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25 長髪男子くんと遭遇
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ユリスが起こした火災現場から速やかに離れた俺は、のんびり庭園散歩を続けていた。体が軽いって素晴らしい。
呑気に見える俺だが、これでも悩みを抱えていたりする。その最たるものがひとりの時間が皆無なことだ。常に誰かしらが側にいるストレスは半端じゃない。最近では関係性が気まず過ぎるセドリックもいるから俺はもうストレスのあまり爆発でもしそうだ。
だってこいつらマジで俺にベッタリなんだぞ! 俺が溺れるとでも思っているのか風呂にまで付いてくる始末だ。俺のプライバシーはどこですか。
というわけでストレス解消しなければならない。そう、ひとり時間をゲットするのだ。
ぐるぐると庭園を巡りながら俺の頭は作戦捻出に忙しい。ジャンはたぶんどうにかなる。適当に嘘付いて撒けそうだ。
問題はセドリック。元副団長である。出し抜くのは容易ではないはずだ。
うんうん頭を捻りながら歩いていると、前方から賑やかな話し声が聞こえてきた。いま俺がいるのは屋敷の表側。しかしたまに見回りや訓練で走り込み中の騎士たちが通る場所でもある。
どうやら向こうはふたりらしい。騎士が訓練の時に着る練習着姿だ。
ちょっと端に避けてやろうかと思えば、こちらに気がついたらしい騎士がはっと息を呑むのがわかった。そのまま端に避けて片膝をつく。ひぇ。
まるでお偉いさんと遭遇したみたいな態度である。ユリスってそんな偉いんか? 主人の子供だからか?
居た堪れないので早足に去ろうと思ったが、膝をついて頭を下げる騎士のひとりに見覚えがあり、俺はぴたりと足を止めた。ジャンが何事かと肩を揺らす。
しかし俺の視線は一括りにされた赤みの強い茶髪に釘付けである。そう、例の長髪男子ことロニーである!
憧れの長髪がいま目の前に。
俺が立ち止まったことで、ロニーともうひとりの騎士が体を強張らせるのがわかった。
「ユ、ユリス様。なにかございましたでしょうか」
声を裏返してジャンが問いかけてくる。
俺はただ! ロニーと仲良くなりたいだけなんです!
熱い想いを胸に一歩踏み出せば、今まで存在感を消していたセドリックが横から遮るように手を差し出した。
「ユリス様。どうぞご寛大な処置を」
「ごかんだい」
急にどうした?
そんな難しい言葉で。よくわからんがセドリックが焦っていることはわかる。相変わらずの無表情だが、緊張感がひしひしと伝わってくる。
しかし俺としてはすれ違った騎士に近寄っただけである。これってマズイことなんですかね?
「いや、べつになにもしないけど」
「左様で。失礼致しました」
困惑気味に返せば、セドリックが静かに後ろへと下がる。ジャンに目を遣るが、いつも通りオロオロするばかりで頼りにならない。
「えっと、俺ユリスっていうんですけど」
「もちろん存じ上げております」
頭を下げたままロニーの隣にいた若い騎士が硬い声で応じる。なんだかセドリックの乱入で非常に変な空気になった。仲良くなるどころじゃない。
しかし騎士棟に近寄るとブルース兄様がブチ切れるためロニーと仲良くなるチャンスは今しかない。無言で佇むセドリックと、ロニーと仲良くなりたいという下心を天秤にかけた結果、俺は後者を選んだ。だって前世から夢にみた長髪男子だぞ! ここで逃してたまるか! 一生後悔する!
こほんと小さく咳払いをして、俺はふたりの騎士に頭を上げるよう伝える。戸惑いあらわに立ち上がったふたりは直立して俺の言葉を待っている。そんなに注目されると言いにくいな。
「ロニーだよね」
「は、はい!」
まさか名前を呼ばれるとは思ってもいなかったのだろう。声を上擦らせたロニーは、再び頭を下げようとする。それを制止して俺は当初の目的を果たすべく右手を差し出した。
「俺と友達になろう!」
空気が凍った。
微動だにしないロニーは、目を見開いて俺の右手を凝視している。握手はしてくれない感じですかね?
