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第4話 あやかしだって喧嘩したい!
20 贈り物
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「で? 結局ふたり仲良く町を出て行くことになったと」
翌日、来客用のソファーで白黒の猫二匹と対面していた宮下さんが確認するように呟いた。
「あたしも八太も長くこの町にいるからねぇ。そろそろ場所を変えないと面倒なことになる」
心なしか嬉しそうに話すマリさんの首には、きれいなピンク色のリボンが巻かれていた。八太さんが持ち出した、彼女の大切なリボンだ。白色の毛並みに淡いピンクはよく映える。
「マリと一緒だったらどこへでも行けるな!」
わかりやすくはしゃぐ八太さんは、先程からにこにこと幸せそうな笑顔を浮かべている。幸せオーラ全開だ。
「それはよかったですね。それで? わざわざそのことを報告しに来てくれたんですか?」
そう言う宮下さんの態度はどこか投げやりでもあった。幸せそうなふたりの様子を見せつけられて疲弊しているのだろうか。デスクの方から様子を窺っていた僕は、こっそりと彼に同情する。
あれから、マリさんは八太さんのもとへと向かい散々罵った後に「仕方がないからついて行く」と告げたのだ。そのときの八太さんの嬉しそうな顔といったら。しばらく忘れられそうにもない。
なにはともあれ、八太さんの悩みは無事解決したのだ。そして恐らく、八太さんとマリさんは両想いに違いない。まるで夫婦のように仲良く連れ添うふたりを見て、僕はそう確信していた。想い合うふたりが一緒にいられるのならば、それに越したことはない。
心から祝福していたのだが、ふとマリさんがその笑顔に陰りを落とした。
「それで、心配なことがひとつだけあるんだよ」
「マリが紗月にお別れを言いたいって。だから、どうにかできないか?」
紗月さんとは、マリさんの飼い主である女性のことだ。
「突然あたしがいなくなったら心配するだろう? だから、そうならないように最後にお別れをしておきたいんだよ」
マリさんは人間の言葉を操ることができる。だからといって紗月さんに話しかけて怖がられるのも嫌だ。だから別れを告げるための知恵を貸して欲しいというのが彼女からの依頼であった。
「八太さんは、お別れ言わなくてもいいんですか?」
気になって彼らの方に歩み寄れば、八太さんは得意げに胸を張った。
「俺は近所の野良を紹介してきたからな! これで爺さんと婆さんも寂しくないし、野良も住処が見つかる。完璧だろう!」
つまり、八太さんは自分の居場所であった老夫婦のもとを他の猫に譲ったというわけか。老夫婦は心配するだろうが、そんな彼らを後輩猫に慰めてもらおうという魂胆らしい。
「マリもそうすればいいのに」
「馬鹿かい。あたしみたいにきれいな猫がどこにいるっていうんだい」
口を尖らせる八太さんに、マリさんはふんぞり返ってみせる。
「それに、紗月はあんたのとこの年寄りと違って繊細なんだ。あたしがいなくなったら悲しむに決まっているのさ」
言い方はあれだが、マリさんが紗月さんのことを想っているのは十分に伝わって来た。
「宮下さん、どうにかできないんですか?」
助言を求めて宮下さんを見遣れば、彼は腕を組んで難しい顔をする。
「私に訊かれてもですねぇ。優斗さんはなにかいいアイデアはありませんか?」
「え、僕ですか?」
そんなことを言われても、特にこれといって思いつかない。
一番手っ取り早いのは、マリさんが自分の言葉で伝えることだ。けれども、彼女が思案するように、紗月さんを怖がらせてしまう恐れもある。せっかく良好な関係を築いていたのに、それが最後の最後で崩れるのはやはりいただけない。
「なにか、贈り物をするとかはどうでしょうか?」
捻った末に出てきたのが、それだった。少し安直だっただろうか。しかし、マリさんは嬉しそうに目を細めてくれた。
「いいねぇ。そうしようか。あたしからだってわかるように、目印をつけておけばいい」
満足そうなマリさんの横で、八太さんもそれがいいと大きく頷いた。
後日、これは人づて――というか猫づてに聞いた話なのだが、マリさんが八太さんと町を出たその日。紗月さんの自宅前にはきれいなカスミソウの花が置かれていたのだという。感謝という花言葉を持つその茎には、きれいなピンク色のリボンが巻かれていたそうだ。
