41 / 85
第3話 あやかしだって青春したい!
13 人間らしく
しおりを挟む
「それで? どうやったら人間に上手く馴染めるかって話でしたよね」
恵さんの向かいに腰を下ろしつつ、確認するように宮下さんが投げかけた。
「はい、そうです」
こくりと頷いた恵さんは、今度は宮下さんに期待の眼差しを向けている。それを一身に受けてやや困惑気味の宮下さんは、軽く咳払いをした。
「ところで優斗さん」
「はい?」
突然話を振られて、完全に油断していた僕は間の抜けた声を漏らしてしまった。それにお構いなく、宮下さんはにこりといつもの胡散臭い笑みを浮かべた。
「恵さんが上手く人間に紛れるためには恵さん自身どう振舞うべきなのでしょうか」
「人間らしく、ですかね?」
恵さんが遠巻きにされる原因は、人間離れした未来予知を行うためである。逆に、それさえなくなれば明るく活発な恵さんだ。人間の友達を作るのも簡単だろう。
僕の答えを聞いて満足したのか、宮下さんは目を細めて相槌を打つ。
けれども、彼の次の質問に僕は言葉を失うことになる。
「では、もうひとつ質問を。優斗さんの言う人間らしいとは、一体どういうことでしょうかね」
「え――?」
人間らしい。言葉にするのは簡単だ。けれども、実際にどういうことと訊かれると難しい。というか、答えが見つからない。
人間らしいってなんだ。自分で言っておいて、情けないことにまったくもって意味が分からない。頭を殴られたような衝撃が走った。
「それは――」
後に続く言葉が見つからない。そもそも、答えなんてあるのだろうか。
僕の目から見て、宮下さんや朱音は人間らしいと感じる。恵さんも同様だ。けれども、彼女のクラスメイトは彼女のことを人間らしいとは感じていないのだろうか。その境目は、一体どこにあるのか。
「……人間らしいって、一体どういうことなんですかね」
結局答えが見つからずに宮下を見上げれば、彼は困ったように頬を掻いた。
「それは難しい質問をしますねぇ」
ということは、宮下さんも答えはわからないらしい。それもそうだ。そもそも、人間らしいなんていうのは僕らが勝手に決めた基準だ。明確な線引きが存在しているわけではない。
「人間の中にだってあやかしらしいと感じる人はいるかもしれません。逆もそうです。結局のところ、人間らしくしようとするのが間違いなんですよ」
にこりと言い放った宮下さん。
「さてと。それでは、私はそろそろ仕事に戻らなくては。優斗さん、あとは頼みましたよ」
ウインクひとつ残してデスクへと戻った宮下さんの後ろ姿を見送って、僕と恵さんは互いに顔を見合わせた。やがて、恵さんが言葉を選ぶようにして口を開いた。
「つまり、私は私であって人間らしくする必要はないってこと? ありのままがいいと」
「……恵さんは誰とでも仲良くやっていけると思うんです。遠巻きにされてるからって自分から身を引くんじゃなくて、周りを巻き込むくらい強引にいけば絶対に仲良くやっていけると思うんですよ」
恐らく、クラスメイトたちは恵さんとの間に見えない壁を作っているのだろう。それは、恵さんのことを気味悪いと思う感情から出来ているものなのかもしれない。けれども、恵さんが気味悪がられるのは周りのクラスメイトが彼女のことをよく知らないからだ。彼女のことを理解してくれれば、遠巻きにされるなんてことはないはずだ。
恵さんが、自分自身で壁を壊さなければいけないのだ。
「ありがとう、優斗くん。私、絶対に友達作ってみせるよ」
そして朱音くんに自慢してやるんだから。
そう言う彼女の顔には今日一番の笑顔が浮かんでいた。
恵さんの向かいに腰を下ろしつつ、確認するように宮下さんが投げかけた。
「はい、そうです」
こくりと頷いた恵さんは、今度は宮下さんに期待の眼差しを向けている。それを一身に受けてやや困惑気味の宮下さんは、軽く咳払いをした。
