も最近会ってないから知らない」

 嘘ではない。カーティス様なんて会ったことないもんな。

 どうやら納得してくれたらしいキャリーは「そうですか。やはりお忙しいのでしょうね」と目を伏せる。それにまたもやうんうん頷いて、俺はそろそろとキャリーから離れる。

 なんかこのままいくとボロが出そうだ。
 というかあんなに緊張しまくりだったのに急にめっちゃ喋るじゃん、こいつ。俺に大人だと認められたことがそんなに嬉しかったのか?

 だがこれでキャリーと親友になるという目標は達成できた。こんだけ会話すれば親友認定してもいいだろう。うん、そうしよう。

 そのまま俺はティアンの横に並んだ。キャリーもついてくる。

 ティアンとフランシスはいまだに花の鑑賞をしていた。一体何をそんなに見るものがあるというのか。「まだ?」とティアンの肩を叩けば、フランシスが「申し訳ない。すっかりティアンと話し込んでしまったね」と苦笑する。

「大丈夫。俺はキャリーとお話してたから。それよりフランシス。ティアンは友達いないから仲良くしてあげてね」
「ユリス様、余計なお世話です」

 こんなところで見栄を張ったティアンは、俺を睨みつけてくる。ティアンに友達がいないのは紛れもない事実だ。だってこいつ毎日のように俺のところにやってくるもん。他に友達いないからだろ。

 そうフランシスに伝えたところ、彼はまたもや苦笑した。

「ユリス様のお相手が僕の仕事なので! べつに他に友達がいないわけじゃないです!」

 ふんっと怒ったティアン。どうやら図星だったようでなにやら言い訳を並べ立てている。困った奴だな。

 真面目に温室遊びに飽きてきた俺は、澄まし顔で佇むキャリーを横目にフランシスに向き直った。

「もう戻る。俺が持ってきたお菓子食べよう」

 これにティアンが目を丸くする。

「今さっきケーキ食べたでしょ。というかお菓子ってまさか手土産のことですか? あれはお土産だって言ったじゃないですか。なんでユリス様も食べる気でいるんですか」
「え! 俺食べちゃダメなの⁉︎」
「いや声でか」

 てっきりフランシスと一緒に食べるための物だと思っていた。そういえばあの手土産はブルース兄様が用意したらしく、当初俺は存在さえ知らなかった。
 出発前にジャンが布で包んだ小箱を馬車に積み込む場面を目撃して中を確認したところお菓子だった。ニヤニヤしていると「それは土産だから絶対に手を出すなよ」とブルース兄様に怖い顔で念押しされたんだった。

 今思えばあれは俺から隠していたのかもしれない。お土産と知っていたら勝手に食べたりしないのに。俺ってブルース兄様に人へのお土産を勝手に開けて食うような奴だと思われてんのか? 失礼すぎるだろ。

 そんなことを思い出しつつ、俺は食べられないという衝撃の事実に打ち震えていると「ユリスくんも一緒に食べようよ。ベネットに用意させるよ」とフランシスが素晴らしい提案をしてくれた。さすがフランシス。わかっているな。

 背後でティアンが冷たい目をしているが気にしない。というかティアンも食べたいなら食べたいと素直に言えばいいのに。
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