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第1話 あやかしだって恋愛したい!

10 一緒に働きましょう

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「あの、宮下さん」
「はいはい、なんですか。それにしても、どうしたものか。どうしたら私たちあやかしの存在を信じてもらえます?」
「正直、なにを言われても信じる気にはなれないです」
「言いますねぇ。そういうキッパリしたところ、素敵ですよぉ。うちで働くにはやはりそれくらいの度胸がないと」

 ん? 働くだって? 誰が、どこで?

 ぽかんと口を開けていると宮下さんはからりと笑った。

「いやだなぁ。優斗さんがうちで働くんですよ。朱音くん、そんな基本的なことも説明せずに出て行ったんですか? まったく困った部下ですよ」

 全然困っていないような軽い口ぶりで、宮下さんはひらひらと手を振った。

「先程も言ったように、あやかしが現世に出てくることでトラブルが生じるんです。それに上手く対処しないと、あやかしの存在が公になって大変なことになります。ここまではわかりますか?」
「それは、まぁ」

 なんとなく理解できるが、僕はまだ宮下さんたちがあやかしであることを認めたわけではないぞ。

「そこで、私たちあやかし相談事務所は人間とあやかしの仲介を上手くやる必要があります。しかしですねぇ、言っても私たちはあやかしでしょ? どうしても、人間の考えることがわからないといいますか。人間の常識は私たちにとっては非常識みたいなことも多々ありまして」

 要するに、考え方の違いでいろいろ苦労しているらしい。人間にも、国や宗教によって様々な違いがある。感覚的にはそれと似たようなことだろうか。

「そこで、事務所で人間を雇えばいいという結論に落ち着きましてね。あやかしに理解のあるお方を探していたんですよぉ」
「……僕以上にあやかしに理解のある人なんて他に大勢いますよね?」

 どちらかと言えば、僕はそういう非現実的なことは断固否定する派の人間だ。
 宮下さんが、わかりやすくむせ返った。

「いや、失礼。言葉の綾ですよ。あやかしに馴染めそうなお方を探していたというか、なんというか。えっと、正義感の強いお方でしたっけ?」
「宮下さん」
「別に怪しいことなんてなぁんにもありませんよ? 私はただ、優斗さんの人柄に惚れたといいますか。優斗さんしかいないと思ったので。ほら? 私たちあやかしですからね。こう、魂とか前世とか。そういうなんやかんやを含めてですね――」

 怪しいことこの上ない。
 右往左往する様は、不審の塊だ。

 冷めた目を向けると、墓穴を掘っていることに気が付いたらしい宮下さんが場を取り直すように咳払いをする。

「とにかくですね。後で朱音くんを寄越しますから。詳しい業務内容については彼から聞いてください」
「なんでも質問してって言ったじゃないですか」
「部下を育てるのも私の仕事ですからねぇ。上司である私が出しゃばるのはよろしくないでしょうし。ここは可愛い部下である朱音くんに譲ることにしました」
「その朱音って人と会話できる自信がないんですけど」

 正直に言えば、宮下さんは肩を竦める。というか、どうして僕が宮下さんたちと会話する気でいる前提で話を進めるのか。

「私はこれで失礼します。お皿は申し訳ありませんが、後片付けお願いしますねぇ。あ、面倒だったら後から朱音くんが来ますから、彼に押し付けてもいいですよ。それでは」

 さり気なく部下に雑用を押し付けるあたり、この男は相当な屑かもしれない。最後まで飄々とした態度で応じた宮下さんは、ひらりと手を振ってリビングを出て行った。

 そういえば、どうやって家に侵入したのか尋ねるのを忘れた。玄関まで駆けつけて、僕は間の抜けた声を上げる。

「え、なんで鍵閉まってんの?」

 まさかまだ宮下さんがいるのだろうか。

 けれども、他に人の気配はないうえに玄関にも彼の靴はない。まさか窓か。慌てて家中の窓を確認してまわったが、二階にある僕の部屋以外、どこもきっちりと施錠されていた。まさか二階から出入りするはずはない。

 一体、彼はどこからやって来たのだろうか。

 そのうちありえない想像をして、僕はひとり顔を青くした。
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