「ところで優斗さん」
「はい?」
突然話を振られて、完全に油断していた僕は間の抜けた声を漏らしてしまった。それにお構いなく、宮下さんはにこりといつもの胡散臭い笑みを浮かべた。
「恵さんが上手く人間に紛れるためには恵さん自身どう振舞うべきなのでしょうか」
「人間らしく、ですかね?」
恵さんが遠巻きにされる原因は、人間離れした未来予知を行うためである。逆に、それさえなくなれば明るく活発な恵さんだ。人間の友達を作るのも簡単だろう。
僕の答えを聞いて満足したのか、宮下さんは目を細めて相槌を打つ。
けれども、彼の次の質問に僕は言葉を失うことになる。
「では、もうひとつ質問を。優斗さんの言う人間らしいとは、一体どういうことでしょうかね」
「え――?」
人間らしい。言葉にするのは簡単だ。けれども、実際にどういうことと訊かれると難しい。というか、答えが見つからない。
人間らしいってなんだ。自分で言っておいて、情けないことにまったくもって意味が分からない。頭を殴られたような衝撃が走った。
「それは――」
後に続く言葉が見つからない。そもそも、答えなんてあるのだろうか。
僕の目から見て、宮下さんや朱音は人間らしいと感じる。恵さんも同様だ。けれども、彼女のクラスメイトは彼女のことを人間らしいとは感じていないのだろうか。その境目は、一体どこにあるのか。
「……人間らしいって、一体どういうことなんですかね」
結局答えが見つからずに宮下を見上げれば、彼は困ったように頬を掻いた。
「それは難しい質問をしますねぇ」
ということは、宮下さんも答えはわからないらしい。それもそうだ。そもそも、人間らしいなんていうのは僕らが勝手に決めた基準だ。明確な線引きが存在しているわけではない。
「人間の中にだってあやかしらしいと感じる人はいるかもしれません。逆もそうです。結局のところ、人間らしくしようとするのが間違いなんですよ」
にこりと言い放った宮下さん。
「さてと。それでは、私はそろそろ仕事に戻らなくては。優斗さん、あとは頼みましたよ」
ウインクひとつ残してデスクへと戻った宮下さんの後ろ姿を見送って、僕と恵さんは互いに顔を見合わせた。やがて、恵さんが言葉を選ぶようにして口を開いた。
「つまり、私は私であって人間らしくする必要はないってこと? ありのままがいいと」
「……恵さんは誰とでも仲良くやっていけると思うんです。遠巻きにされてるからって自分から身を引くんじゃなくて、周りを巻き込むくらい強引にいけば絶対に仲良くやっていけると思うんですよ」
恐らく、クラスメイトたちは恵さんとの間に見えない壁を作っているのだろう。それは、恵さんのことを気味悪いと思う感情から出来ているものなのかもしれない。けれども、恵さんが気味悪がられるのは周りのクラスメイトが彼女のことをよく知らないからだ。彼女のことを理解してくれれば、遠巻きにされるなんてことはないはずだ。
恵さんが、自分自身で壁を壊さなければいけないのだ。
「ありがとう、優斗くん。私、絶対に友達作ってみせるよ」
そして朱音くんに自慢してやるんだから。
そう言う彼女の顔には今日一番の笑顔が浮かんでいた。
10
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
お狐様とひと月ごはん 〜屋敷神のあやかしさんにお嫁入り?〜
織部ソマリ
キャラ文芸
『美詞(みこと)、あんた失業中だから暇でしょう? しばらく田舎のおばあちゃん家に行ってくれない?』
◆突然の母からの連絡は、亡き祖母のお願い事を果たす為だった。その願いとは『庭の祠のお狐様を、ひと月ご所望のごはんでもてなしてほしい』というもの。そして早速、山奥のお屋敷へ向かった美詞の前に現れたのは、真っ白い平安時代のような装束を着た――銀髪狐耳の男!?