「……どうかご容赦くださいませ」
固まるロニーに変わり、セドリックが再び前に出て来る。彼は俺の側に片膝を付いて目線を合わせると、まるで幼い子供に言い聞かせるかのようにゆっくりとした口調で語りだす。
「ユリス様は私共の大切な主人です。一介の騎士にすぎない者たちがユリス様と言葉を交わすなど非常に畏れ多いことでございます。どうぞ彼らの心情もご理解くださいませ」
もしかして気軽に話しかけるなって言われているのか? それって立場の違いとかそういう話だろうか。
「俺はちょっと仲良くしたいと思っただけなんだけど」
「なりません。彼らをお気遣いになるのであればなおのこと。彼らの立場をどうかご理解くださいませ」
淡々とした物言いに、言葉が詰まる。今までろくに会話もしたことのないセドリックだが、俺と目線を合わせて諭すように丁寧に言葉を紡ぐ。その控えめだが確かな威圧感に押されて頷いてしまう。
「う、うん」
「ご寛大な対応感謝致します」
極めて慇懃な態度を貫くセドリックは、それきり口を閉ざして後ろに下がる。入れ替わりで前に出てきたジャンが青ざめた顔で俺に頭を下げた。
「申し訳ございません」
ジャンが謝る意味がわからないが、おそらく彼なりにこの場を収めようとしているのだろう。
さすがにこれ以上粘るわけにはいかない。ロニーと仲良くなるのはまた次回だ。
畏まったままのロニーたちを残して俺はその場を後にした。
呑気に見える俺だが、これでも悩みを抱えていたりする。その最たるものがひとりの時間が皆無なことだ。常に誰かしらが側にいるストレスは半端じゃない。最近では関係性が気まず過ぎるセドリックもいるから俺はもうストレスのあまり爆発でもしそうだ。
だってこいつらマジで俺にベッタリなんだぞ! 俺が溺れるとでも思っているのか風呂にまで付いてくる始末だ。俺のプライバシーはどこですか。
というわけでストレス解消しなければならない。そう、ひとり時間をゲットするのだ。
ぐるぐると庭園を巡りながら俺の頭は作戦捻出に忙しい。ジャンはたぶんどうにかなる。適当に嘘付いて撒けそうだ。
問題はセドリック。元副団長である。出し抜くのは容易ではないはずだ。
うんうん頭を捻りながら歩いていると、前方から賑やかな話し声が聞こえてきた。いま俺がいるのは屋敷の表側。しかしたまに見回りや訓練で走り込み中の騎士たちが通る場所でもある。
どうやら向こうはふたりらしい。騎士が訓練の時に着る練習着姿だ。
ちょっと端に避けてやろうかと思えば、こちらに気がついたらしい騎士がはっと息を呑むのがわかった。そのまま端に避けて片膝をつく。ひぇ。
まるでお偉いさんと遭遇したみたいな態度である。ユリスってそんな偉いんか? 主人の子供だからか?
居た堪れないので早足に去ろうと思ったが、膝をついて頭を下げる騎士のひとりに見覚えがあり、俺はぴたりと足を止めた。ジャンが何事かと肩を揺らす。
しかし俺の視線は一括りにされた赤みの強い茶髪に釘付けである。そう、例の長髪男子ことロニーである!
憧れの長髪がいま目の前に。
俺が立ち止まったことで、ロニーともうひとりの騎士が体を強張らせるのがわかった。
「ユ、ユリス様。なにかございましたでしょうか」
声を裏返してジャンが問いかけてくる。
俺はただ! ロニーと仲良くなりたいだけなんです!
熱い想いを胸に一歩踏み出せば、今まで存在感を消していたセドリックが横から遮るように手を差し出した。
「ユリス様。どうぞご寛大な処置を」
「ごかんだい」
急にどうした?
そんな難しい言葉で。よくわからんがセドリックが焦っていることはわかる。相変わらずの無表情だが、緊張感がひしひしと伝わってくる。
しかし俺としてはすれ違った騎士に近寄っただけである。これってマズイことなんですかね?
「いや、べつになにもしないけど」
「左様で。失礼致しました」
困惑気味に返せば、セドリックが静かに後ろへと下がる。ジャンに目を遣るが、いつも通りオロオロするばかりで頼りにならない。
「えっと、俺ユリスっていうんですけど」
「もちろん存じ上げております」
頭を下げたままロニーの隣にいた若い騎士が硬い声で応じる。なんだかセドリックの乱入で非常に変な空気になった。仲良くなるどころじゃない。
しかし騎士棟に近寄るとブルース兄様がブチ切れるためロニーと仲良くなるチャンスは今しかない。無言で佇むセドリックと、ロニーと仲良くなりたいという下心を天秤にかけた結果、俺は後者を選んだ。だって前世から夢にみた長髪男子だぞ! ここで逃してたまるか! 一生後悔する!
こほんと小さく咳払いをして、俺はふたりの騎士に頭を上げるよう伝える。戸惑いあらわに立ち上がったふたりは直立して俺の言葉を待っている。そんなに注目されると言いにくいな。
「ロニーだよね」
「は、はい!」
まさか名前を呼ばれるとは思ってもいなかったのだろう。声を上擦らせたロニーは、再び頭を下げようとする。それを制止して俺は当初の目的を果たすべく右手を差し出した。
「俺と友達になろう!」
空気が凍った。
微動だにしないロニーは、目を見開いて俺の右手を凝視している。握手はしてくれない感じですかね?
「……どうかご容赦くださいませ」
固まるロニーに変わり、セドリックが再び前に出て来る。彼は俺の側に片膝を付いて目線を合わせると、まるで幼い子供に言い聞かせるかのようにゆっくりとした口調で語りだす。
「ユリス様は私共の大切な主人です。一介の騎士にすぎない者たちがユリス様と言葉を交わすなど非常に畏れ多いことでございます。どうぞ彼らの心情もご理解くださいませ」
もしかして気軽に話しかけるなって言われているのか? それって立場の違いとかそういう話だろうか。
「俺はちょっと仲良くしたいと思っただけなんだけど」
「なりません。彼らをお気遣いになるのであればなおのこと。彼らの立場をどうかご理解くださいませ」
淡々とした物言いに、言葉が詰まる。今までろくに会話もしたことのないセドリックだが、俺と目線を合わせて諭すように丁寧に言葉を紡ぐ。その控えめだが確かな威圧感に押されて頷いてしまう。
「う、うん」
「ご寛大な対応感謝致します」
極めて慇懃な態度を貫くセドリックは、それきり口を閉ざして後ろに下がる。入れ替わりで前に出てきたジャンが青ざめた顔で俺に頭を下げた。
「申し訳ございません」
ジャンが謝る意味がわからないが、おそらく彼なりにこの場を収めようとしているのだろう。
さすがにこれ以上粘るわけにはいかない。ロニーと仲良くなるのはまた次回だ。
畏まったままのロニーたちを残して俺はその場を後にした。
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