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79 お供は誰
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「アロンはお留守番ね。あんまり役に立たないから。変なトラブルに巻き込まれるのはごめんだし」
「そういうことを本人に直接伝えるのは酷だとは思いませんか、ユリス様」
芝居がかった仕草で流れてもいない涙を拭ったアロンは、ちらちらとブルース兄様に視線をやっている。どうやら前回の街歩き同様、自分を護衛につけろとアピールしているらしい。
「おまえはユリスから目を離した前科があるからな」
「それはセドリック殿とティアンも同様ですよ」
「それはおまえがいらんことをしたからだろ」
端からアロンを信頼していないのだろう。冷たく言い放ったブルース兄様はどうしたものかと思案している。
フランシスの家に遊びに行くことになった俺。そこで浮上したのが一体誰を同行させるのかという問題である。先程からアロンとブルース兄様が揉めているところなのだ。
いつも通り執務机に偉そうに座るブルース兄様はずっと唸っている。俺はというと応接用のソファーで兄様の真似をしてふんぞり返っているところだった。向かいに座るティアンの目が冷たい。
ここは騎士棟にあるブルース兄様の部屋だ。近くにクレイグ団長の部屋もあるのでファザコンのティアンは落ち着きがないらしい。困った奴である。
「どうしたものか」
「だから! 俺が行きますってば。フランシス殿とは顔見知りですし他に適任います?」
挑発的に兄様にくってかかるアロンは概ねいつも通りだ。
どうやらアロン以外に護衛騎士の適任がいなくて困っているらしい。腕の立つ騎士はそれなりにいるそうだが、俺の護衛となると難しいと兄様は言う。なんでも例の副団長の件とやらでユリスと騎士たちの間に変な軋轢が生じていることが原因らしい。
セドリックに目を向けるが、涼しい顔で佇んでおり我関せずだ。
「……セドリックのせいで騎士が俺を嫌ってるってこと?」
身を乗り出して訊ねれば、セドリックがさっと顔を俯けた。ブルース兄様が呆れたように息を吐く。
「セドリックというよりおまえのせいだろうが。なにしれっと責任転嫁してるんだ」
俺というより本物ユリスのせいね。何があったのかは知らんけど。たぶんセドリックを副団長から解任した件で騎士が怒っているんだと思われる。無口なのに意外と部下に好かれているんだな、セドリック。向かいのティアンに「ね」と同意を求めれば「無口は別に関係ないでしょ」と素っ気ない返事があった。
しかしということは、だ。
セドリックを副団長に戻せば騎士たちの怒りも収まるのでは? 良案を思いついた俺は早速兄様に提案してみた。しかし兄様の顔色は晴れない。
「そう簡単な話ではない。そもそもおまえが解任したんだろうが。いまさら戻すってどういうことだ」
「どうと言われても」
「それに仮にセドリックを戻すとしても父上と兄上に一応許可を取らなければならない」
「ほほう」
お父様はどうだろうか。なんかちょっと怖いんだよな。オーガス兄様はよくわからん。でも気弱に見えたから押せばいけるかもしれない。
しかしセドリックを副団長に戻したからといってすぐに騎士たちが俺のことを受け入れてくれるとは思えないというのがブルース兄様の考えだ。確かにね。とするとやっぱりアロン以外の騎士を連れて行くのは難しいかもしれない。でもアロンはクソ野郎だからな。
そんなことを延々考えていると俺の脳裏を素晴らしいアイデアがよぎった。いるじゃないか! アロン以外のまともで信頼できる俺に優しい騎士さんが。
「じゃあロニーを連れて行く!」
勢いよく宣言すればブルース兄様が顔を上げた。その横でアロンがキョトンとしている。
「あぁ! ロニーがいたな」
なにやらテンションをあげたブルース兄様は珍しく物分かりがいい。対してアロンは首を捻っている。
「……ロニー?」
なんだその初めて聞いた名前ですね的な表情は。一緒にエリックに捕まった仲だろうに。
「すみません。野郎の名前はどうも覚えられなくて。女の子の名前なら一発で覚えられるんですけどね」
「確かにロニーなら適任だな」
遠い目をしたアロンをガン無視して、ブルース兄様はロニーを呼んでくるようセドリックに指示を出す。流石お兄様。アロンのあしらい方が手慣れていらっしゃる。
すぐにやって来たロニーは相変わらず素敵な長髪だった。
「ロニー!」
「お久しぶりです、ユリス様」
突然ブルース兄様の部屋に呼び出されたにも関わらずロニーはにこやかな笑顔だ。嬉しくなって飛びついたら危なげなく受け止めてくれる。そのまま横にぴたりと張り付いていれば、冷たい目をしたティアンが視界に入った。俺のことは放っておいてくれ。
「ロニー。突然ですまないが今度ユリスがシモンズ侯爵家を訪れることになってな。おまえに護衛を頼みたいのだが」
「私でよろしいのですか」
「あぁ。頼むから引き受けてくれないか。でないとアロンを同行させる羽目になってしまう」
「それはいけませんね。喜んでお引き受けいたします」
ふたつ返事で了承したロニーは優しい。横でアロンが「ついでの様に俺を貶すのやめてもらえません?」とぶつくさ言っている。
かくして俺はロニーと共にフランシスの家を訪れることになったのだった。このままいけばロニーとベネットの両方を同時に拝める。両手に花だ。やった。
