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第5話 あやかしだって前進したい!

14 そういえば

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 僕たちは大事なことを忘れていた。そのことに思い至ったのは、相談事務所の扉を開いたときである。

「おかえりなさい」

 にこっ。
 怖いくらいの笑みを浮かべた宮下さんに出迎えられて、そういえばと出て来たときのことを思い出す。

「た、ただいまぁ」

 ははっと笑って誤魔化すが、宮下さんはぴくりと青筋を浮かべただけだった。
「随分と遅かったですねぇ」

 それは山瀬さんが余計な寄り道をしたからで。
 けれども、そんな言い訳も山瀬さんに睨まれたことで引っ込んだ。

「なんだ。心配だったのなら、おまえもついて来ればよかったじゃないか」
「ついて行く前にさっさと逃げ出したのはどこのどなたでしたっけ?」

 すっと目を細める宮下さんは、完全にご立腹だ。

「おまえがもたもたしているのが悪いのだ」

 こんなときにも果敢に火に油を注ぎに行く山瀬さんは本当にどういうつもりなのだろうか。一度問い詰めてみたい衝動に駆られていると、宮下さんがこちらに視線を移した。

「優斗さん」
「はい!」

 油断していたため、少々声が上擦ってしまった。反射的に背筋を伸ばせば、盛大にため息をつかれた。

「……朱音くんはどうでしたか?」

 絞り出すような言い様に、虚を突かれる。

「えっとぉ。元気、ではなかったような」

 てっきり小言を漏らされると覚悟していた僕は、しどろもどろに言葉を紡ぐ。

「ズバリ言うと?」
「犬でした」

 正直に告げれば、「やっぱり」と宮下さんが額を押さえた。

「だからやめろって言ったんですよ」

 そうやって毒づくも、本心では朱音のことを心配しているのが見て取れる。給湯室へと消えて行く宮下さんの後ろ姿は、どことなく疲弊しているようにも見えた。

「……氷水、持ってきましょうか?」

 取り残された応接スペースで山瀬さんを窺えば、こくりと相槌が返って来た。
 宮下さんの後を追うように給湯室へと足を運べば、丁度彼がアイスコーヒーを用意しているところだった。

「み、宮下さん」

 背中に向かって投げかければ、一瞬の間を置いて彼が振り返った。

「すみませんでした」

 勢いだけで頭を下げれば、深いため息が降って来る。

「別にいいですよ。怒っているわけじゃありませんしね」

 いや、絶対に怒っている。
 だが、馬鹿正直に指摘できるほど僕は強靭な心を持っていない。「そうですか」と素直に引き下がる。触らぬ神になんとやらというやつだ。宮下さんは神じゃなくてあやかしだけれども。
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