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第1話 あやかしだって恋愛したい!
15 来客
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「おや、お客さんですね」
「きっと和之さんです! 慌てて逃げてきたから」
呑気に首を巡らす宮下さんに縋るような目を向ける雪乃さん。しきりに朱音が僕の脇腹を小突いてくるが、意味がわからない。困惑していると、とうとう朱音が「出てこい」と苛立たし気に僕を促した。
なんで僕が。目を見張って抗議するも、ひと睨みされて終わってしまう。
仕方なく、僕は立ち上がった。雪乃さんと宮下さん、そして怖い顔の朱音は頼りにならないと判断したのだ。決して朱音の迫力に負けたわけではない。でも、一応家主である雪乃さんには許可をもらう。
「お願いします、優斗さん。私は留守だと言ってくれていいので」
「いや、それはちょっと。だったら僕は誰なんだってなりますよ」
「雪乃さんの弟ということにすればいいですよぉ」
無責任なことを言うのは宮下さんだ。その案は緊急事態に陥ったら採用させてもらおう。
「ほら、行こう」
「……は? なんで俺が」
「ひとりは嫌だ」
最後の抵抗とばかりに朱音の腕を掴めば、あからさまに嫌な顔をされた。だけど、僕も引くわけにはいかない。だいたい僕がどんな顔して和之さんに会えっていうんだ。ひとりじゃ無理。
「ほら早く!」
強引に押し切れば、朱音が重い腰を上げた。僕の頼みを聞いてくれたわけではない。宮下さんに威圧されたからだ。
渋る朱音の腕を掴んだまま、玄関へと向かう。
「いま開けます」
ドアの向こうにいたのは、若い男性だった。和之さんだ。よほど雪乃さんとのことがショックだったのだろうか。見るからに疲労困憊している。
「あ、あれ? 雪乃さんは」
「あ、えっと」
雪乃さんに頼まれた通り、留守にしていると伝えるべきだろうか。迷っているうちに、和之さんが眉を寄せた。
「……どちら様ですか?」
「ゆ、雪乃さんの弟です」
「おい」
朱音が小声で窘める。間違いに気付いたのはその後だ。弟なのにさん付けはおかしいか。訂正しようと口を開くも、和之さんが不審者を見るような目をしていた。
「雪乃さんに兄弟はいないって聞いていたんですけど。あなた、誰ですか?」
おい、話が違うぞ。適当なアドバイスを投げた宮下さんを恨んでも、もう遅い。これは完全に不審者認定された。助けを求めて朱音を見れば、自分は関係ないと言わんばかりにそっぽを向いていた。
「えっと、すみません。雪乃さんのちょっとした知り合いです。あの、和之さんですよね?」
こうなったら腹を括るしかない。多少強引ではあるが、話を進める。
「そうですけど……」
「あの、雪乃さんに伝言を頼まれていて」
「伝言を? 雪乃さんがあなたに?」
「はい。その、あなたはどうして、ここに来たんですか?」
沈黙が下りた。
「どういう意味ですか?」
様子を探るように、和之さんが目を眇める。
「雪乃さんが心配で? それとも、おもしろがって?」
和之さんを見上げれば、彼が目を吊り上げるのがわかった。
「心配してに決まってるでしょう! なんでおもしろがる必要があるんですかっ」
その言葉だけで、十分だった。
「きっと和之さんです! 慌てて逃げてきたから」
呑気に首を巡らす宮下さんに縋るような目を向ける雪乃さん。しきりに朱音が僕の脇腹を小突いてくるが、意味がわからない。困惑していると、とうとう朱音が「出てこい」と苛立たし気に僕を促した。
なんで僕が。目を見張って抗議するも、ひと睨みされて終わってしまう。
仕方なく、僕は立ち上がった。雪乃さんと宮下さん、そして怖い顔の朱音は頼りにならないと判断したのだ。決して朱音の迫力に負けたわけではない。でも、一応家主である雪乃さんには許可をもらう。
「お願いします、優斗さん。私は留守だと言ってくれていいので」
「いや、それはちょっと。だったら僕は誰なんだってなりますよ」
「雪乃さんの弟ということにすればいいですよぉ」
無責任なことを言うのは宮下さんだ。その案は緊急事態に陥ったら採用させてもらおう。
「ほら、行こう」
「……は? なんで俺が」
「ひとりは嫌だ」
最後の抵抗とばかりに朱音の腕を掴めば、あからさまに嫌な顔をされた。だけど、僕も引くわけにはいかない。だいたい僕がどんな顔して和之さんに会えっていうんだ。ひとりじゃ無理。
「ほら早く!」
強引に押し切れば、朱音が重い腰を上げた。僕の頼みを聞いてくれたわけではない。宮下さんに威圧されたからだ。
渋る朱音の腕を掴んだまま、玄関へと向かう。
「いま開けます」
ドアの向こうにいたのは、若い男性だった。和之さんだ。よほど雪乃さんとのことがショックだったのだろうか。見るからに疲労困憊している。
「あ、あれ? 雪乃さんは」
「あ、えっと」
雪乃さんに頼まれた通り、留守にしていると伝えるべきだろうか。迷っているうちに、和之さんが眉を寄せた。
「……どちら様ですか?」
「ゆ、雪乃さんの弟です」
「おい」
朱音が小声で窘める。間違いに気付いたのはその後だ。弟なのにさん付けはおかしいか。訂正しようと口を開くも、和之さんが不審者を見るような目をしていた。
「雪乃さんに兄弟はいないって聞いていたんですけど。あなた、誰ですか?」
おい、話が違うぞ。適当なアドバイスを投げた宮下さんを恨んでも、もう遅い。これは完全に不審者認定された。助けを求めて朱音を見れば、自分は関係ないと言わんばかりにそっぽを向いていた。
「えっと、すみません。雪乃さんのちょっとした知り合いです。あの、和之さんですよね?」
こうなったら腹を括るしかない。多少強引ではあるが、話を進める。
「そうですけど……」
「あの、雪乃さんに伝言を頼まれていて」
「伝言を? 雪乃さんがあなたに?」
「はい。その、あなたはどうして、ここに来たんですか?」
沈黙が下りた。
「どういう意味ですか?」
様子を探るように、和之さんが目を眇める。
「雪乃さんが心配で? それとも、おもしろがって?」
和之さんを見上げれば、彼が目を吊り上げるのがわかった。
「心配してに決まってるでしょう! なんでおもしろがる必要があるんですかっ」
その言葉だけで、十分だった。
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