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第2話 あやかしだって就職したい!

2 喫茶店にて

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「いかにもって感じの個人商店だな。これ近いうちに潰れたりしないか?」

 大量の求人情報を漁っていると目がチカチカしてくる。パソコンの大きな画面ではなくスマホの小さな画面で見続けたからなおさらだ。それでも朱音に頼まれた通り人との接触が少ない職をピックアップしてリストを仕上げた。その中から朱音がさらに絞り込み、宮下さんひとりを事務所に残して、僕と朱音は調査に出ていた。

 たどり着いたのは、寂れかけた商店街の一角に位置する小さな喫茶店。時の流れを感じさせる木造建物を見上げて、朱音が身も蓋もない感想をこぼした。ちなみに朱音の口調が砕けているのは彼の上司である宮下さんがいないからだ。

「……ここから、どうするの?」

 朱音に言われるがままついてきたがこれといった手順を聞かされたわけでもない。隣に立つ朱音を見上げれば、彼は喫茶店に近づいて窓越しに中を覗き込む。きれいに磨かれた窓ガラス。中の様子は容易に窺うことができるだろう。

「客はいないな」

 昼食時を少し過ぎた頃。ちょうどお客が捌けた時間帯なのだろう。大きな窓から光を取り込んでいる店内は、自然な明かりに包まれていた。朱音の横にならんで窓を覗けば、確かに人影は見当たらない。

「……優斗さん」
「な、なに?」

 突如として朱音が真面目な口調でこちらを見据えてくる。なんだろう。でも、いい予感がしないのだけは確かだ。普段、僕をぞんざいに扱う朱音だ。こういうしおらしい態度のときはろくなことを考えていない証拠だ。

「ちょっと中の様子探って来てもらえませんか」
「僕ひとりで?」

 案の定、朱音はこくりと頷いた。

「なんで僕なんだよ。朱音の方が仕事には詳しいだろ」

 だからあんたが行くべきなんだと諭すが、朱音は頬を掻くばかりであまり乗り気ではないようだ。

「俺、あやかしなんで。ここで働いてる人間があやかしを受け入れてくれるかどうかなんてわからないですし」
「僕もわからないけど?」
「優斗さんは同じ人間じゃないですか」

 だからなんだ。

 種族が同じだからといって考えていることがわかるということは断じてない。ちょっとばかし僕に期待しすぎではないか。いくらなんでも一目見てあやかしを信じる人間かどうか見分ける特殊能力なんて持ち合わせていない。そう抗議するも、朱音はどこ吹く風である。

「ほら、さっさと行って来てくださいよ。俺は優斗さんと違って暇じゃないんですからね」
「僕だって暇じゃないし!」
「暇でしょ。家に帰ってもだらだらゲームするだけじゃないですか」

 なんなんだ、こいつは。なんで相変わらず僕の行動パターンを把握しているのか。いや違う。僕の行動パターンが単純なだけか。腹が立ったが、悲しいことに暇なのは事実なのでそれ以上の反論が思いつかない。仕方なく、僕は入り口のドアに手をかけた。せめてもの仕返しにと朱音を睨みつけるが、彼は涼しい顔をしてひらひらと手を振ってくる。

「じゃ、俺ここら辺で待ってますんで」

 お気をつけて。そう無責任に言い放つ朱音の顔に石でもぶつけてやりたくなった。
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