あやかしだって困ってるんです！～それ僕が解決するんですか？～

第5話 あやかしだって前進したい！

８ 留守

「おーい、朱音」

　二〇一号室前にて、山瀬さんがインターホンを連打する。
　軽く三十回ほど押したところで、苛立ったように声をかけた。だが、返ってくるのは無言。

「聞こえていないのか？」

　いや、それだけ連打すれば嫌でも聞こえると思うぞ。留守なのか、それとも居留守を使われているのか。後者の可能性が高いと思うのは、相手が朱音だから仕方のないことだと思う。

「もしかして、倒れてるんじゃ」

　そういえば朱音が体調を崩しているらしいことを思い出して呟けば、山瀬さんがきょとんと目を丸くした。

「それでも鍵を開けるくらいはできるだろう」

　鬼か、あんたは。病気かもしれない奴に無理をさせるんじゃない。

「ここ、なんとかして開けられないですかね」

　中からの解錠は期待できないと山瀬さんに意見を求めれば、眉をひそめられた。

「山瀬に扉を壊せと」
「誰もそんな物騒なこと言ってないですよ」

　もう少し平和的な解決方法はないのか。最初から最終手段を持ち出すのはやめて欲しい。

「山瀬はピッキングなんてできないぞ」

　大丈夫だ、それは期待していない。むしろ山瀬さんがピッキングの意味を知っていることの方が驚きだ。

「やはり壊すしかないか」
「だからそれはやめましょうって」

　実力行使にでたら確実に怒られる。山瀬さんのことだ。僕を見捨てて、罪を擦り付ける姿が簡単に想像できてしまった。ここはなんとしてでも平和的に解決せねば。

「では、どうするのだ」

　睨まれて、僕はたじろぐ。だが、ひとつだけ思い付いた。

「大家さんに鍵を借りましょう」

　たぶん、それが一番平和的な解決策だ。