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第2話 あやかしだって就職したい!

10 営業許可

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 注文の品を運び終えた店員が再び奥に引っ込もうとしたそのとき。

「……おい」

 低い声が耳に届いて、僕は思わずびくりと体を揺らした。

「あんた、何者だ?」

 朱音が僕に向けるそれよりも断然鋭い目つきで店員を睨みつけていた。自分が睨まれているわけでもないのに、背筋を冷や汗が伝った。

「僕は一応この店で店長をやらせてもらっています。遠藤えんどうです」

 丁寧にお辞儀をした遠藤さんは、困ったように苦笑していた。というか、この人が店長だったのか。釣られるようにして小さく頭を下げれば、遠藤さんがにこりと笑った。人当たりのいい人だ。好意を抱いていると、朱音が対照的に顔をしかめた。

「この店、営業許可取ってるのか?」
「もちろん。きちんと役所で手続きをしましたよ」
「ちょっと朱音。失礼だろ」

 その質問は失礼にもほどがある。なんてことを言うんだと朱音を制止しようとすれば、彼は「違う」と険しい態度をとる。

「現世じゃない。幽世に営業許可の申請はしたのかって訊いているんだ」
「幽世に……?」

 首を捻る遠藤さん。同時に僕はぎょっとした。

 ここで幽世の話をするなんて。普通の人間に突然あやかし世界のことを説明しても理解してもらえない。最悪、ちょっと頭のおかしな奴だと思われてしまう。あやかしの存在を公にしたくないと言っておきながら、どうして矛盾するようなことをするのだろうか。

 怖々と、僕は遠藤さんを見た。けれども、彼はまったく予想外の反応を寄越したのだ。

「え、幽世にも許可とか取らないといけないんですか……?」

 目を見張って、信じられないという顔をする。

「もちろん。俺たちもあやかしの働き口となるとこは把握しておく必要があるので」
「……それは初めて知りました。え、やばいですか?」
「速やかに申請手続きをしてください。やり方は他のあやかしが知ってるでしょ。どうしてもわからなかったらうちの事務所に来てください」

 そう言って、朱音は一枚の名刺を差し出した。ちらりと見えたが、そこにはあやかし相談事務所の連絡先が記されている。

 それを受け取って、遠藤さんは逡巡するように口を閉ざす。完全に僕だけ置いてけぼりにされた。状況がわからず慌ただしく視線を動かしていると、遠藤が空いていた席に腰を下ろした。

「あの! 悪気はなかったんです。その、幽世の仕組みとかよくわからなくて」

 名刺を弄びながら、遠藤はどう切り出そうかと考えているようであった。

「落ち着いてください。俺も責めてるわけじゃありませんから。俺はあやかし相談事務所の朱音です。こちらは同じく従業員の優斗です。まずは、事情を説明してもらえませんか?」

 僕たちふたりと手元の名刺を見比べて、遠藤さんはこくこくと頷いた。
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