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第3話 あやかしだって青春したい!

1 有休

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 夏休みもあっという間に半分以上が過ぎ去ってしまった。長い長いと感じていた頃が懐かしい。残りの日数を指折り数えて、早くも物寂しい気持ちとなる。与えられた期間は、一週間。いや、まだ一週間ある。ここは前向きに考えよう。一週間あれば、なにができるか。なにをしたいのか。

 ひとり真剣に考え込むが、これといった答えが出ない。それもそうだ。ここでやりたいことが思い浮かぶのならば連日ここには通っていない。自分の無趣味さを恨めしく思って、ついついため息が零れた。すると、それを目敏く拾った宮下さんが首を傾げた。

「どうしました、優斗さん。もしかして、朱音くんがいなくて寂しいとか」

 揶揄うように笑った宮下さんに、そういえばと顔を上げた。あやかしである宮下さんたちが経営するあやかし相談事務所に通い始めてどれくらいが経過しただろうか。いつものように朝一でやって来て、そのままデスクに突っ伏してだらだらしていたから気が付かなかったが、朱音の姿がない。普段、彼が占領している来客用のソファーはもぬけの殻だ。朱音は口数が多い方ではない。だから余計に気が付かなかった。

「……朱音、どうしたんですか?」

 宮下さんを振り返れば、彼は肩を竦めた。

「朱音くんなら、たまった有給休暇を消化したいと言って。しばらくお休みするそうです」
「有給休暇ぁ?」

 思わず耳を疑った僕は悪くない。

「……ここ、有休あるんですね」

 あやかしの経営するあやかしのための事務所である。てっきり人間世界の常識は通用しないと考えていたのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。ひたすら感心していると、宮下さんが僕の発言に「失礼ですねぇ」と眉を寄せた。

「前々から言っている通り、うちは優良企業ですよぉ? 有休もしっかりと保証しています」

 断言した宮下さん。確かに、そんな話を聞いた覚えがある。けれども冗談半分に聞き流していたから、まさか事実だったとは思ってもいなかった。

「有休かぁ。それって僕ももらえますか」
「有給休暇は入社六か月からと決まっていますから」

 ダメ元で頼んでみれば、案の定あっさりと切り捨てられた。優良企業を謳っているだけあってそこらへんの規則はしっかりしているらしい。あやかしの事務所だから人間世界のルールに則る必要はないのでは? というか、知らぬ間に僕が所員のひとりとして当然のごとく数えられているのはなぜだ。毎日のように通っているからか? 仕方がないじゃないか、暇なんだし。まぁ、そんなことよりも。

「朱音、なにしてるんでしょうか」
「さぁ? それは彼のプライベートですので。ちなみに、有休申請のときには諸事情のためって言っていましたねぇ」
「諸事情……」

 便利な言葉である。
 朱音の私生活がなんとなく想像できなくて、興味をそそられた。

 家にいるときもあの不機嫌顔なのだろうか。そもそも、朱音の自宅というのがまず想像できない。僕みたく漫画やゲームが置いてある雑多な部屋なのだろうか。それとも、意外に殺風景だったりするのだろうか。こう考えると、朱音のことをほとんど知らないことに思い至る。あちらは僕のことを多少なりとも知っているようだったが、こちらは知る術がない。これは不公平だ。

 一体、今回の有休はなにが目的なのか。ただ単に消化するためなのか、それとも並々ならぬ事情があるのか。仮に明確な目的があったとして、一体どんな用事だというのか。

「有休、ねぇ」

 気が付けば、そう口に出していた。にやりと、宮下さんが口角を持ち上げた。

「気になりますか?」
「そりゃあ、まぁ」
「だったら朱音くんのところに行って来ればいいですよ」
「え?」
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