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第3話 あやかしだって青春したい!
12 荷が重い
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「で、結局私はどうしたらいいと思う?」
宮下さんが淹れたアイスコーヒーは絶品だ。ただ苦いだけでなく、すっきりとした後味が口内に広がり喉を潤してくれる。グラスの中で氷が音を立てて崩れる様子をぼんやりと眺めながら、僕はどうしたものかと考え込んでいた。
僕が朱音の自宅を去ってから間もなく。あれから恵さんは朱音と盛大に言い争ったらしい。第三者の僕がいなくなったことで双方遠慮がなくなったのだろうか。互いに一歩も引かない口論の末、頭に血の昇った恵さんは捨て台詞を残して朱音の自宅を飛び出してきたという。
「学校に戻ろうとは思わなかったんですか?」
行く当てのなかったという彼女がたどり着いたのが、ここあやかし相談事務所だったというわけだ。
「学校はほら? 途中でぬけて来たから戻りづらいじゃん」
「それはそうですけど」
カバンとかは大丈夫なのだろうか。僕の記憶が正しければ、彼女は学校から手ぶらで出て来たはずだ。そう問えば、彼女は「また夜中に取りに戻るから大丈夫」と親指を立ててみせた。どうでもいいが、それは不法侵入にならないのだろうか? あやかしだからセーフなのか?
首を捻っていると、恵さんが「それで」と口を開いた。
「よく考えたら朱音くんのせいで私の悩みはなにひとつ解決していないんだよね。それでついでに優斗くんにアドバイスを貰おうと思って」
喧嘩のついでにアドバイスを貰いに来るのはやめて欲しい。そう目で訴えるも、恵さんには伝わらなかったようだ。期待に満ち溢れた顔で僕を見つめてくる。
宮下さんに助けを求めようとそちらに視線を送れば、彼は打って変わって真剣にパソコンと向かい合っていた。なんでだ? つい先程まで僕らの話を聞きながら暇そうにソファーで足を投げ出していただろうが。完全に見捨てられた。思わず顔を覆えば、恵さんがぱちぱちと目を瞬く。
「優斗くん、どうしたの?」
「……僕には荷が重いです」
「どうして?」
「どうしてって。僕、そんなアドバイスとか無理です」
要は、クラスで遠巻きにされている恵さんがクラスに馴染むにはどうすればよいかということだ。そんな方法、僕だって知りたい。だから正直に無理だと伝えれば、恵さんは納得のいかない表情で小首を傾げた。
「優斗くんって人間なんだよね?」
「そうですけど」
「じゃあわかるでしょう?」
「いや、わかりません」
なんだその期待は。
人間だからといって人間社会のすべてを知り尽くしているわけではないぞ。むしろ、知らないことの方が多い。正しい人間関係の築き方なんてその最たるものだ。
だが、恵さんは意味が分からないといった風に眉を寄せた。なぜそんな不思議そうな顔をするんだ。もしかしてあやかしは同じあやかしの考えていることがわかったりするのだろうか。そんな馬鹿な。
なんて説明すればきちんと伝わるのだろうか。ああでもない、こうでもないと逡巡している間も恵さんは遠慮なしに僕を凝視してくる。視線が痛い。
「……そういうことは、僕よりも宮下さんに訊いたらどうですか? 僕なんかよりもずっと長生きなわけだし」
苦し紛れになんとか逃げ出そうと試みれば、背後でドンっとなにかがぶつかる音がした。ちらりと肩越しに見遣れば、宮下さんが信じられないという目でこちらを見ていた。それを見なかったことにして、僕は恵さんに向き直る。
もしや僕の提案はお気に召さなかったのだろうか。恐る恐る窺うと、彼女は「なるほど」と手を叩いていた。
「さすが優斗くん」
「ありがとうございます。じゃああとは宮下さんにお任せするってことで」