◆彼の名は銀(しろがね)『家護りの妖狐』である彼は、十年に一度『世話人』から食事をいただき力を回復・補充させるのだという。今回の『世話人』は美詞。
しかし世話人は、百年に一度だけ『お狐様の嫁』となる習わしで、美詞はその百年目の世話人だった。嫁は望まないと言う銀だったが、どれだけ美味しい食事を作っても力が回復しない。逆に衰えるばかり。
そして美詞は決意する。ひと月の間だけの、期間限定の嫁入りを――。
◆三百年生きたお狐様と、妖狐見習いの子狐たち。それに竈神や台所用品の付喪神たちと、美味しいごはんを作って過ごす、賑やかで優しいひと月のお話。
◆『第3回キャラ文芸大賞』奨励賞をいただきました!ありがとうございました!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~
じゅん
キャラ文芸
【第6回「ほっこり・じんわり大賞」奨励賞 受賞👑】
ある日、半妖だと判明した女子大生の毬瑠子が、父親である美貌の吸血鬼が経営するバーでアルバイトをすることになり、困っているあやかしを助ける、ハートフルな連作短編。
人として生きてきた主人公が突如、吸血鬼として生きねばならなくなって戸惑うも、あやかしたちと過ごすうちに運命を受け入れる。そして、気づかなかった親との絆も知ることに――。
護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂
栗槙ひので
キャラ文芸
考古学者の護堂友和は、気が付くと死んでいた。
彼には死んだ時の記憶がなく、死神のリストにも名前が無かった。予定外に早く死んでしまった友和は、未だ修行が足りていないと、閻魔大王から特命を授かる。
それは、霊界で働く者達の食堂メニューを考える事と、自身の死の真相を探る事。活動しやすいように若返らせて貰う筈が、どういう訳か中学生の姿にまで戻ってしまう。
自分は何故死んだのか、神々を満足させる料理とはどんなものなのか。
食いしん坊の神様、幽霊の料理人、幽体離脱癖のある警察官に、御使の天狐、迷子の妖怪少年や河童まで現れて……風変わりな神や妖怪達と織りなす、霊界ファンタジー。
「護堂先生と神様のごはん」もう一つの物語。
2019.12.2 現代ファンタジー日別ランキング一位獲得
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜
四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】
応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました!
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。
ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。
大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。
とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。
自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。
店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。
それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。
そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。
「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」
蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。
莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。
蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。
❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.
※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。
※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。
あやかし狐の身代わり花嫁
シアノ
キャラ文芸
第4回キャラ文芸大賞あやかし賞受賞作。
2024年2月15日書下ろし3巻を刊行しました!
親を亡くしたばかりの小春は、ある日、迷い込んだ黒松の林で美しい狐の嫁入りを目撃する。ところが、人間の小春を見咎めた花嫁が怒りだし、突如破談になってしまった。慌てて逃げ帰った小春だけれど、そこには厄介な親戚と――狐の花婿がいて? 尾崎玄湖と名乗った男は、借金を盾に身売りを迫る親戚から助ける代わりに、三ヶ月だけ小春に玄湖の妻のフリをするよう提案してくるが……!? 妖だらけの不思議な屋敷で、かりそめ夫婦が紡ぎ合う優しくて切ない想いの行方とは――
生命の樹
プラ
キャラ文芸
ある部族に生まれた突然変異によって、エネルギー源となった人。
時間をかけ、その部族にその特性は行き渡り、その部族、ガベト族はエネルギー源となった。
そのエネルギーを生命活動に利用する植物の誕生。植物は人間から得られるエネルギーを最大化するため、より人の近くにいることが繁栄に直結した。
その結果、植物は進化の中で人間に便利なように、極端な進化をした。
その中で、『生命の樹』という自身の細胞を変化させ、他の植物や、動物の一部になれる植物の誕生。『生命の樹』が新たな進化を誘発し、また生物としての根底を変えてしまいつつある世界。
『生命の樹』で作られた主人公ルティ、エネルギー源になれるガベト族の生き残り少女グラシア。
彼らは地上の生態系を大きく変化させていく。
※毎週土曜日投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる