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第3話 あやかしだって青春したい!
3 家庭訪問
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宮下さんに渡された地図を片手に、僕はやっとのことで朱音の自宅を探し出した。周辺は入り組んでおり、一本道を間違えただけで大幅に時間を費やしてしまった。けれども、迷ってしまった原因はそれだけではない。
「……頼むよぉ、宮下さん」
宮下さん自作の地図は、お世辞でもわかりやすいとは言えなかった。というか、大雑把すぎる。端の方に小さく住所が記載されていたからよかったものの、それがなければ未だ延々と迷っていたことだろう。スマホがあってよかった。彼には悪いが、地図アプリで検索したら一発で見つかった。文明の利器に助けられつつたどり着いたのは変哲ないアパートだった。
二階建ての小さなアパートで、少し町から外れたところにある。比較的新しい建物なのだろう。外見は西洋風で清潔感に溢れている。宮下さんによると、朱音はここの二階に住んでいるらしい。二〇一号室。一番端の部屋だ。
外階段を上って、部屋の前に到着した。少し躊躇った後、僕は怖々とインターホンを押す。やがて、前触れなく扉が開かれた。
「……うわ、びっくりした」
あまりに勢いよく開かれたものだから、思わず一歩後退りしてしまった。姿を現したのは、もちろん朱音だ。
「優斗さんじゃないですか。どうかしたんですか?」
僕の来訪に朱音は目を見張って、きょろきょろと周囲を観察し始める。家にいたのだから、彼はもちろん私服だった。しかし普段スーツを愛用している宮下さんとは違い、朱音は常日頃から私服であるため新鮮さもなにもない。
「宮下さんは……、いないですね?」
「う、うん。僕ひとりだけど」
「ならいいけど」
朱音は宮下さんがいないとわかった途端に肩の力を抜く。ついでに敬語も抜け落ちる。そのまま、玄関先で僕に怪訝な目を向けた。
「ここ、誰に教えてもらった?」
「宮下さんだけど」
「ふーん?」
納得いっていないような感じで朱音は首を捻る。一体なにをそんなに警戒しているのだろうか。
「で、なんの用だ?」
「いや、ちょっと届け物」
「届け物? まさか仕事か? なんで有休中に仕事をわざわざ家まで持ってくるんだ」
「僕に言われても……」
それに、宮下さんに渡されたのは小さな紙袋だ。まだ仕事と決まったわけではない。件の紙袋を差し出せば、朱音が眉をひそめた。
「これ、中身はなんだ?」
「え? 知らないけど」
「知らずに持って来たのか?」
呆れた。口には出さずとも、そう思っているのがまるわかりだった。だって紙袋にはテープが貼ってあって中身が見えないようになっている。隙間から覗くくらいはできるかもしれないが、いくら僕でもそんな失礼なことはしない。しかし大きさに比して、やけに軽かった気もする。
遠慮なく紙袋を開けて、朱音はぱちりと目を瞬く。
「これ、ケーキみたいですけど。まさか振り回したりしてないよな」
疑いの目を向けられて、慌てて否定する。
「ちゃんと持って来たから!」
そんな無暗に振り回すようなことはしていないはずだ。たぶん。
崩れてたらあんたのせいだからな。そう言い置いて、朱音は扉を閉じようと手を伸ばした。
「……頼むよぉ、宮下さん」
宮下さん自作の地図は、お世辞でもわかりやすいとは言えなかった。というか、大雑把すぎる。端の方に小さく住所が記載されていたからよかったものの、それがなければ未だ延々と迷っていたことだろう。スマホがあってよかった。彼には悪いが、地図アプリで検索したら一発で見つかった。文明の利器に助けられつつたどり着いたのは変哲ないアパートだった。
二階建ての小さなアパートで、少し町から外れたところにある。比較的新しい建物なのだろう。外見は西洋風で清潔感に溢れている。宮下さんによると、朱音はここの二階に住んでいるらしい。二〇一号室。一番端の部屋だ。
外階段を上って、部屋の前に到着した。少し躊躇った後、僕は怖々とインターホンを押す。やがて、前触れなく扉が開かれた。
「……うわ、びっくりした」
あまりに勢いよく開かれたものだから、思わず一歩後退りしてしまった。姿を現したのは、もちろん朱音だ。
「優斗さんじゃないですか。どうかしたんですか?」
僕の来訪に朱音は目を見張って、きょろきょろと周囲を観察し始める。家にいたのだから、彼はもちろん私服だった。しかし普段スーツを愛用している宮下さんとは違い、朱音は常日頃から私服であるため新鮮さもなにもない。
「宮下さんは……、いないですね?」
「う、うん。僕ひとりだけど」
「ならいいけど」
朱音は宮下さんがいないとわかった途端に肩の力を抜く。ついでに敬語も抜け落ちる。そのまま、玄関先で僕に怪訝な目を向けた。
「ここ、誰に教えてもらった?」
「宮下さんだけど」
「ふーん?」
納得いっていないような感じで朱音は首を捻る。一体なにをそんなに警戒しているのだろうか。
「で、なんの用だ?」
「いや、ちょっと届け物」
「届け物? まさか仕事か? なんで有休中に仕事をわざわざ家まで持ってくるんだ」
「僕に言われても……」
それに、宮下さんに渡されたのは小さな紙袋だ。まだ仕事と決まったわけではない。件の紙袋を差し出せば、朱音が眉をひそめた。
「これ、中身はなんだ?」
「え? 知らないけど」
「知らずに持って来たのか?」
呆れた。口には出さずとも、そう思っているのがまるわかりだった。だって紙袋にはテープが貼ってあって中身が見えないようになっている。隙間から覗くくらいはできるかもしれないが、いくら僕でもそんな失礼なことはしない。しかし大きさに比して、やけに軽かった気もする。
遠慮なく紙袋を開けて、朱音はぱちりと目を瞬く。
「これ、ケーキみたいですけど。まさか振り回したりしてないよな」
疑いの目を向けられて、慌てて否定する。
「ちゃんと持って来たから!」
そんな無暗に振り回すようなことはしていないはずだ。たぶん。
崩れてたらあんたのせいだからな。そう言い置いて、朱音は扉を閉じようと手を伸ばした。
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