「そういうことを本人に直接伝えるのは酷だとは思いませんか、ユリス様」
芝居がかった仕草で流れてもいない涙を拭ったアロンは、ちらちらとブルース兄様に視線をやっている。どうやら前回の街歩き同様、自分を護衛につけろとアピールしているらしい。
「おまえはユリスから目を離した前科があるからな」
「それはセドリック殿とティアンも同様ですよ」
「それはおまえがいらんことをしたからだろ」
端からアロンを信頼していないのだろう。冷たく言い放ったブルース兄様はどうしたものかと思案している。
フランシスの家に遊びに行くことになった俺。そこで浮上したのが一体誰を同行させるのかという問題である。先程からアロンとブルース兄様が揉めているところなのだ。
いつも通り執務机に偉そうに座るブルース兄様はずっと唸っている。俺はというと応接用のソファーで兄様の真似をしてふんぞり返っているところだった。向かいに座るティアンの目が冷たい。
ここは騎士棟にあるブルース兄様の部屋だ。近くにクレイグ団長の部屋もあるのでファザコンのティアンは落ち着きがないらしい。困った奴である。
「どうしたものか」
「だから! 俺が行きますってば。フランシス殿とは顔見知りですし他に適任います?」
挑発的に兄様にくってかかるアロンは概ねいつも通りだ。
どうやらアロン以外に護衛騎士の適任がいなくて困っているらしい。腕の立つ騎士はそれなりにいるそうだが、俺の護衛となると難しいと兄様は言う。なんでも例の副団長の件とやらでユリスと騎士たちの間に変な軋轢が生じていることが原因らしい。
セドリックに目を向けるが、涼しい顔で佇んでおり我関せずだ。
「……セドリックのせいで騎士が俺を嫌ってるってこと?」
身を乗り出して訊ねれば、セドリックがさっと顔を俯けた。ブルース兄様が呆れたように息を吐く。
「セドリックというよりおまえのせいだろうが。なにしれっと責任転嫁してるんだ」
俺というより本物ユリスのせいね。何があったのかは知らんけど。たぶんセドリックを副団長から解任した件で騎士が怒っているんだと思われる。無口なのに意外と部下に好かれているんだな、セドリック。向かいのティアンに「ね」と同意を求めれば「無口は別に関係ないでしょ」と素っ気ない返事があった。
しかしということは、だ。
セドリックを副団長に戻せば騎士たちの怒りも収まるのでは? 良案を思いついた俺は早速兄様に提案してみた。しかし兄様の顔色は晴れない。
「そう簡単な話ではない。そもそもおまえが解任したんだろうが。いまさら戻すってどういうことだ」
「どうと言われても」
「それに仮にセドリックを戻すとしても父上と兄上に一応許可を取らなければならない」
「ほほう」
お父様はどうだろうか。なんかちょっと怖いんだよな。オーガス兄様はよくわからん。でも気弱に見えたから押せばいけるかもしれない。
しかしセドリックを副団長に戻したからといってすぐに騎士たちが俺のことを受け入れてくれるとは思えないというのがブルース兄様の考えだ。確かにね。とするとやっぱりアロン以外の騎士を連れて行くのは難しいかもしれない。でもアロンはクソ野郎だからな。
そんなことを延々考えていると俺の脳裏を素晴らしいアイデアがよぎった。いるじゃないか! アロン以外のまともで信頼できる俺に優しい騎士さんが。
「じゃあロニーを連れて行く!」
勢いよく宣言すればブルース兄様が顔を上げた。その横でアロンがキョトンとしている。
「あぁ! ロニーがいたな」
なにやらテンションをあげたブルース兄様は珍しく物分かりがいい。対してアロンは首を捻っている。
「……ロニー?」
なんだその初めて聞いた名前ですね的な表情は。一緒にエリックに捕まった仲だろうに。
「すみません。野郎の名前はどうも覚えられなくて。女の子の名前なら一発で覚えられるんですけどね」
「確かにロニーなら適任だな」
遠い目をしたアロンをガン無視して、ブルース兄様はロニーを呼んでくるようセドリックに指示を出す。流石お兄様。アロンのあしらい方が手慣れていらっしゃる。
すぐにやって来たロニーは相変わらず素敵な長髪だった。
「ロニー!」
「お久しぶりです、ユリス様」
突然ブルース兄様の部屋に呼び出されたにも関わらずロニーはにこやかな笑顔だ。嬉しくなって飛びついたら危なげなく受け止めてくれる。そのまま横にぴたりと張り付いていれば、冷たい目をしたティアンが視界に入った。俺のことは放っておいてくれ。
「ロニー。突然ですまないが今度ユリスがシモンズ侯爵家を訪れることになってな。おまえに護衛を頼みたいのだが」
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「あぁ。頼むから引き受けてくれないか。でないとアロンを同行させる羽目になってしまう」
「それはいけませんね。喜んでお引き受けいたします」
ふたつ返事で了承したロニーは優しい。横でアロンが「ついでの様に俺を貶すのやめてもらえません?」とぶつくさ言っている。
かくして俺はロニーと共にフランシスの家を訪れることになったのだった。このままいけばロニーとベネットの両方を同時に拝める。両手に花だ。やった。
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