翌日、来客用のソファーで白黒の猫二匹と対面していた宮下さんが確認するように呟いた。
「あたしも八太も長くこの町にいるからねぇ。そろそろ場所を変えないと面倒なことになる」
心なしか嬉しそうに話すマリさんの首には、きれいなピンク色のリボンが巻かれていた。八太さんが持ち出した、彼女の大切なリボンだ。白色の毛並みに淡いピンクはよく映える。
「マリと一緒だったらどこへでも行けるな!」
わかりやすくはしゃぐ八太さんは、先程からにこにこと幸せそうな笑顔を浮かべている。幸せオーラ全開だ。
「それはよかったですね。それで? わざわざそのことを報告しに来てくれたんですか?」
そう言う宮下さんの態度はどこか投げやりでもあった。幸せそうなふたりの様子を見せつけられて疲弊しているのだろうか。デスクの方から様子を窺っていた僕は、こっそりと彼に同情する。
あれから、マリさんは八太さんのもとへと向かい散々罵った後に「仕方がないからついて行く」と告げたのだ。そのときの八太さんの嬉しそうな顔といったら。しばらく忘れられそうにもない。
なにはともあれ、八太さんの悩みは無事解決したのだ。そして恐らく、八太さんとマリさんは両想いに違いない。まるで夫婦のように仲良く連れ添うふたりを見て、僕はそう確信していた。想い合うふたりが一緒にいられるのならば、それに越したことはない。
心から祝福していたのだが、ふとマリさんがその笑顔に陰りを落とした。
「それで、心配なことがひとつだけあるんだよ」
「マリが紗月にお別れを言いたいって。だから、どうにかできないか?」
紗月さんとは、マリさんの飼い主である女性のことだ。
「突然あたしがいなくなったら心配するだろう? だから、そうならないように最後にお別れをしておきたいんだよ」
マリさんは人間の言葉を操ることができる。だからといって紗月さんに話しかけて怖がられるのも嫌だ。だから別れを告げるための知恵を貸して欲しいというのが彼女からの依頼であった。
「八太さんは、お別れ言わなくてもいいんですか?」
気になって彼らの方に歩み寄れば、八太さんは得意げに胸を張った。
「俺は近所の野良を紹介してきたからな! これで爺さんと婆さんも寂しくないし、野良も住処が見つかる。完璧だろう!」
つまり、八太さんは自分の居場所であった老夫婦のもとを他の猫に譲ったというわけか。老夫婦は心配するだろうが、そんな彼らを後輩猫に慰めてもらおうという魂胆らしい。
「マリもそうすればいいのに」
「馬鹿かい。あたしみたいにきれいな猫がどこにいるっていうんだい」
口を尖らせる八太さんに、マリさんはふんぞり返ってみせる。
「それに、紗月はあんたのとこの年寄りと違って繊細なんだ。あたしがいなくなったら悲しむに決まっているのさ」
言い方はあれだが、マリさんが紗月さんのことを想っているのは十分に伝わって来た。
「宮下さん、どうにかできないんですか?」
助言を求めて宮下さんを見遣れば、彼は腕を組んで難しい顔をする。
「私に訊かれてもですねぇ。優斗さんはなにかいいアイデアはありませんか?」
「え、僕ですか?」
そんなことを言われても、特にこれといって思いつかない。
一番手っ取り早いのは、マリさんが自分の言葉で伝えることだ。けれども、彼女が思案するように、紗月さんを怖がらせてしまう恐れもある。せっかく良好な関係を築いていたのに、それが最後の最後で崩れるのはやはりいただけない。
「なにか、贈り物をするとかはどうでしょうか?」
捻った末に出てきたのが、それだった。少し安直だっただろうか。しかし、マリさんは嬉しそうに目を細めてくれた。
「いいねぇ。そうしようか。あたしからだってわかるように、目印をつけておけばいい」
満足そうなマリさんの横で、八太さんもそれがいいと大きく頷いた。
後日、これは人づて――というか猫づてに聞いた話なのだが、マリさんが八太さんと町を出たその日。紗月さんの自宅前にはきれいなカスミソウの花が置かれていたのだという。感謝という花言葉を持つその茎には、きれいなピンク色のリボンが巻かれていたそうだ。
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