さり気なく移動して恵さんの向かい側を譲れば、宮下さんが観念したようにこちらに歩み寄って来た。
宮下さんが淹れたアイスコーヒーは絶品だ。ただ苦いだけでなく、すっきりとした後味が口内に広がり喉を潤してくれる。グラスの中で氷が音を立てて崩れる様子をぼんやりと眺めながら、僕はどうしたものかと考え込んでいた。
僕が朱音の自宅を去ってから間もなく。あれから恵さんは朱音と盛大に言い争ったらしい。第三者の僕がいなくなったことで双方遠慮がなくなったのだろうか。互いに一歩も引かない口論の末、頭に血の昇った恵さんは捨て台詞を残して朱音の自宅を飛び出してきたという。
「学校に戻ろうとは思わなかったんですか?」
行く当てのなかったという彼女がたどり着いたのが、ここあやかし相談事務所だったというわけだ。
「学校はほら? 途中でぬけて来たから戻りづらいじゃん」
「それはそうですけど」
カバンとかは大丈夫なのだろうか。僕の記憶が正しければ、彼女は学校から手ぶらで出て来たはずだ。そう問えば、彼女は「また夜中に取りに戻るから大丈夫」と親指を立ててみせた。どうでもいいが、それは不法侵入にならないのだろうか? あやかしだからセーフなのか?
首を捻っていると、恵さんが「それで」と口を開いた。
「よく考えたら朱音くんのせいで私の悩みはなにひとつ解決していないんだよね。それでついでに優斗くんにアドバイスを貰おうと思って」
喧嘩のついでにアドバイスを貰いに来るのはやめて欲しい。そう目で訴えるも、恵さんには伝わらなかったようだ。期待に満ち溢れた顔で僕を見つめてくる。
宮下さんに助けを求めようとそちらに視線を送れば、彼は打って変わって真剣にパソコンと向かい合っていた。なんでだ? つい先程まで僕らの話を聞きながら暇そうにソファーで足を投げ出していただろうが。完全に見捨てられた。思わず顔を覆えば、恵さんがぱちぱちと目を瞬く。
「優斗くん、どうしたの?」
「……僕には荷が重いです」
「どうして?」
「どうしてって。僕、そんなアドバイスとか無理です」
要は、クラスで遠巻きにされている恵さんがクラスに馴染むにはどうすればよいかということだ。そんな方法、僕だって知りたい。だから正直に無理だと伝えれば、恵さんは納得のいかない表情で小首を傾げた。
「優斗くんって人間なんだよね?」
「そうですけど」
「じゃあわかるでしょう?」
「いや、わかりません」
なんだその期待は。
人間だからといって人間社会のすべてを知り尽くしているわけではないぞ。むしろ、知らないことの方が多い。正しい人間関係の築き方なんてその最たるものだ。
だが、恵さんは意味が分からないといった風に眉を寄せた。なぜそんな不思議そうな顔をするんだ。もしかしてあやかしは同じあやかしの考えていることがわかったりするのだろうか。そんな馬鹿な。
なんて説明すればきちんと伝わるのだろうか。ああでもない、こうでもないと逡巡している間も恵さんは遠慮なしに僕を凝視してくる。視線が痛い。
「……そういうことは、僕よりも宮下さんに訊いたらどうですか? 僕なんかよりもずっと長生きなわけだし」
苦し紛れになんとか逃げ出そうと試みれば、背後でドンっとなにかがぶつかる音がした。ちらりと肩越しに見遣れば、宮下さんが信じられないという目でこちらを見ていた。それを見なかったことにして、僕は恵さんに向き直る。
もしや僕の提案はお気に召さなかったのだろうか。恐る恐る窺うと、彼女は「なるほど」と手を叩いていた。
「さすが優斗くん」
「ありがとうございます。じゃああとは宮下さんにお任せするってことで」
さり気なく移動して恵さんの向かい側を譲れば、宮下さんが観念したようにこちらに歩み寄って来た。
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